アーメン・ラーメン・イカソーメン

文字数 1,748文字

 仕事を片付け、凝り固まった体を解して会社を出る。訳も分からぬままに移動させられたから、詳しいことを聞きに行きたい。しかし、あの生き物との会話は疲れる。いくら全回復したとしても、あの生き物と関わったら全てが無駄になる。なにより、さっさと着替えて休みたい。ベッドでダラダラゴロゴロしたい。

 電車に揺られて帰宅。部屋着に着替え、ベッドに横たわる。柔らかなマットに身を委ねれば、そこには暖かな夢の世界。ベッドこそが寝る場所であって、会社の椅子は別物だ。

 目を覚ませば空は暗く、買い物に出るのも面倒になった。幸い、食料は買い込んでおいたので買いに出る必要もない。だから、録り溜めた番組を眺めながら、だらけたネットサーフィンも可能だ。

 録画した番組を順に再生し、ネットサーフィンしながら菓子を食う。それにしても、なぜネットサーフィンしながらの菓子は旨いのか。旨いからこそ、片手で食えるポテチが売られたのか。あれ、他のパッケージでも切り口を小さくすれば大差ないんじゃないか? どうせ、そんな食べ方をする時は、他人が居ない時だろうし。

 ついついアルコールに手が伸び、しょっぱく固いスルメやジャーキーが旨い。録画した番組はまだまだ続き、ネットサーフィンは飽きない。ぼっちだから出来る贅沢、生産性とやらは知らぬ構わぬ顧みぬ。くたばれ、苦労知らずのジジイ達。

 そうして、怠惰な時は過ぎ、ぼんやりとした眠気が襲ってきた。このまま寝たら気持ち良いだろうが、起きた後で体の節々が痛むだろうし安眠も出来まい。ついては、レコーダーとテレビを消して寝る支度をしよう。そう考え、リモコンに手を伸ばした時だった。有名なホラー映画よろしく、テレビ画面から白いものが這い出てきた。

 突然のことで体は動かず、疲れで幻影を見たのだろうと考えた。目を瞑って、数秒してから開く。教会で出会ったあの生き物が眼前に居た。近い、ウザい、暑苦しい。

「早速だが仕事だ」
 そう言って、ロザリオを押しつけてくる生き物。ロザリオには、歴史の教科書で見た様な紐が玉付きで繋がっている。

「変身の為の呪文を教える」
 いや、変身呪文ってなんだ。変身が前提か。

「アーメン、ラーメン、イカソーメン」
 なんだその、僕イケメン、みたいな呪文は。宗教的に大丈夫なのか。

「リピート、アフター、ミー! アーメン、ラーメン、イカソーメン!」
 謎の生き物が、より顔を近付けてきた。怖いきしょい鬱陶しい。転移し放題なコイツからは逃げられないし、仕方ない。

「アーメン、ラーメン、イカソーメン」
 刹那、手渡されたロザリオが光った。その光は段々と広がり、良く分からない状況のまま目を瞑る。一瞬体が軽くなり、涼風感じると共に違和感を覚えた。

「やっぱり、変身は若い娘に限るな」
 不快な言葉を耳にしつつ、恐る恐る目を開く。謎の生き物と言えば、少し離れた位置からこちらを見ていた。

「とにかく、先ずはオリエンテーションだ。低級とは言え、相手は悪魔憑きだから油断するなよ?」
 展開について行けない。しかし、逆らっても良いことは無いのだろう。アイツ、何がどこまで出来るか判明していないし。

「ああ、そうそう。変身時は身体能力が上がっているからな。不摂生かつ運動不足なお前でも、攻撃から身をかわす位なら楽勝だ」
 言われて、体を軽く動かしてみた。確かに軽やかに関節が動く。林檎が有ったら潰せるか試してみたい。

「後は現地で説明する。やりながらの方が説明しやすいからな」
 生き物が言った直後、転移魔法が発動した。悪魔祓いと言うからホラーゲームの様な展開を予想したが、どうやら違うらしい。多分、アパートの一室。そして、臭い。アンモニアの刺激臭に卵の腐った様な臭い。反射的に口元を手で覆う。知らぬ間に白手袋をはめていた。しかも、手首の周りがレースだ。魔法少女アニメで良く見るタイプの手袋。嫌な予感がする。

 慌てて自分の着ている服を見た。袖がふわっとしたワンピースに、腰の高さで締められたコルセット。いや、コルセットは服の中に着るんだったか? いや、重要なのはそこじゃない。変身するって、衣装が可愛い女子にしか許されないやつか!

「目がイッてるババアが来たら唱えろ。グロリア、グラタン、エビドリア
 だから何だよ、その呪文。
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登場人物紹介

社畜
流されやすい会社員

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