師弟対決

文字数 15,898文字

ガッ!…

ドドンッ!!

レオの気合いのオーラが部屋全体に響き渡る。


レオはかつてエヴァンと戦った時、一度だけ真剣勝負をした事があった。
戦う理由がなんであるか忘れたが、レオはエヴァンに勝てなかった。


涼しげな顔、秀ですぎる能力を何事もなかった事にする振舞い、レオはその時、圧倒的な差をこれ程感じた事はなかった。

レオは己の気合いを高めるなかこう思った。

まさか先生が吸血鬼になってこういう状況になって戦うはめになったが、この時レオは不謹慎かもしれないが、

戦いたい!

レオの中の闘争心が脈打っていた。


キッ!

レオの表情が真剣な顔つきになり、目が鋭くなる。

そしてレオは、右手を後ろに構え出してる炎を大きくし、

「行きますよ、先生!!」
と言い、巨大な炎をエヴァンにぶつけた。


ゴオォォー!!!

「!」

ドカーン!!!!

レオの放った凄まじい炎がエヴァンを襲う。

だが、エヴァンは素早く炎をよけ、空中を舞った。

「くっ…」

エヴァンが苦虫の顔をしていると、すかさずレオがエヴァンの方に向かい、右手の拳で全力で殴りかかった。

「はあっ!!」

ドカッ!!!

「ぐぅっ!」

両手を前に出しクロスして、レオの重い拳を受け止めるエヴァン。

「くっ…、レオー!」

エヴァンはその行為に対して、忌々しそうにレオを睨み付けた。

だが、レオはひるまずエヴァンに連続パンチを浴びせ、場は凄まじく、レオの攻撃で部屋は過熱を極めた。


ドカ!!ドカ!!ドカッ!!!

レオの素早い連続攻撃がエヴァンを襲った。

エヴァンはムシが悪いような顔をしてレオに、

「調子に乗るな!小蝿がっ!」
と大きく叫び、鋭い右の爪でレオの胸ぐらを掴もうとした。

タッ!

「!?」

だがレオは咄嗟にエヴァンとの距離をあけた。

…が、エヴァンはその勢いで、右手で近くにあった部屋の柱を手の指の力だけで柱をぶち抜き、レオに向けて力いっぱいぶん投げた。

「死ねぇ!」

「!」

ドカーンッ!

パラパラパラ…

部屋に突き刺さった柱が音をたて崩れていく。


レオは間一髪、投げた柱をよけた。

そしてハァハァと呼吸を乱し、レオは一時動きを止めた。

「くっ…」
レオは大量の汗をかき、下を向いた。そしてもう一度エヴァンの方を向き、呼吸を乱しながらこう思った。それは、



強い…

力もスピードも格段にあがってる。

あんだけ攻撃しても息一つ乱れていない。

これが吸血鬼の力…、
だとしたらとんでもない力だ。

だが…、


レオはチラッとエヴァンの腰にかけてる武器を見た。そして、一つだけ戦っていて思った事があると思い、レオはもう一度ギッとエヴァンの顔を見た。



なぜさっきから武器を使わない。
吸血鬼になって人間など武器など使わなくても殺れると思っているからなのか?

だとしたら、その傲慢さが命取りだ。


まともなエヴァン先生なら俺と勝負した時、武器を使って攻撃してきた。

そう、彼の恐ろしい所は、高速で繰り出される素早い剣さばき。それも緻密に計算され捕らえようのない恐ろしい技。

そしていかんせよ、どんな相手でも油断しない心。そのすべてが合わさって彼は最強の戦士だった。


レオは、ググッと体を起こし、疲れた体を立ち上がらせた。そして、


今の先生の攻撃は、直感的すぎる。

今なら…

カアァァァー!!!!


バンッ!!!


レオの闘気が急速に上がり、両拳に炎が舞い上がる。
レオは全集中力を高め、エヴァンに向かって攻撃を仕掛けようとした。

だが、エヴァンはそんなレオの姿を見て、見下したように、


「…だからぁ、調子に乗るなと言ってるだろう!小蝿があぁぁ!!!」
と、はき捨てるような言い方をし、そしてレオに向かって右手から、ありったけの氷系の呪文をぶつけた。


ビシャアァァー!!!!!

「!?」

パキパキパキッ!!…


部屋全体に猛吹雪が襲い、レオの体に氷の嵐が襲う。
レオは両手から出していた炎が消え去り、その吹雪の影響で足が凍りつき、身動きとれなくなった。


「ぐっ…、くそ、まさか魔法を…」

動けなくなったレオを見てエヴァンは、


「ようやく動きを止めたぞ、小蝿め。さあ、どうしてくれようか、心臓を抜きとり生き血を吸うか、それとも手足をもぎ取り、悲鳴を浴びせるか…」


「!?…」

レオはエヴァンのその言葉を聞いて絶句した。

以前のエヴァンならそんなセリフ、絶対に言わないと思ったからだ。


暴力と破壊衝動が彼を変える。


レオは、なんて吸血鬼になれば恐ろしい事なんだと、この時心の底から思った。

ザッ…


エヴァンは顔をニヤケながら、レオの数メートル離れた所から前に立った。
そして獲物をなぶり殺しにするような顔つきになり、レオの前でこう言った。


「決めた!両方ともしてやる!手足をもぎ取り、生き血を吸すってやるがな!」
そう言い、エヴァンはレオに向かって両手の手のひらを広げ、ダッシュで彼を襲った。

レオはその光景を見て、両手から炎を最大出力にあげ、唸り声をあげながらその炎を凍った足にぶつけた。

「グオォォォー!!!!」

バカンッ!!!!


シュアァァ~!!!

「!?」

レオが炎で割った足元の氷が爆発をおこし、水蒸気となって画面いっぱいに散らばっていく。

エヴァンは霧でレオを見失い、

「ぐっ…、どこだ!レオ!」

と叫び、荒狂った。


するとその時、エヴァンの後ろに影見たいな物がうつった。

エヴァンはすかさず、

「そこか!レオ!!」

と叫び、その影に向かって右手で殴りかかった。


が…、その影はレオではなく、レオの上着だった。

それを見たエヴァンは、

「なっ!どこだ、レオ!」
と困惑し、エヴァンが驚いていると、

エヴァンの体の真下から、
「先生!ごめん!」
と言い、レオは力いっぱいエヴァンの腹を殴った。

「あぐっ…!あぁっ…」

エヴァンはレオの猛烈なパンチをもらい、よろめき腹を押さえた。

そして押さえながら、

「レオォ~!!」
と憎々しい声を出し、レオを睨んだ。

レオはすかさず、もう一発エヴァンの顔面に強烈な拳をぶちこんだ。

エヴァンはその場からぶっ飛び、部屋の壁に激しく叩きつけられた。


ドカカカカッ!!!!

ズカーンッ!!!!

「…………」

エヴァンは壁に打ち付けられ、グッタリと下を向き動かなくなった。


レオはハァハァと息をきらし、恐る恐る倒れたエヴァンの方に近寄った。そして行く途中で上着を拾い、レオは上着を羽織った。


「…先生。」
レオは倒れたエヴァンの方を見て、言葉を発した。

そして、
「なんで吸血鬼なんかに…」
と思い、エヴァンの体を見回した。

するとレオは、一点気になる所があった。
エヴァンの首元に二つの噛み傷を見つけ驚いた。

レオは、噛み傷を見て、
「一体誰が…」
と思い、気になるエヴァンの首元に触ろうとした。


エヴァンに近寄り、首元に触れようとした瞬間…

エヴァンは赤い瞳をし眼は見開き、恨めしそうな眼でレオを睨んでいた。

レオは、そのエヴァンの顔を見て、

「えっ?」
と、一瞬戸惑った。

そして次の瞬間、エヴァンは力いっぱいレオの首を掴み、レオの首を左手で締め上げた!

「ぐあぁぁ~!しまった!」

レオはエヴァンに強く首を絞められジタバタした。

そんな光景を見たエヴァンはレオに、

「ようやく捕まえましたよレオ。なかなか素早っこくてイライラしましたが、これでようやく貴方を喰い殺せそうです」

そうレオに言うと、エヴァンはさらに目を見開き、レオの首をジリジリと締め付けた。

レオは首を絞められながら、

(ぐっ!まずい!このままでは殺られる。先生が気絶したと思ったのに、意識があったなんて…)

そうレオが思っていると、エヴァンはさらに首をギュッと絞め、鋭い牙を出しながらレオを威嚇した。

「ああぁぁ~!!痛い!」
レオは足をバタつかせ、目からは涙がこぼれた。

この時レオは、
(やばい!おちる!これは首を締め付けるどころじゃない!この力、この腕力は、首をへし折る気だ)

レオは締め付けられる中、頭の中で二項目を思い出していた。

その1、

相手は吸血鬼、腕力は人間の数倍はあるので、絶対にくらってはいけない。
くらえば命ないものと思い、心して注意せよ。


そして問題の、その2、

絶対に捕まってはいけない。捕まれば首を絞められ、確実に殺される。


吸血鬼の腕力、握力は通常の人間の比ではない。

捕まれば確実に殺され、締め殺されるのだ。

ましてや吸血鬼は、理性など働いていない。

吸血鬼にとって人間は一匹の獲物なのだ。


「ぐうぅぅ…」

レオは後悔した。そして恐怖を感じ、自分の中で死が迫ってるんだと涙を流した。

ガアァァ~!!

首を絞められる中、レオはエヴァンの顔を見た。そしてレオは死にたくないと苦しむ中泣き叫び、

「先生!やめて!死にたくないよ~!!!!!」
と声を大にしてエヴァンに叫んだ。


ガアァァアァー!!!!

エヴァンの声とレオの叫び声が部屋中にこだまする。



「ぐっ…」

「うっ……」

レオの首を掴んでるエヴァンの左手が動揺に大きくゆれる。

そして顔から大量の冷や汗を流し、エヴァンはこの世にもないくらないの悲鳴を部屋中に叫びまくった。



うぎゃあぁぁー!!!アァァァ!!アァァァー!!!!!!!!!!!!


エヴァンは左手で絞めているレオの首をパッと離し、その場でガタガタと怯え、下にうずくまった。

そしてその場で、両手を頭にかざし、顔は動揺し、うわ言のように何回もその名を口にした。


「…ミシュラン、ミシュランごめんよ~」


…そう、その名こそ、ミシュランだった。

皮肉にもこの時、エヴァンがレオの首を絞める光景と、魔物にミシュランの首を絞められ殺された光景が、彼の頭の中で一致したのである。


「ぐっ、あぁぁー!!」

「…先生」

エヴァンは尋常じゃないくらいに怯え、顔がひきつっていた。

無理もない。
この時彼は、自分の手でレオの首を絞めていたからだ。

ミシュランが魔物に殺されトラウマになっていた出来事が、自らの手で同じことをしていたから…


あぁ、なんて運命は残酷なんだろう。

彼の一番心の弱い所を突かれ、彼の手で手を汚させる、皮肉極まりない行為だと、レオは思った。


「あ、あぁぁー…」

エヴァンは涙目になりひたすら怯えていた。



…ェヴァン。


そんな時、エヴァンの耳元から囁くように声が聞こえてきた。

その声はゆっくりと近づき舐めまわす物。



そして、彼の思考を狂わす、あの悪魔の声が重く場内に響き渡った。

何をしているのですか、エヴァン。どうして手を止めたのですか?


「!?」
その声は、エヴァンは諭すようにゆっくりと近づき彼の懐に近づいた。

一見穏やかそうな声だが、明らかにエヴァンを惑わす物。そうこの声の主は、エヴァンを吸血鬼にした仮面の魔族だった。

仮面の魔族は更にエヴァンを困惑するため、ミシュランの声を借り彼の心を乱し操る。

エヴァンが下を向いて動揺してる時、彼の赤い瞳の中にミシュランの姿が瞳の中で写った。


…兄ちゃん。

「ぐっ…!」

エヴァンの脳内に死んだミシュランが映る。

そのミシュランは笑みを浮かべながらゆっくりとエヴァンに近づき、エヴァンにこう言ってきた。


「…兄ちゃん、どうして僕を救ってくれなかったの?僕、兄ちゃんが助けてくれると思ったのに…」

それを聞いてエヴァンはとり乱した声で、


「ごめん!ごめんよ!ミシュラン!君を助けられなくて!」

エヴァンはうずくまり泣いた。
そしてその映像のミシュランにまるで懺悔をするかのように、詫びてひたすら謝った。

映像のミシュランはエヴァンのその光景を見て、さらにこう言ってきた。


「僕、痛かったんだよ。あの時魔物に絞め殺されて死ぬの…ほら、ちょうどこんな感じに…」

そう言い、映像のミシュランはエヴァンに自分の殺された姿を見せてきた。

その姿は、口から血を出し、あきらかに苦悶めいた顔をしている。


エヴァンはそのミシュランを見て、

「う、あぁぁー!!アァァァ!!!!」

と発狂し、両手で顔を押さえた。
そして体を震わせ怖じけずきながらそのミシュランに、

「どうしたらいい?どうしたら、私を許してくれる?」
とその映像のミシュランに助けを求めた。

すると映像のミシュランは口元をつりあげ、ニヤけた顔で後ろで手を組み、エヴァンにそっと近づきこう言ってきた。

「僕、もっと生きたかったんだ。生きたかったけど、兄ちゃんが助けてくれなかったから…だから…」

映像のミシュランはエヴァンの元に近寄り、そしてそっと耳元でこう囁いた。

それはざらつくような声で、ひっそりとエヴァンに提案してきた。

それは、
「かわりと言ってはなんだけど、僕のかわりに生きてるレオに生きて欲しいと思ってね。ほら、エヴァン兄ちゃん、レオの事好きでしょ。今まで僕の代わりだと思って一緒に過ごしてきたじゃん。…だから」


映像のミシュランが、エヴァンの横に近づきギッと黒い瞳をぎらつかせる。
そして口から小さな牙を出し、エヴァンに向かい、強めに命令口調で言ってきた。
それは、
「レオを、吸血鬼にしなさい、エヴァン。そうすれば、レオは永遠に生きることができ、あなたの元で一生失うことはないですよ」

エヴァンはその言葉を聞いて、

「…しかし」
と、躊躇し迷った。
少し理性が働いていたエヴァンは、この時レオを吸血鬼に?とする思いがあり、迷い、困惑していた。

だが、本性を表し、ミシュランに化けていた仮面の魔族が、さらにエヴァンに語りかけ、

「吸血鬼になれば、肉体はおろか、死ぬ事はありません。時が止まり、寿命もないのです。あなたはミシュランを守る事ができなかった。自分だけ生き延び、ただ後悔し怯えるだけの毎日。でも今のあなたならレオを吸血鬼にし、彼を死なさない力を持っている。またあの時のミシュランのように、大切なレオを、失ってもいいのですか?」

…失う


「はっ!」
エヴァンはその言葉を聞き、ピンと入り、胸に刺さった。

そして、下を向きながら、
「失う…、…嫌だ」
と言い、手を震わせた。

エヴァンはミシュランを失ってから、子供の時の思い出が甦り映像が流れた。

それはいつもエヴァンが一人で家に帰り、ドアノブをガチャッとまわす光景。そしてエヴァンは真っ白い部屋でただいまと言い、その部屋は冷たく、誰もいなく泣き崩れていた。

「うっ…、うっ…、ごめんよ、ミシュラン。兄ちゃん守りきれなくて…」

幼な心に後悔と失意が彼の心を蝕む。
今まで表面上は、レオ達に明るく振るまい笑顔を見せるエヴァン。だが、彼の本当の心の奥底は、寂しさと後悔の念で支配されていた。

そう、まるであの時、魔物が言った、力なき者は悔いて死ねという言葉、あの言葉は彼の中で一生呪いの言葉なのかもしれない。

仮面の魔族は卑怯にもそこを突いてきた。

まるで一ヶ所の傷口に、数回傷口を殴り付け、その心の傷口を広げるように…。

エヴァンの心はズタズタだった。そして徐々に彼の判断能力の思考を奪い、やがて彼を魔族に仕立てる。

恐ろしい、巧妙かつ、狡猾な手口のやり方だった。

「ううっ…」

エヴァンが下を向き、迷いが生じていると、仮面の魔族がさらにエヴァンに近づき、さらに手を加え念を押し迫ってきた。

「さあ、早くレオを吸血鬼にしなさい。今のあなたには力がある。レオもいずれ遅かれ早かれ死に、ましてや他の魔物に殺されるかもしれない。そうなればレオはミシュランの二の舞になり、二度と生き返る事はできない。また子供の時の後悔と失意に逆戻りし、すべてを失ってもいいのですか?」

この時エヴァンは下を向き、失いたくない、失いたくないと何回も心の中で呟き、自問自答していた。

そして目を凝らし下をうつむきながら、レオとの思い出が頭の中でよぎり、世界に入りこんでいた。


レオと初めて会った日。

一緒に魔物を倒し、旅をしながら楽しんだ日々。

そして、泊まる宿がなくて大変な思いをして、野宿して一緒に寝た日。

など、さまざまなレオとの思い出が彼の脳裏に流れる。

「…レオ、私は…」

エヴァンは手を震わせ、後悔したくない、レオを失いたくないという気持ちが強くなり、下を向いていた顔を少しあげ、レオの顔を見ようとした。

そして、意を決し、レオを吸血鬼にしようとし、そっと震えていた手をあげ、レオの顔に近づけようとした。


「…吸血鬼。レオを吸血鬼にしなければ。今の私には力がある、永遠の命を与え彼をずっと生かす事のできる力が。もう子供の時の寂しい思いはしたくない。ミシュランを失い、孤独を感じていた自分に…。私が一噛みさえすれば…」

そう思い、エヴァンはレオの顔に手を添え、レオの首に噛みつこうとした。


「…吸血鬼、レオを…」
エヴァンがレオの顔を見て、レオの首元に噛みつこうとした瞬間、エヴァンの前に一粒の涙が流れた。

そう、その涙はエヴァンの顔を見て、悲しそうな顔をしたレオの涙だった。


「…先生」

「!?」

この時レオはエヴァンの闇を知った。深く根強い心の闇が…。
どうしてずっと一緒にいて気づいてあげれなかったんだと、レオはその感情が涙に表れ、悲しそうな目をし、エヴァンの顔を見た。

エヴァンはレオの顔を見て、ハッとした。そしてレオに、

「そんな悲しい顔で見ないでくれ」
と言い、エヴァンはレオの前に顔をそむけ、レオの頬に手を添えながら下を向いた。

「…くっ」
エヴァンは顔をそむけながら目を閉じた。
この時エヴァンは感情を少し表に出した。そう、ある意味彼は吸血鬼になって感情が出やすくなっており、欲に忠実である。本心をさらけ出す事が苦手だったエヴァンだったが、この時は素直にレオに向かって話を持ちかけた。

エヴァンは下を見てうつむきながら、小さく、か細い声でレオにこう話した。
それは、

「…レオ、私は君を失いたくない。最初、君と出会って助けた時、あなたをミシュランの生まれ変わりだと思い、運命を感じてならなかった。そして私の犯した罪が洗い流されていくようで、レオと一緒にいて、私は安堵な気持ちになった。…でも違った」

「君とミシュランは違う。最初は私の元で修行をし、技を極め、力を身につけていった。そして弟が生きていたらこんな感じだろうと思い、君を亡くなった弟のように見ていた」

「だが君は強くなった。強くなり私から独立し、各国で活躍した。風の便りであなたが活躍した時は、私は心踊り胸が弾んだ。…嬉しかった。教え子が純粋に活躍し、社会に貢献するのを…。レオはもう立派な一人前なんだなあと思い、私は本当に嬉しかった」

「…だが、それと同時に私は恐怖した。また大切な人を失うのではないかと恐怖し、怯えた。各国で活躍すればする程、魔物に遭う確率も高い。リスクも伴い、高確率で強い魔物と遭遇する可能性が高くなる」


エヴァンは声を震わせ、もう一度レオに言った。

失いたくない…。

大切なレオを失いたくないんだと…。

死ねば、すべて終わり何もかもなくなるんだと…。

だからレオ、お願いだ、私と共に…

そう言い、エヴァンはレオに詰め寄り貢願した。

今の自分には力がある。

非力だった自分を呪うように己を鍛え、人を守る力ではなくて、人を生かし時をとめる力が…。

これならば誰も死なず、悲しむ事はないと…、この時のエヴァンはそう思い、レオに伝えた。


だが、この自然に反したこの力は、仮面の魔族の罠である。

はたして、人は長く永遠に生き、本当に幸せなのだろうか。この裏に隠された仮面の魔族の野望を、エヴァンは見抜けなかった。

彼の深い心の闇が、彼の心を狂わせる。
そして、エヴァンは仮面の魔族のシナリオ通りに動かされ、精神を翻弄され操られる。

今や彼は仮面の魔族の術中に完全にはまり、己を見失っている状態だった。

エヴァンはレオに向かって、
「…さあ、レオ、答えはいかに?」
と聞いた。
エヴァンはこの時、右手を差し出しレオに返答を求めた。

エヴァンのその姿を見たレオは静かに両目を閉じ、無言になった。そして首を横に振り、エヴァンの右手をそっと自分の心臓の所に寄せ、両手でエヴァンの手を包み、彼にこう言った。

「…俺は死にません、先生、ミシュランも…」

レオはしっかりエヴァンの目を見つめ、彼の手を握りしめたまま、エヴァンにこう言った。

「…確かに、吸血鬼になれば時がとまり、永遠に死なないでしょう。肉体もそのままの状態で病気もせず、死にはしません。」

「しかし、ここにいるレオは完全に死にます。人間の心が失われ、一匹の血に飢えた魔物になり、人を襲い喰らう獣になるでしょう。そしたら先生の事も、ティファー王妃、…そして先生が語ってくれたミシュランの事も完璧に記憶が失われ異質な物になります」

「先生、人はいずれ肉体が滅び死にます。でも魂は死にません。たとえ体が滅んでも、生きてる者がそれを受け継ぎ、心の中で生き続けるのです」

レオはきっぱりとエヴァンに向かって話を続けた。

吸血鬼になれば魂を失い、ただの魂が抜けた人喰いになると…。
たとえ人は、肉体が滅んでも、魂は永遠に不滅だと…。

レオはしっかりとエヴァンの目をみつめ、それは偽りの力だと、過ちを正した。
エヴァンはレオのその話を聞き、うつむき下を向いた。そして無言で何も話さずただ、黙ってレオの話を聞いていた。


…教え子に教えられた。
この時、エヴァンは痛感した。そして、いつの間にレオ、こんな成長を…と、思いエヴァンは自分の考えていた事をしたため、改め直した。

エヴァンの心の闇の霧が、少しずつ晴れていく。

レオは、うつむいているエヴァンを見て、尚且つこう言った。

「…先生、今の先生は人を守る力ではなくて、人を生かす力だと言いました。確かに死ねば意味がありません。しかし、俺はあなたに出会い今日まで生きてきたのです。」

「あの時、俺は死ぬはずだった。たとえあの時の魔物に殺されなくても、一人では生きていなかった。先生に出会って守ってもらわなければ、今頃荒れ地の、骸の仲間入りだったのかもしれません」

そしてレオは、エヴァンの顔をしっかり見て、レオはエヴァンにこうキッパリと言った。それはレオがエヴァンのしてきたことを信じ、彼に誇りをもたせたかった言葉で、ストレートにレオは彼に言った。

「自信を持って欲しいのです、先生。今まで先生が俺に教えてくれた事すべて無駄ではなかった事を…」

エヴァンはレオが言った自信という言葉が胸に引っ掛かり、ハッと気づき、そうだと思った。

思えば私は今の今まで、自分に自信がなく、相手に翻弄され、生きてきた。
それは、ミシュランの事もあり、負い目を感じ、生きてきたからだ。


レオ、君は私の事をよく見てる。
そしていつも真っ直ぐに気持ちを伝え、偽りのない言葉を発してくれる。

なんて明るい、なんて強い子なんだ、君は…。

まるで太陽のように皆を照らし、光の方向へ導いてくれる。

レオはそう言い、エヴァンに伝えると、右手をエヴァンの前に差し出し、

「…帰りましょう、先生。心の傷は誰かが埋めてくれる」
と話した。

エヴァンは差し出されたレオの右手を掴みとり握った。
すると、レオの手を掴みとった瞬間、エヴァンの心がまるでパズルが解けかかったように、白い心の扉が現れる。

「…ここは、一体」
エヴァンは辺りをキョロキョロ見回し、周囲を確認した。
するとそこは、すごく清潔で神聖な所であり、辺りは白く全体的に透き通っていた。

エヴァンはその空間を見て、
「…なんだ、ここは?レオの手を掴んだ瞬間、いきなり光に包まれこの空間に来たが、ここは一体どこなんだろう」

エヴァンはこの不思議な空間を見て困惑した。
だが、居心地はすごくいい。穏やかで落ち着いた心になり、なによりこの部屋は暖かい。
まるでこの部屋は普通の人が立ち入れない神々のような空間である。


「…レオ、君は一体?」

エヴァンはもう一度辺りを見回し確認した。
すると、扉の端っこにレオが下を向きながらエヴァンの方に立ち、ぼんやりと、エヴァンの方を見ていた。

「…レオ?」
エヴァンがたたずんでいたレオに声をかけようとした。するといきなり声をかけた瞬間、レオの姿がまるで炎によって溶けるように姿が変わっていった。そしてその姿はやがて、髪の長くオレンジ色の髪の毛をしており、神々しい女性の姿に変わった。

「!?」

エヴァンはおそるおそるその女性に近づきた。そしてその女性に、

「…君は?一体?」

と訪ね、その女性が何者か聞いた。

女性はじっとその場から動かず、エヴァンの方をじっと見ていた。
この時、エヴァンはなにか違和感を感じていた。

どこか見たことがある顔。
誰かに雰囲気が似ており、エヴァンはその女性を見て誰なんだろうと思い、頭の中で考えていた。

エヴァンがじっと考え、その女性を見つめていると、その女性は静かにスッと口を開き、エヴァンの方を向いてこう話した。

「…あなたがいてくれたから、あなたがいてくれたから、私は…」

スッ…

「?」

そう言い、女性はエヴァンに向かって、スッと扉の方に手をかざし、エヴァンに、この扉を開けなさいと静かに言ってきた。
そしてかざした後、フットとその場から消え、その空間内ではエヴァン一人になった。

エヴァンは女性を見て、誰なんだろうと思い、まるで遠い昔に会ったような感覚に陥っていた。

ガチャ…

エヴァンは消えた女性に言われた通り、目の前にあるドアノブをまわし開けようとした。

おそるおそる、ゆっくりと開けるエヴァン。

そして、中に入り、足を踏み入れると、


…暖かい。
光が差し込み、なんだろう…心が洗われる、と思い、周辺を見回した。するとそこには料理を作ってるティファー、食卓でイスに座ってお腹を空かしてるレオ、そしてミシュランと楽しそうに食卓を囲み、2人で足をブラブラしながらご飯を出来上がるのを待っていた。

ティファーがレオ達に大きな声で、

「は~い!今日は2人が好きなティファー特製オリジナルカレーよ」

それを聞いたレオ達は、
「わ~い!お腹すいた~。シンプルなカレーが美味しいんだよね~」

レオ達がスプーンを持ち、待っていると、ティファーはお皿にカレーを入れ、
「シンプルじゃないわよ、オリジナルのカレーよ。ルーにはたっぷり隠し味が入っているからね」
と、笑いながらティファーは答えた。
それを聞いたレオ達は手を合わせ、
「いただきま~す」
と2人で号令をかけた。

美味しそうにカレーを食べる2人。ティファーも後で交じって、出来上がったカレーを食べていた。

(この時、レオはひそかに嫌いなニンジンを自分のお皿からミシュランのお皿に入れていた。それを見たティファーは、ちゃんとニンジン食べなさい!っとレオに怒ってた)

エヴァンはその楽しそうな光景を見て、ほほ笑んだ。
この時、エヴァンは確信した。

そうか…、私は家族が欲しかったんだなと。

ずっと、子供の時家に帰るとひとりぼっちだったから、家族に憧れ寂しかったんだったと。


…心の傷は誰かが埋めてくれる。
それは一人一人に役割分担があり、それぞれの特性がある。
人間一人一人では大変に弱い。だからこそ、頼り、ない物があれば互いに補っていく。

仮面の魔族がいう偽りの空虚な力ではなく、人を生かし、守る力。大切な人達を守る為、人は命を張り全力で戦うのだ。


「…レオ」
エヴァンは下を向き、その場でうつむいた。
そして、
「わかったよ、レオ。私が間違っていた。」
と言い、
「守るよ。大切な人達をこの手で…」
と口ずさみ、両手を握りしめ、エヴァンは心の中で決意していた。

エヴァンがおもむろに下を向き、感傷に浸っていると、横から、

「…兄ちゃん」
とエヴァンの方に呼びかけ、優しい声でエヴァンに話かけてきた。

「…ミシュラン」

エヴァンはミシュランを見た。

そのミシュランは、明るく穏やかな顔をしており、エヴァンの方を見て、笑顔で話しかけてきた。

「兄ちゃん、やっと会えたね」

そのミシュランを見て、エヴァンは、

「…ミシュラン、ミシュランなのか?」
そう言い、エヴァンがミシュランの名前を呼んだ。


このミシュランは覇気がある。覇気があり、優しく明るい。仮面の魔族が化けていたミシュランと違い、穏やかで落ち着いた感じがある。包容力にあふれ、優しさがみなぎっていた。

この不思議な空間にいて、レオが成せる業なのか、それともエヴァンが子供の時に思い描いていたミシュランなのか、その真相は定かではない。

エヴァンは瞳から涙がこぼれ、下を向きミシュランにこう言った。

「…ごめん、ごめんよミシュラン。君は私の事を恨んでいるだろ。あの時、私は君を助けられなかった。ただ見てるだけしかできなかった自分がいた。自分だけ命が助かり、今日、こんにちまで後悔と失意にあふれ生きてきた。」

そう言い、エヴァンは瞳から涙がポロポロ流れ泣いた。
彼はずっとミシュランに謝りたかった。ちゃんとミシュランの前で謝って許してもらいたかった。
ずっとずっと、彼の中で苦しんできた心の闇。
その思っているすべての思いをこのミシュランに吐き出し彼に許しをもらいたかったのだ。

「…うっ、うっ…」

エヴァンは涙を流しながら、ミシュランに尚且つ話を続けた。

「私はミシュラン亡き後、自分の無力さが許せなかった。許せなく修行に励み、力をつけた。そしてその力を皆の為に使い、二度と自分と同じ思いをしてほしくないと思い、守りぬく決意をした。」

「…だが、ここにきて私は道を外しかけた。外しかけ、私はあの仮面の男の言葉に翻弄され、己を見失っていた。」

「失う恐怖があるならば、今のおまえは他者に永遠の命を与える力があるぞ、エヴァン…と」

「私はその言葉に負けそうになった。その甘い誘惑にそそのかされそうだと思った。そして君を失った恐怖からまた同じ過ちを繰り返してはいけないと、そのままその力で、大事なレオを吸血鬼にしようとした。」


「…でも」

この時、エヴァンの頭の中にレオの姿が鮮明にうつった。
レオがエヴァンにきっぱりとそれは過ちの力であると。
本当の力とは、己を鍛えその力で人々を守る力だと。
今まで先生がしてきた事は間違いではないと…。
自信を持って、先生と…。
エヴァンは涙を流しながらミシュランに向かって、

「私は、あの子に教えられたんだ!教えられ、私の闇を切り開いてくれた!あの子の力になりたい。なってこれからも守って行きたい」

「…でも」
エヴァンは手を握りこぶしにかえ、下を向き震えた。そしてミシュランに向かって泣きながら、

「君を見捨てた私にそんな資格がない」
と、まるでその台詞は自分には権利がないと言っているようなものだった。

ずっと、心の中で思っていた事を掃き出し、思いをすべてこのミシュランにぶつけたエヴァン。
エヴァンはひたすらミシュランの前で泣いて、ミシュランを見殺しにした自分には資格がないと責めていた。

「うぅっ…」
泣いて下を向いてるエヴァンに対して、ミシュランは茫然とエヴァンを見つめていた。そして、下を向いて涙をながしているエヴァンに対して、ミシュランはそっと、エヴァンの前でかがみ、エヴァンを見つめ、そしていきなりエヴァンの前で抱き締めるようにぎゅっとエヴァンの体を包んだ。

「!?」

「ミシュラン?」
あまりの唐突の行動にびっくりするエヴァン。
ミシュランは無言で抱き締めながらエヴァンにこう言った。それは、

「レオを守って、兄ちゃん。そして王妃、その手で皆を守って」

ミシュランはエヴァンに対して話を続け、

「エヴァン兄ちゃんの性格の事だから言うけれど、レオを守ってあげて。兄ちゃんは僕が死んで、負い目を感じてるかもしれないけど、僕はもう死んだ人間。それより今、生きてる人間に対してその力を使ってあげて」

「ミシュラン…」

ミシュランは抱き締めるながらエヴァンに対して話を続けた。そして、エヴァンの前で顔をニコッとし、笑顔を見せこう言った。それは、

「僕はちっともエヴァン兄ちゃんの事を恨んでないよ。それより兄ちゃんが暗い顔して苦しむのはもっと嫌だし…」

「………」

そう言い、ミシュランはエヴァンの泣いてる顔を見て、さらに笑顔を出し笑いかけた。そしてそっと、エヴァンの頬の所に両手をかざしだし、エヴァンに向けて最後にこう言った。それは、

「…僕、ずっとエヴァン兄ちゃんの事見てるよ、ずっと近くで…。もう、お別れの時間だけど、僕は兄ちゃんの弟で本当に楽しかった。」

「じゃあね、兄ちゃん」

そう、ミシュランがエヴァンに対してさよならを言い終わると、風のようにふっとその場からいなくなり、辺りは静かになり、ミシュランは消えていなくなった。

「ミシュラン!!!」

フッ…

「!?」

泣き叫び、ミシュランの名前を呼ぶエヴァン。
それに応じて場面が突然変わり、現実の空間に戻されるエヴァン。
するとそこには、エヴァンと、そして茫然と立ち、エヴァンをじっと見つめ立ち尽くしてるレオがいた。

「…レオ、くっ…」

レオの顔を見て、感情を抑えこもうとするエヴァン。だが、レオはそんなエヴァンの姿を見て、そっと優しい顔の眼差しで、

「…抑えなくていいんですよ、先生。泣いて下さい…」

「!」

「全部、吐き出していいんですよ…」

「うっ…」
それを聞いたエヴァンは、突然せきをきったように感情が抑えられなくなり、左手で顔を押さえ、レオの前でその場で声をあげ、大きく叫ぶようにエヴァンは泣いた。


「……っ!!!、ぅああぁ~!!!」

「………」

「ああぁぁ~!!!!」


エヴァンは地面につき、泣いた。
泣いて、今までミシュランに対して溜めていた思いがすべて吐き出され、涙と一緒に流れた。

「…くぅ…っ!!!」

エヴァンの泣いてる姿を見て、レオは思った。


男の人でも、泣く時は泣くんだと…。

「…先生」
レオはそっと、エヴァンの方に近寄り、一緒にエヴァンと同じ位置にかがみ肩をよせ、エヴァンをなだめた。


「…レオ」
それを見たエヴァンは、ぎゅっと前にいるレオを抱き締めた。
そして、強く抱き締め、レオの体を離さず、レオの名前をひたすら呼び、その場でエヴァンは意識がうすれ、目をつぶった。

少し時間が経っただろうか…。

エヴァンは落ち着きを取り戻し、レオの前で泣きやむのをやめた。
この時、エヴァンの両目は涙で赤く充血し、そのまま茫然としていた。

そしてレオに、取り乱してすまないと言い、また再度下を向き、目線を下にしたのだ。

レオはそんなエヴァンを見て、先生と声をかけ、なぐさめた。
そして、エヴァンに向かって、とりあえず、人間に戻る方法をさがしましょうと提案した。

エヴァンはレオのその言葉を聞いて、コクンッと無言で深くうなずいた。

そしてエヴァンは、吸血鬼になればどんな感覚で、今までどんな事をしてきたのか、レオに話しかけた。

「夢の中にいるような感覚だった。それが現実で現実でないか境目が曖昧で、記憶も断片的に途切れ、あまり何をしたか覚えていない。…そう、まるで自分の体じゃないような感覚で、誰かに操作されたような感じだった」

それを聞いたレオは、
「操作された?記憶も断片的に途切れてると今言いましたが、ほとんど覚えてないんですか?」

エヴァンはレオの問いに対して、

「…ええ、覚えてません」
と答えた。


レオはその話を聞いてエヴァンに次々と質問した。

「俺と戦った事も?」

「…ええ」

「俺を襲った事も?」

「…はい」

「料理を差し出すとき、血盛れステーキを出した事も?」
エヴァンはレオの最後の問いに対してびっくりした顔で、

「血盛れステーキ?私、レオにそんな物を提供していたのですか?」
と顔を驚かせ答えた。

レオは血盛れステーキの話題で、
「あれは、大変でしたよ」
と、エヴァンに向けて話をした。

「なんせ、戦っている最中、急にお腹が痛くなり、途中で待って、と言いたくなりましたからね。
(状況がそんな感じじゃなかったけれど…、なにせ先生、あの時本気で理性なくて、俺を喰い殺す勢いでしたからね)」

レオは血盛れステーキの話をエヴァンに、しみじみときつかったですよと話した。

そして続けてレオはエヴァンに、こんな疑問をぶつけ質問した。
「…そういえば、先生。食事の時に赤ワインを飲んでいましたが、あれはいつからワインを飲むようになったんですか?」

エヴァンはそのレオの問いに対してきっぱりと断言し、
「私は、ワインなんて飲みません!私は昔かられっきとしたビール派です!」
と、答えた。

この時、レオは思った。
(本当にほとんど何も覚えてないんですね)
レオは無言で何も言わなかった。

だが、そんな中でも、エヴァンは1点だけ、吸血鬼になれば覚えている感覚がある。

それは、餓え。
人間の血に対する渇きだ。
吸血鬼になれば力も人間の3倍の力を得られ、死ぬ事もない。

だが、代わりに、理性をなくし、人間の血に対しては異常に執着を持つ。

エヴァンも一時的にミシュランのトラウマのショックのおかげで、今も理性を保てているが、血が欠乏をすると彼自身も、何をしでかすかわからない。

だから早く、一刻も早く人間に戻らなければとエヴァンは焦りを感じ動揺していた。

レオは、エヴァンの首の噛み傷の事で、疑問をぶつけ、

「…先生、一体誰が先生を吸血鬼にしたのですか?」
レオはエヴァンの顔を見て、真剣な目でエヴァンを見た。

エヴァンは額から一滴の冷や汗を流し、レオに、

「…奴は」

と、レオに仮面の魔族の事を伝えようとしていた。


その時だった。
レオ達の後ろから、ひどくどす黒い声で、怒りに満ちた声。

そして、その声の主はゆっくりと霧のようにその場から現れ、レオ達の前に怒りの目つきをした仮面の魔族が出てきた。


「…愚かな、人間の心を取り戻したな、エヴァン」
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