卵は再生の象徴?

文字数 1,443文字

 ともあれ、変身解除……の前に、一応鏡を見るか。と、洗面所へ向かい、速攻で変身解除呪文を唱えた。変身呪文って怖いな。

 翌日、謎の生き物が言ったとおり、テーブルに朝食が用意されていた。オムライスにサラダ、オニオンスープまである。しかも、オムライスにはケチャップで「おはよ」と書いてある。なんだ、この手間の掛け方。なんにせよ、ありがたく頂く。オムライスの玉子がトロトロで美味。オニオンスープは程良くしょっぱい。サラダは、チーズが適量混ぜられていて良し。こんな朝食、ホテルで位しか食べた事がないな。うん、なんだか悲しいな。

 食器は洗い、乾かしておく。謎の生き物が勝手に回収するだろうが、洗わないのも気が引けた。これが出前の食器だと、洗剤の臭いが付くから嫌がられるらしい。だが、洗わずに放置するのも落ち着かない。いや、変な契約をしてしまってから、落ち着かないことが増えた。加齢で鈍感力はアップするらしいが、今はどれ位アップしたのか。それを考えるのは電車でも出来る。むしろ、満員電車はそれ位しか出来ない。

 出社し、仕上げた仕事を提出。期限の近い仕事から取り掛かる。腹が満ちていると、調子が良い。だからと言って、自分であのレベルのメニューを毎朝作るかと言えばノーだ。せいぜい、タイマーセットしたご飯に何かを乗せ、即席味噌汁を作る程度。料理好きでない独り身なんてそんなものだろう。

 トラブルも無く時は過ぎ、少し残業をしてから帰宅。謎の生き物が沸いて出ないことを祈りながらスーツを脱ぐ。全回復しても、一日働くと疲労は溜まる。そもそも、全回復の基準が不明だ。ゲームと違って、体力は数値化されない。せいぜい、体温や身長体重、BMI。視力に聴力、血圧に血液成分。それらの数値から健康度合いをランク付けする位か。血液サラサラかドロドロか。ドロドロならば毒状態。それも治す全回復。うん、あの生き物に説明する気が有れば早いんだがな。聞いたところで求める答えが返ってくる気がしない。

 安くなっていた惣菜をテーブルに並べ、箸を用意。どうやら、使用済みの食器は回収された様だ。朝ご飯のオムライスを思い出しながらコロッケを食べる。何時もの油と衣と芋の味。しかし、今日は妙に味気ない。人間、美味しい料理を知ってしまうと、それが基準になるのだろうか。

 寂しく侘しい夕食を終え、ニュースをチェックしながら考える。あの生き物の目的はなんなのか。あれだけの能力があるなら自分で悪魔とやらをどうにか出来ないのか。そもそも、悪魔って何だ。検索して結果を読んだところで、どれを信じて良いのか分からない。悪魔祓いなんて、どこか外国の……でもなかったな。酷いババアが居たもんだ。このババアを信じて子供をいたぶった夫婦も酷い。そう言えば、転移したから場所すら分からないが、あの後はどうなったんだ。

 考えるのは止めだ。考えたところで答えは決まっている。あの出来事を話しても、信じる者など居ない。何より場所が分からないから調べようもなければ通報も出来ない。自分は、ただの無力な人間でしかない。さて、明日も仕事だし寝る為の準備をしよう。

 その後、何事もなく時は過ぎ、謎の生き物のことは夢だと思い始めた。本当に夢であるならば変身アイテムも無いはずだが、そこは目を反らしておく。

 やるべき仕事を片付け一息つく。染み渡るカフェイン、目に染みる目薬。伸びれば謎の音を奏でる関節。それが、特化した才能無き社会人の日常。謎の生き物に考えを乱されてなどいられるか。
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登場人物紹介

社畜
流されやすい会社員

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