卵リターンズ

文字数 1,129文字

 謎の生き物は、どこから取り出したのかカメラで写真を撮り始めた。しかも、シャッター音がバシバシ出ている。そのせいか、漫画に出てきがちな、如何にもな体育教師がこちらに気付いた。しかも、竹刀を握りやがった。

 体育教師、こちらに向かおうとして転んだ。無理もない。ジャージを膝下まで下げていたからだ。体育倉庫で何やっていたんだよ、このジジイ。
 ジジイは、竹刀を杖に立ち上がろうとした。が、ジャージがそのままなので再度倒れる。謎の生き物と言えば、その無様な姿まで写真におさめ、横目でこちらに合図を送ってきた。

「グロリア、グラタン、エビドリア!」
 前回と同様にロザリオから何かが飛び出し、起き上がろうとしているジジイの胸元を貫いた。謎の生き物と言えば、落ちた竹刀を素早く取り上げ、ジジイを後ろから貫いた。そして響くシャッター音。アイツは、本当に何をやっているんだ。
 様々な角度から撮影した後、謎の生き物はジジイの体に触手を這わせた。シュールな光景だが、笑ってはいけない。

「仕事完了だ」
 その一言を終えるや否や、謎の生き物は転送魔法を使った。そして、前回より濃い色をした駒を、触手でいじり回しながら息を吐く。

「報酬の全回復だ」
 一気に楽になる体。そして、一人転送される体。前回より扱いが雑になっている。まるで、「週二日から」を信じて応募したら「休みは多くて週二日」へとシフトしていく仕事の様だ。

 ともあれ、体が軽くなるのはありがたい。若い頃なら寝れば回復した疲れも、今や溜まるばかりですっきりしない。カフェインで覚醒しても一時しのぎ。ビタミン剤も、気休めみたいなものだ。それでも、摂取した方が良い時もある。

 翌朝、テーブルに朝食が届けられていた。チャーシュー入りのチャーハンに点心。それから、琥珀色のスープに苦そうなお茶。朝から中華である。いや、冷や飯を温めるのにチャーハンは簡単で良い。チャーハンを上手くパラパラにするには技術が要る。しかし、それは金を取る店なら必要なのであって、自宅で食べるチャーハンならば塩胡椒が混ざりさえすれば良い。

 レンゲでチャーハンを掬い、口に運ぶ。卵のフワフワした食感と、チャーシューの塩加減がアクセント。点心は、まあ冷凍物だろうな、流石に。スープは、チャーハンの元に付いてくる様な、ある意味で馴染みの味だ。ただ、お茶だけは飲み慣れなかった。わざわざ購入することはないだろう苦いお茶。

 食後、茶葉を生ゴミ入れに捨て、食器を洗う。朝から中華は胃がもたれるかと思ったが、苦いお茶のおかげかなんともない。むしろ、血の巡りが良くなった気さえする。実際、仕事も捗った。悔しいが、全回復後の日は仕事が早く終わる。それだけ、体調は仕事の質を左右する様だ。
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社畜
流されやすい会社員

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