目指せムキムキ

文字数 1,718文字

 変身時のレベルアップが済んでから幾らかして、あの生き物が現れた。

「仕事だ、変身しろ」
 言われるがままに変身し、美肌補正された腕や脚をちらっと見る。変身魔法とは、実に不思議なものだ。

「今回の仕事は少し厄介だ。しかし、怪我くらいなら教会で回復出来るから気にするな」
 いや、回復出来ても気にはする。回復するにしたって、痛いものは痛い。

 そうして、謎の生き物によって知らない場所に飛ばされ、こちらも飛ばされた。背中側が熱い。第二撃が来る、逃げなければ……と言うか、レベルアップするなら防御面に振れよ!

 ギリギリ避けたが、硬い物が砕ける音がした。あと、血の匂いもする。第三撃、相手の動きが鈍くなってきた。しかし、捨て身の攻撃か、頭から突っ込む形できた。倒れ込んで転がって回避。一応、身体能力は上がっている様だ。床にぶつかった体の部分と言う部分が痛い。

 後先考えずに頭から突っ込んだ相手は、盛大に頭を壁にぶつけたらしい。額はぱっくり割れ、顔面は血で赤く染まっている。それでも攻撃する意思は弱まらないらしく、こちらを向いた。最早、悪魔憑きと言うよりゾンビ。

 手を振り回しながらの第四撃、武器でも盾でも装備品ねえのか。「ひのきのぼう」でも「なべのふた」でも、有った方が……いや、なべのふたは逆に指を傷めそうだな。上がっている身体能力を頼りに横に回避。勢い良く回していた手は壁に当たり、鈍い音を立てた。

「何時まで遊んでいるつもりだ?」
 謎の生き物が問うてくるが、遊んでいるつもりはない。呪文を唱える余裕が無かっただけだ。攻撃を避けながら唱えるには、長いんだよ呪文。

 そうこうしている内に第五撃。助走してからの跳び……損ねて自爆しやがった。いや、謎の生き物が触手で罠を張りやがった。ともあれ、さっさと呪文を唱えよう。

 謎の生き物は、素早く駒を回収。そして、教会へ。苦労はしたが、あれも雑魚のうちらしい。単純攻撃しか出来なくとも、憑いた人間の体格が良ければ破壊力も上がる。しかも、その体が壊れようが、壊れきったら捨てれば良いだけ。だから、痛みや後のことなど考えない攻撃をしてくるそうだ。

「今回の仕事はこれで仕舞いだ」
 そうして消える体の痛み。本当に全回復出来るのか。怪我をしないで済む方が良いには変わらないが。

「朝食と共に筋トレ本を届ける。少しは鍛えてみろ」
 若干腹のたつ言葉と共に魔法を発動させる謎の生き物。筋トレをしたら、楽々あれをどうにか出来るのだろうか。ムキムキになるのも憧れてはいた。しかし、それを維持する為の運動量、生半可な気持ちではどうにもならない。

 翌朝、朝食と共にプロテイン粉末付きの雑誌が転送される。まさかの雑誌。そして、雑穀入りパンにスクランブルエッグ、厚切りベーコンにサラダ、温かなスープにザ○ス。なんだこの、とりあえずプロテイン。摂取したからには運動しろってことか。

 ザ○スは夜に飲むことにして冷蔵庫にしまう。朝の忙しい時間に、プロテインを必要とする運動は出来ない。いや、やっている人は居る。だが、いきなりやれと言われても時間の調整がきかない。夜に腹筋背筋、腿上げ柔軟、器具も必要なく静かに出来る筋トレをし、喉が乾いたらザ○スを一気。楽さや簡単さも、筋トレを続ける要因の一つだ。

 謎の生き物の言いなりになるのも癪だが、軽い運動をしてザ○スを飲む。さっぱりとした喉越しにレモン的な酸味。これで簡単に鍛えられるとは思わないが、飲まないよりは回復も早いのだろう。雑誌も、一応読んでおくか。

 軽い運動を習慣にしてから、体が軽くなった気がする。体重を確認してはいないが、だるさが軽減した。勿論、運動したら疲れはする。しかし、その回復をプロテインが手助けする。使いどころが肝のプロテイン。あなどってはいけない。

 体力的にアウトな状態で教会に辿り着き、そこで全回復の契約をした。魔法による全回復は楽だし一瞬だ。だが、普段の生活に気を付けていれば、そうでない時より健康的。とんでもない経験をするまで気付かなかったが、それが真実。とんでもない契約から始まった健康生活、契約が満了するまで謎の生き物との関係は続く。俺の社畜生活はまだ始まったばかりだ。
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登場人物紹介

社畜
流されやすい会社員

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