亀裂

文字数 3,324文字

この時二人に亀裂が走った。

亀裂が走り、二人は対面した。



人間と吸血鬼…


両者交わる事がない種族同士の立ち位置。

…しかもそれが、


かつてのエヴァンから学び、育てた教え子と、


教え子を魔物の手から救い、育てた師との、


なんとも皮肉な運命をたどった二人の立ち位置だった。


「…………」

エヴァンはレオの方を向かず、ずっと冷たい目線で、無言で遠くを見ていた。


所詮レオ(弟子)と自分は違う。

生き様も違うし、種族も違う。

レオは汚れた経験(殺し)を持っていないし、魂も汚れていない。


私(自分)は人とは違う。

人とは違い、人間ではない。

やっと振り切れたよ、レオ。


私はこれから人間としての心を捨て、吸血鬼として生きる。

そして、人間を凌駕し、従い、争いの時代の中で生きよう。

そうエヴァンは心の中で決意し、エヴァンの瞳には憎しみの色で際立っていた。

そしてあの頃、魔物にミシュランを殺され、憎しみに囚われていた子供の頃の瞳に戻り、目は殺伐とした鋭い目付きになり、ただひたすら前を向いていた。


「…………」

ハーバーはエヴァンの顔をジッと見て、顔をニヤけ、にんまりとした。

そしてエヴァンに向かって改めてこう言い、


「ようこそエヴァン…、

こちら(魔)の世界に…


我々、魔族は、

君を歓迎するよ、エヴァン…」


そう言い、ハーバーはエヴァンの肩に手をやり、エヴァンに対して、歓迎の姿勢をとった。


「……先生」

レオは下を向き、戦意喪失しながらもエヴァンの名前を呼んだ。

エヴァンはずっと無言で遠くを見ていた。

だが表情は殺伐とした顔をしており、誰も近寄り難く、昔の騎士団時代に属していたエヴァンの顔に戻っていた。


そんな中、ハーバーはエヴァンに声をかけ、

「…やっと、昔の貴方に戻りましたか…

エヴァン。



どうですか?

今の貴方の感じじゃ、人間の命でさえも、虫けらのように殺せそうでしょう?」

「…………」

ハーバーがエヴァンに向かってそう言うと、エヴァンは無言で、ただ真っ直ぐ、鋭い目をしながら前を向いていた。

ハーバーは尚且つ、そんな表情をしたエヴァンに話をかけ、


「貴方はどの道、もともとこちら側(魔族)の者なのです。



多くの命を奪ったのでしょう…



人間の命が対象でなかったとはいえ、自分の欲のために生き物をなぶり殺しにしてきた貴方ですから、
さぞやその両手には血で汚れ、魂も汚れているでしょうね…

クックックッ…」

そうハーバーがエヴァンに向かって言うと、エヴァンは静かに目を閉じ、昔の自分を思いだし、映像が頭に流れた。




何千何万の化け物の中で、ただひたすら返り血を浴びながら、戦い続けるエヴァン。

人間相手では、直ぐに体が壊れ、勝負にもならなくて、物足りなさを感じ、皆に恐れられ、拒絶させられていた。


あいつは人間の皮を被った化け物だ。

そのうち人間も襲い、取って喰うぞ。

あいつは魔物だ。

人間ではない。


そう同じ人間の、騎士団達でさえ彼を人間扱いをしておらず、彼は一人孤立し、孤独を感じていた。


だが、そんな中で、
同じ騎士団のパートナーの中の、相田コウ、

そしてエヴァンの妻の妃のティファー、

そしてレオ……


…………


………


彼らがいてくれたから、私は人間らしくなれた。

人間らしく感情も芽生え、今日、こんにちまで私は生きてきた。




…でも、


自分の身体が吸血鬼になり、吸血衝動に耐えられず血をすするエヴァンを見て、驚愕な目で見られて、
その行動を受け入れられない顔をし、拒絶するレオ。

エヴァンの心はガタガタに崩れ落ち、底無し沼に落ちて、もう彼らの世界(人間)には戻れないと思った。

そしてエヴァンはもう一度ゆっくりと目を閉じ、考え事をしていた。


そして、自分は…

……



と、問い、無言で目をあけた。

「…………」


スッ…


エヴァンはその場でゆっくり目をあけ、前方を見た。

すると、その横にはエヴァンの顔をジッと見るハーバーがたたずんでおり、鋭い目付きをしてるエヴァンに向かってこう言ってきた。それは、

「…せっかくの所、感傷に浸ってる所で悪いのですが、こちら(魔)の世界に来るにあたって、一つ貴方に確かめとかなくてはならない事がありましてね。」


「…………」

エヴァンがハーバーの言葉に対して無言で聞いていると、ハーバーは話を続け、

「貴方が本当に人間の心を捨て去り、吸血鬼として生きるのか、本当の貴方の気持ちが知りたくてね…


それでちょうどいい試しになる物があって、その事を使って貴方を試してみたいんですよ」


それを聞いたエヴァンは、機嫌が悪そうな顔をして、ハーバーに向かって、

「…レオの命ですか?


…フンッ


何故私がこんな戦意喪失な子供を、直接私の手で下さなくてはならないのですか?

こんな力もなく、非力な人間の子供に…」


それを聞いたハーバーはエヴァンに向かってこう答えた。
それは、

「弟子だからですよ…


貴方達長い付き合い、尊敬しあっていた仲じゃないですか…

だからこそ、その者を殺し、貴方は完全に人間の心を捨て、こちら(魔)の世界に完全に来れる訳です」


それを聞いたエヴァンはムスッとした声を出し、ハーバーに向かって、


「…フンッ!

尊敬ですか?

…フッ、

その弟子が私に対して何をしたか解りますか?

私の心を乱し、拒絶した、裏切者の子供ですよ…


何故そんな子供相手に、私が…」



「………」


この時ハーバーは、ただひたすらエヴァンを睨み、無言でただジッとエヴァンを見た。
そして、ハーバーは、エヴァンに向かって、


「…では、貴方にとってレオは、手を下すまでもない相手だと言いたいのですね…

結論として…」

それを聞いたエヴァンは、悪態をついたような顔をして、ハーバーに向かって、

「…そうですよ、私が手を下すまでもない」

と、ハーバーに向かって、鼻で笑うような態度をして、エヴァンはその申し出を断った。



「…………………」

ハーバーはエヴァンのそのレオに対しての悪態の態度を見て、ギロッとエヴァンに対して無言で睨みながら、

「………わかりました。


貴方にとってレオは、そのような殺すまでもない相手だと言う事ですね…」


と、この時ハーバーは、エヴァンに対して疑心暗鬼しながらも、レオ抹殺の指示を諦め、エヴァンに向かってその事について折れた。



「…ただ」


「ただ?」

この時エヴァンは、ハーバーに向かってレオに対して何かまだあるような言い方をした。

そしてエヴァンはレオの方に無言でコツコツと歩いて行き、ハーバーに向かってエヴァンはレオに対してこう言った。

それは、

「…二度とレオが私の事を、先生と呼ぶ事がないように痛めつけておく必要があります。


私の事を先生と、ね…」

そう言い、ハーバーに対してエヴァンは言い終わると、エヴァンは右手の爪をぎゅっと剥き出しにし、レオに向かって上に構える姿勢を促した。


そしてエヴァンは鋭い目付きをしながらレオに向かって、右手に力を入れながらレオに向かって鋭い爪を振りかざし、


そしてそのまま下に手を下ろし、レオを切り裂こうとした、



その時だった!



バァン!!!!!!!


「!!?」


突然レオ達の前に、巨大な光の壁が現れ、エヴァンの鋭い爪を弾いた。


「!?」

そしてその巨大な光の壁が徐々に人形の形となり、長い髪の金髪をした一人の女性の姿が現れ、その女性はエヴァンに向かってこう言った。


それは、

「…堕ちたわね、エヴァン…。


弟子に手をかけるなんて…」


巨大な光の壁から姿を型どった、

それはエヴァンの妃であり、ハーバーに時空間に幽閉されていたカルベロッカの血をひく王女ティファーだった。
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