別れ

文字数 4,659文字

…お別れだ、レオ。


「…え?」

レオはエヴァンの突然のその言葉を聞いて、耳を疑い絶句した。

レオは、
先生、突然何を言ってるの?

別れってどういう意味?

と思いエヴァンの方を見た。

エヴァンは深刻な顔をして、レオに、

「…いいですか、レオ。
今の二度の私の意識をとり戻した行動で、仮面の魔族は、より君を警戒し、恐れるでしょう。
そして、さらに君を危険対象と見なし、全力で潰しにかかるでしょう」

「これがどういう意味か、わかりますか?レオ…」

エヴァンは少し間をあけ、レオの顔を真剣に見た。
そしてレオの顔を見て忠告し、重い口を開いた。




「2対1…、

今度は仮面の魔族も戦いに参戦し、君を潰す。

そしてまた、私の身体を使って、君を…、

殺す」


「え?」

レオは驚いた表情をして、エヴァンの顔をより見た。
エヴァンはそんなレオの表情を見て話を続け、


「私の身体は吸血鬼…、
たとえ一時期意識が戻ったとはいえ、また操られ、闇に堕とされるでしょう。

そう、まるで何度も何度も私の身体を使い、いたちごっこのように…ね」


「!」

レオはエヴァンのその言葉を聞いて顔がこわばり固まった。
レオは、この時、頭が真っ白になり、え?なんでと思った。

エヴァンはレオの顔をジッと見て、結論を言い、



「…そう、命令してくる者がいる限り、私は君の、敵の駒です。

奴の命令に従い、ただ黙って君を殺す。そして殺戮をし、心なき命令通りに働き破壊する、一匹の吸血鬼になるのです」

この時、エヴァンは悟っていた。

身体が吸血鬼の彼は、仮面の魔族から永遠に支配が逃れられずに、逃げ出す事ができないのだと…。


そう、まるでそれは、暗闇から伸びている一本の鎖が彼の首に繋がれ、逃げられない事を意味しているかのように…

「………」

エヴァンはレオの前で下を向き、押し黙った。

そして押し黙ったまま、レオの顔を見て、話しを続け、

「2対1で攻撃をされ挟み撃ちにされたら、いくらあなたが強くてもひとたまりもありません。

これが最後のチャンスです、レオ。

私が今、意識があるうちに、敵の戦力を減らしておくことです」


そう言い、エヴァンは静かにスッと腰にかけてる剣を抜き、レオに差し出した。
そしてエヴァンはこの剣で、自分の心臓を刺せと、レオに言ってきた。


レオは震えた。

体がガチガチと震え、
一体先生は何を言っているんだと、頭の中で逃避した。

そして、レオは首を横に振り、
嫌です、と顔をこわばさせ、答えた。


レオはこの時、一生懸命エヴァンが死なない方法を考え、試行錯誤した。

そしてこの際何なら、仮面の魔族から遠くに逃げ、二人で身を隠そうと提案した。

だがエヴァンは首を縦に振らず、目をつぶり無言で首を横に振った。

そう、たとえ逃げられたとしても、彼が吸血鬼の身体である限り、吸血衝動が彼を襲い、人間を襲う。


彼に逃げ道はない。


完全にチェスで例えるなら、
彼は、詰まされた状態なのだ。

レオはエヴァンの顔を見て、涙を流しながら、

「くそ!くそ!なんとか手はないか」

と試行錯誤し苛立ちを隠せなかった。


死ぬ…

死ぬ…

先生が死ぬ。

このままでは先生が死に、二度と会えない…

なんで彼がこんな目に…

なんで彼がこんな状態に…


どうして…


…………


どうして、

なんで、

彼なんだ…


レオはこの時、大量の涙が目から溢れ、なんで?どうして?という気持ちの感情がものすごく溢れていた。

エヴァンはレオの姿を見て、


ツゥ…

ポタポタ…


この時エヴァンは、レオが自分の事で必死で泣いてくれているレオの姿を見て、涙を流した。

そしてソッと、右手でレオの顔を触り、

ありがとう…

不甲斐ない師で申し訳ない…

と言い、レオの身体をギュッと抱き締めた。

エヴァンに抱き締められている状況の中、レオは泣きながら首を横に振った。

そしてエヴァンに向けて感謝の言葉を言い、涙を流しながらこう言った。それは、


「貴方がいなきゃ俺は死んでいた。
先生がいなきゃ、俺はここまで生きてこれなかった。

俺を育て、俺を守ってきたエヴァン先生…

そして、両親が殺され、俺のずっと側で成長を見守り育んでくれた育ての親」


この時レオは、涙をポタポタと流しながら、エヴァンとの思い出が頭の中で蘇り、エヴァンに抱きつきながら泣いた。



子供の頃一緒に戦火をくぐり抜け、魔物と戦い、戦いの術を教えてくれた先生。

そして時には厳しく、修行の場で俺がめげそうになった時、叱咤激励をしてくれた先生。


でもその後、温泉に連れてってくれ、男同士一緒に汗を流した思い出。


………


修行だけじゃなく、漢字の読み書きの勉強も教えてもらったし、言葉では言い尽くせない程感謝の気持ちが多いのに…



なのに、なんで…


………



なんで…


こんな結果なんだよ…

ポタポタポタ…


「うっ…うぅ…」


レオはエヴァンに抱きつきながら下を向き、涙を流しながらひたすら泣いた。


そしてレオは、この時ほど自分の力が未熟で、彼を助けられない自分に憤りを感じ、無力感と怒りが襲った。


泣いているレオを見てエヴァンは、そっとレオの頭を撫で、

「泣かないで、レオ。

君を傷つけてごめんな、レオ。


今度、またもし自分にチャンスがあれば、レオを守りたかった…

守って、君の盾となり、一緒に奴を伐ちたかった。」


と、エヴァンは残念そうな顔をしてレオをギュッと抱き締め、無言で彼はひたすらレオを抱き、そして声を殺し、レオの肩で泣いた。

そしてエヴァンは意味深く再度レオに、


「ありがとう、私の心は救われた…」


と、レオの力で、ミシュランの事で彼と和解し会えた事もあり、感謝の意をこめて、レオに伝えた。

泣いている二人で肩をよせあい、抱き合ってる二人の姿を見て仮面の魔族は、


「よく解っているじゃないか、エヴァン。自分に措かれている状況を…

そうさ、お前は逃げられない。吸血鬼の身体で有る限りな…。

そしてお前は私から逃げられず、私の元で、一生仕えるのだ。


…クックックックックッ」

そう言い、笑いながらエヴァンの方を見て、顔をニヤケさせ、嘲笑うかのように彼を見下した。


そして、仮面の魔族は2人を見て、

今までのは余興だ。

尊敬しあって二人が殺しあいをしている姿を見て楽しい。

エヴァンに愛している者を殺され、永遠に罪悪感にさいなわれ、心を崩壊してやろうと考えていた。


だが、ここで仮面の魔族は、

どうやらレオと言う小僧は相当危険だ。

二度もエヴァンの意識をとり戻した。

奴といると、死んでいた人間の心がとり戻され、異常に増幅させる。


そういう奴は、確実に殺しておかなければいけない。

計画に思いっきり支障がでるからな。

と思い、今度は手を抜かず、仮面の魔族自身も手を加え、レオを確実に仕留めようと考えていた。


…、そう、この事に関して以上の事を踏まえ、エヴァンの推測し、言った通りの事だった。


二人でレオを殺す…

それは凄惨な状況になり、逃げることもままならない。

だからこの時エヴァンは、早く自分の命をレオにたってもらい、殺してもらおうとした。


愛する者の手で…


それはエヴァンの最後のワガママでもあり、願いでもあった。


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仮面の魔族は、エヴァンの方を見て、

「じゃあ、そろそろ殺ろうか、エヴァン。

二人でレオの首を引きちぎり、レオの生き血を飲み、二人で乾杯をしよう」


そう言うと仮面の魔族は、エヴァンの方に向けて、右手を前に出し、エヴァンの心を縛ってきた。


「ぐっ…!

あぁ~!!!」

レオの前で悲鳴をあげ、苦痛に悶えるエヴァン。

レオは声をあげて、

「先生!」

と叫び、エヴァンの身体を揺さぶった。


苦痛に悶えるエヴァンは、レオに、

「早く、私を殺しなさい!」

とレオにお願いをし、冷や汗を流しながら要求してきた。

だが、レオは頑なに首を横にふり、嫌だとエヴァンに言った。

エヴァンはそんなレオを見て、

「お願いだ。レオ…早く私を殺して下さい。

でないと私は、貴方を殺してしまう」

と、意識が途切れ途切れになりながら、レオにお願いをした。


仮面の魔族はそんな二人の姿を見て、冷ややかに笑い、エヴァンに対して、


「さあ、心を委ねなさい、エヴァン。

貴方は私からは逃げられない。

一緒にレオの首をはね、生き血をむさぶるのです」

そう言うと仮面の魔族は、なおかつ右手でエヴァンの心を縛り付け、レオ達の方に向けてゆっくりと、一歩一歩ずつ近寄ってきた。

近寄ってきた仮面の魔族を見てエヴァンはレオに、

「最後の忠告です、レオ。
その剣で私の心臓を刺しなさい

そして刺して私を殺し、仮面の魔族から逃げるのです」

レオはこの時片手に、エヴァンから渡された剣を持っていた。

だが一更にレオはエヴァンを刺す気はない。

そんなレオを見てエヴァンは、

「レオ!」

と名前を呼んだ。

そしてまた、意識が朦朧としながら、

「レオ!」

と、再度名前を呼び、レオに向かって声をあげた。

だがレオは、下を向き、涙を流しながら嫌、嫌と首を横に振った。

そして無言でエヴァンの身体にそっと擦り寄り、ぎゅっと抱き締め泣いた。

レオの姿を見てエヴァンはハッとし、諦めた。

そしてエヴァンは悲しい顔をしながらレオに、

「ごめんなレオ、無茶な要求をして…

逆の立場だったら、私もできないでしょうね」

と言い、エヴァンはそっとレオを包み込むように抱えた。

そしてエヴァンはレオに、今世のお別れのあいさつをして、最後に、

「レオと一緒に、大きくなったらお酒が飲みたかったな~。」

と、抱えながらレオにぼそっと呟いた。

エヴァンは意を決した。


仮面の魔族は、二人の現状を見て、高笑いをし、歩きながらエヴァンの心を縛ってくる。

この時仮面の魔族の攻撃を受けて、心を縛われながらもエヴァンは、


「たとえ身体が支配されても、心(精神)は屈っさない」
と言い、仮面の魔族を睨みつけた。

そしてもう一度レオを見て、手をレオの顔に添えながら、



「愛してる…

愛してるよ、レオ」

と言い、レオに向かって涙を流しながら、




「…また来世で会いましょう、

レオ…」



と、最後の言葉をレオに言い、レオが持っていた剣を右手で取り上げ、そのまま心臓一直線、エヴァンの身体を貫いた。


ドシュッ!!

…………


………



エヴァンはレオの前で、口から血を吐き倒れた。

そして彼の身体は、時が止まったようにその場で動かなくなり、瞳は遠くを見つめ、やがて輝きが失い動かなくなった。


動かなくなったエヴァンを見てレオは、その場で呆然とした。

そしてレオは、言葉に発せられないような悲鳴を部屋中に叫び倒し、レオの身体にもたれ掛かっているエヴァンの身体を強く抱きしめ、その場で叫び倒すように泣いた。
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