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文字数 630文字

「あなたたち、私と取引しない? 取引に応じてくれれば、このお守りはあげてもいいわ」
 私はまどかさんの言動を咎めようとした。
 
 でも、横からやよいちゃんが入ってきた。
「取引ってなんですか?」
「あなたたちのどちらかが、もう一方を殺すのよ」
 一瞬、時間が停まったような感じがした。
「え?」
 やよいちゃんの表情がこわばるのが分かった。
「生き残った方に、このお守りをあげるわ」
「……」
 やよいちゃんの目が一瞬だけ、私の方を向いた。
 その目は不安に彩られていた。
「いい加減にして下さい! そんなことをして、何のメリットがあるんですか?」
「メリットなんてないわ。ただ、一度、人が人を殺すところを見てみたいと思ったのよ」
「そんなこと……第一、お守りがなくなったら、まどかさんだって脱出できなくなるじゃないですか?」
「仕方ないわ、こんなチャンス滅多にないもの」
 狂ってる……。
「こんな話、もうやめにしましょう。そもそも、お守りがないと死ぬとか、そんなことあるわけないじゃない」
「なら、あなたが身をもって実証してみたら?」
 二人の目が一斉に私に向けられた。
 不安そうなやよいちゃんの目に、薄ら笑いを浮かべたようなまどかさんの目。

 もううんざりだ、と私は思った。

 まどかさんが本当のことを言ってるなんて保証はない。
 仮に、まどかさんが嘘をついてないんんだとしても、お守りがなければ死ぬなんてことはあり得ない。

 私は意を決して、ドアに近づいた。

 刹那、ドゴっと鈍い音が後ろで聞こえた。
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登場人物紹介

【宮本素子(みやもともとこ)】16歳
責任感が強く、面倒見がいい少女

【月宮(つきみや)やよい】14歳
気が弱くて、守ってあげたくなるような女の子

【霧崎(きりさき)まどか】17歳
理知的な雰囲気の少女

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