文字数 4,246文字

動かなくなったエヴァンを見て、この時レオは思った。




…目の前で、人が死んだ。


…目の前で、大好きな師を失った。



一瞬にして、俺に声をかけ、生きていた先生が、


一瞬にして、泣いて、抱き締めてくれた先生が…




…今、目の前で、


身体が冷たくなって、


俺の前で倒れている。



……………



………



レオはこの時エヴァンとの、たくさんある思い出の中で、一つのエピソードが、瞬時にレオの頭をよぎった。

それはまだレオとエヴァンがあまり出会って間もない頃、

この時レオは両親が殺されて、エヴァンと2人で宿に泊まっていたベットで夜中寝ていた。

だがレオは、両親が殺された事もあり、この時レオはその時の光景が夢の中で蘇り、涙を流しながらベットで横たわっていた。

エヴァンはそんなレオを見て、そっとレオの顔に手を添え、レオをなだめた。

そしてレオの顔を見て、手を添えながら、エヴァンはレオに向かって、ぼそっとこう言ってきた。それは、

「…守るよ、レオ

私が命にかえても、君を守る」


エヴァンのその言葉を聞いて、レオは安心したのか、レオはふっと意識を失いかけ、深い眠りにつこうとしかけていた。


この時エヴァンは、レオの姿を見て、自分と重ねたのだろう。

エヴァンもミシュランを失い悲しみに触れる気持ちが、レオの姿を通して感じていたのだと思う。

そしてエヴァンは暗闇の中、ベットを椅子代わりにしてレオの姿から背を向けた。

その背中は大変もの悲しさをただよっており、哀愁漂う雰囲気を醸し出していた。


そしてレオは、そんなエヴァンの背中を見て、完全に眠りにつき、深い闇の眠りの世界におちた。

エヴァンの亡骸を見て、レオは思った。

何故、人は死ぬのだろう…。


何故、人は一瞬の出来事で命がなくなるのだろう…。

レオの両親も元気で過ごしていた。
そして村、3人で明るく暮らしていた。

だが突然、魔物の襲撃にあい、レオを庇い、命を落とし…


「…父ちゃん、母ちゃん、俺…」

レオは下を向き、生きる希望が失い、その場にいた魔物に殺されようした。

すると、


ドシュッ!!

「!?」


魔物の首を斬った後、エヴァンはレオに向けて自己紹介した。

そしてレオは、エヴァンが差し出された手をそのまま握りしめ、レオはエヴァンと共に一緒に行動をし、この時生きる術を学んだ。


多くの時間をエヴァンと一緒に過ごし、学んだレオ。

いろいろな彼との楽しい思い出が、レオの頭の中で甦る。


…そう、



エヴァンが、ミシュランを失った時のように…

そして、

大切な俺を、どんな手を使っても生かしたかったように…


…そう、


例えその力が偽りで、

悪魔の力だったとしても、

そう、


例え自然の力に反し、邪悪な力だったとしても、


…………


………


今、



この現状でレオは、冷たくなったエヴァンの亡骸を見て、


この時ほどレオは、
彼の気持ちを感じ、
こんなに生き返らせたいと感じた事はなかった。

レオは再度、動かなくなったエヴァンの身体を強く抱き締め、狂ったようにその場で泣き叫んだ。

そして、その場で呆然と二人を見ていた仮面の魔族にレオは、

「…なんで?

なんで、こんなひどい事できるんだ?

どうして?

どうして、彼にこんなひどい事をするんだ?

彼が何かしら悪い事をしたのか?

何もしてないだろう…


ただ彼はまっすぐに生き、
ひたむきに彼は、国の王になり、

そしてその立場で、民を守り国政を行ってきた。


なのに、なんで?

なんで、
そんな彼に、

ひどい事ができるんだ?」

レオの問いに対して、仮面の魔族は、静かに口を開いた。


「彼には深い闇があった。

闇があり、孤独を感じていた。
闇をもっている人間ほど扱いやすく、操りやすい。

私にとってはもっとも良い駒で、使いやすく、もっとも最適な手駒だった。」

それを聞いたレオは、仮面の魔族に向かって、


「…駒?

おまえにとって、先生はお前の駒か…」

仮面の魔族は、レオの問いに対して、


「そうだ、駒だ。

そして、もっとも優秀で優れた駒だ。

彼ほど条件が整っていい駒は他にいない。

民に愛され、生真面目で、他の国にも顔がきくからな。
(顔の容姿もいいし…)」

仮面の魔族は、レオが問いただした理由について、引き続きレオに対して質問に答え、

「私はね、レオ。人間が嫌いなんだ。

愚かで下劣で、愛がどうとかこうとか平等だとほざいている連中がね…。」

仮面の魔族は苦笑し、話を続け、


「だが結局人間は、異端な者をうけいれず、排除する。

そして排除し、恐れ、自分達以外の力のある者達を認めず消そうとする。


…そう、

この私がそうであったように…


人間と私達は決して相容れない存在なのさ。

クックック…」

レオは仮面の魔族の話を聞いて、下をうつむきながら、



「お前が人間嫌いなのは、よくわかった。

だからって、

なんで?

先生を…

先生の心を…

こんな無茶苦茶にする事はなかったのに…


………


なんで…


なんでなんだ…」


レオは泣きながら、仮面の魔族を睨み付けた。

そして、自分の腕で、涙を拭うために手でゴシゴシをし、涙を払いのけ、仮面の魔族の顔を見た。

そしてレオは仮面の魔族に向かって、目線をあわせ、仮面の魔族を見ながらこう言った。それは、

「だからお前は人間を恨み、吸血鬼だけの世界を作ろうとしているのか…

そして作り、人間を支配し、侵略して、

吸血鬼のお山の大将にでもなるつもりなんだろうな」

それを聞いた仮面の魔族は、動きがピクリと止まり、顔が強張り、表情が凍り付いた。

そしてレオにそのまま向かって、


「…侵略?

人間を支配し、吸血鬼のお山の大将だとぉ…」

と、声を強張らせ、表情を固まらせた。

そしてそのまま下を向き、仮面を手で押さえ無言になり、下を向きながら仮面の魔族はいきなりレオに向かって笑い声をあげた。

「…ククククッ

ククククッ…


アハハハハハァ!!!!!」

それも狂ったような笑い声をあげ、仮面の魔族はレオにこう怒鳴りつけ、レオの前でこう言った。それは、


「冗談ではない!

何故、私が奴ら(人間)と同列で、その上に立たなくてはいけないのか!」



「……!!?」


それを聞いたレオは、一瞬仮面の魔族の思わぬ回答にびっくりし、たじろいた。
そしてレオは仮面の魔族に向かって、

「同列?

その上に立つ?

人間を支配し、吸血鬼の世界を目指しているのかではないか?」

と、レオは仮面の魔族にそう言った。

すると仮面の魔族はすぐさま、冷やかな態度を示し、冷淡な声で、レオに向かってこう言った。それは、


「私が人間と一緒に共存ですか?

クククッ…、

ありえない…

ありえない…

ありえません。


私は人間も、

…そして元人間で吸血鬼になった者達も生かす気ではないですよ…

クククッ…」



「…!?」

レオはその仮面の魔族の話を聞いて驚いた。

そして、


…こいつ、何を言ってるんだ?

人間も、元人間の吸血鬼も生かす気ではないのだと?

と、頭を傾げ、


「では、お前は一体人間を使って、何をしたいんだ?」
と、仮面の魔族に対して疑問をなげかけた。

すると仮面の魔族は下を向き、沈黙し、そして声を低くこわばりながらレオに向かって、こう言った。

それは、



「…皆殺しですよ」

前ページへ次ページへ
88
/165
レオは仮面の魔族の質問の答えについて、絶句し、驚いた。

そして仮面の魔族にレオは、顔を睨み付け、

「皆殺しだとぉ…」

と、荒々しく仮面の魔族に言った。

そして仮面の魔族にレオは、

「何故、皆殺しなんだ?

吸血鬼にとって、お前は味方ではないのか?」

と、仮面の魔族に、レオは問いただした。


すると仮面の魔族はレオに、

「言ったでしょ、レオ。

私は人間が嫌いで、受け付けないんだと…

あんな下賤で、下等な種族など、私は認めません。



私はね、レオ…

せっかくこの有り余った力、存分に使いたいのですよ。
存分に使い、人を支配し、破滅に追い込み、絶望に嘆く姿が見たいのです。


面白いですよ…人間は…

自分に余裕がある時彼らは正義だ、愛だのたくさんほざく。

だが、余裕がなくなり、自分の身が危なくなった時、平気で人を裏切り、自分の身を確保しようとする。


私はそんな状況を作りたいのです。作って人間を吸血鬼にし、残った人間と戦わせたいのです。


親が子を殺すように、はたまた信頼していた愛する者を殺す。

この世を阿鼻叫喚の世にかえ、私はその高みの見物をするのです。」

そう言い、レオに仮面の魔族が伝えると、仮面の魔族は高笑いをし、場内は異様な笑い声で響きわたっていた。


レオはこの時思った。

恐ろしく、狂気じみた破滅の思想。

吸血鬼になった人間も生かさず殺すなんて、普通の考え方では思い付かない思想だ。


こいつは普通の魔族や魔物とは違う。

何か特別な奴だとレオは感じた。


レオは思いきって、仮面の魔族に、

「一体お前は何者だ!」
と、訪ねた。

そして、
「並みの、魔族や、魔物ではないな!」
と訪ね、仮面の魔族に向かって、叫んだ。


すると、仮面の魔族は顔をニヤッとさせた。

そして、レオに自分の正体が何者であるか明かし、レオに向かってこう答えた。それは、

「私は魔の神からこの世に使わされた者だ。

そして使わされ、この世の在世に落とされ、この世を破滅と混乱に堕としいれる者」


さっ…

仮面の魔族はそう言い、片手を前に出し、レオにお辞儀をした。


そしてニヤけた顔で、仮面の魔族はレオに向かってこう言った。それは、



「…名を、ハーバーと呼びます。

以後、お見知りを…」


そうハーバーが名前を名乗ると、
ハーバーの後ろの背中から、おびただしい黒いもやが浮かび上がり、
そのもやは、やがて人形の形をとり、
レオに向かってニヤッとした。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み