第2話
文字数 1,896文字
「あ? 今、こいつ馬鹿だな、って思っているでしょ?」
佐竹が言う。
「馬鹿とは思っていません。人間って起きていても寝言は言えるんだな、って思っただけです。実刑はすでに確定しているとはいえ 少しは反省の態度を見せていた方が被害者家族も納得されるのではありませんか?」
「まあお堅い頭の小麦ちゃんには簡単に理解できないか………。」
佐竹はがっかりしたように言う。
「きっと刑務所で服役している奴がどうやって人をあと二人も殺せるんだって思っているんでしょ? やれるものならやってみろよって。」
神座は反応せずにいた。
「それが魔王こと あたし佐竹摩央には可能だって言ったらどうする?」
「できません、魔王は貴女が自分でそう呼んでいるだけのただのあだ名でしかありませんし、実際に貴女はただの人間です。ただの人間だから人間の法律に則って逮捕されて今、現在刑務所に服役しているんです。」
「超能力。」
佐竹は伏し目でぽつりと呟く。
「あたしが超能力を使えると言ったらどうする?」
「馬鹿馬鹿しい………。」
神座は言う。
「世の中に超能力なんてものはありませんよ、魔法がこの世にないのと同じくらいに。」
「どうしてそう断言できるわけ?」
「見たことがないからです。」
「小麦ちゃん今、幾つ?」
「二十七です。」
「たった二十七年間しか生きていないあんたが見てきたことってそんなに多くないよね?それとも この世の隅から隅まで全部、知っているわけ?」
「それは………、わかりませんけど………。」
世の中にあふれる超能力というものは全てタネがある手品だと思っている。ただのエンターテインメントだ。実際に瞬間移動したり、心で思ったことが手に取るようにわかったり、手を触れずに物を動かせたり、カードが透けて見えたりすることはない。全て何かしらのトリックがある。それをあたかも超能力とうたっているだけのまやかしだ。
「じゃあ………。」
「じゃあ実際にやってみろ、って言いたいんでしょ?」
佐竹に言葉の先を読まれて神座は詰まる。これは心の声が読まれたわけではなくておそらく超能力者を自称する人間のほとんどが他人から言われる言葉。ただの経験則だろう、神座はそう思う。
「残念ながらね、あたしは超能力を持っているけれど 万能ってわけじゃないの。あたしが出来るのは他人に憑依すること。憑依ってわかる?」
「憑りつくことですか?」
「そ、他人の躰を思考も肉体も奪ってね、自分の思い通りに動かすことが出来る。例えば小麦ちゃんの躰を乗っ取って 簡単にここにいる誰かを殺すことだって可能。」
「無理ですね。」
佐竹の話す間や言葉の抑揚に飲み込まれそうになるのを神座は自分に言い聞かせるように無理という言葉を発して守った。
アクリルガラスに顏を押し付けて佐竹が神座を睨むようにして見た。
「あたしにはそれが出来る。」
だったら試してみてください、と言いそうになるのを我慢する。頭では他人に憑依するなんてことは出来ない、とわかっていても 万が一、魔王の言うことが本当で彼女が他人に憑依してさらに罪を犯したら、と考えると迂闊には挑発し返せなかった。
「そんなに疑うのならさ、実際にやってみせてあげようか?」
「やめなさい。」
「ふふふ、おかしい。」
佐竹は吹き出して笑った。目の前のアクリルガラスに飛沫が掛かるのが見えた。
「口ではそんなこと出来ないと言っておきながら やめさない、って………、小麦ちゃん、信じているんでしょ? あたしが憑依出来るってこと。」
神座は言い返せなかった。出来る証拠もなければ出来ない証拠もどこにもない。それで もし見ず知らずの誰かの命が無残にも奪われでもしたら、と考えると佐竹の話に乗らざるを得ない。
「でも、小麦ちゃんが信じてくれなかったから 今から誰もいいので殺しちゃいまーす。」
佐竹はそう言うと両手を打った。音が面会室に響いて 看守が立ち上がる。それと同時に佐竹は椅子から崩れるように床へと落ちて 神座の視界から消えた。
「佐竹。」
神座はアクリルガラスに両手をついて必死で向こう側の様子を覗き見る。刑務所職員が倒れた佐竹に近づいて何度か頬を打つ。しかし佐竹は目を覚まそうとしなかった。脱力し、床に倒れたまま動かない。
「呼吸は?」
神座の問いかけに看守が鼻と口元に顔を近づけて確かめる。
「あります。ただ少し浅いかも。」
「応援を呼んでください。」
職員が面会室のドアを開いて叫んだ。それでもまだ佐竹摩央は床に寝そべったままだった。演技なのだろうか、そうじゃなければ持病による発作とも考えられた。
佐竹が言う。
「馬鹿とは思っていません。人間って起きていても寝言は言えるんだな、って思っただけです。実刑はすでに確定しているとはいえ 少しは反省の態度を見せていた方が被害者家族も納得されるのではありませんか?」
「まあお堅い頭の小麦ちゃんには簡単に理解できないか………。」
佐竹はがっかりしたように言う。
「きっと刑務所で服役している奴がどうやって人をあと二人も殺せるんだって思っているんでしょ? やれるものならやってみろよって。」
神座は反応せずにいた。
「それが魔王こと あたし佐竹摩央には可能だって言ったらどうする?」
「できません、魔王は貴女が自分でそう呼んでいるだけのただのあだ名でしかありませんし、実際に貴女はただの人間です。ただの人間だから人間の法律に則って逮捕されて今、現在刑務所に服役しているんです。」
「超能力。」
佐竹は伏し目でぽつりと呟く。
「あたしが超能力を使えると言ったらどうする?」
「馬鹿馬鹿しい………。」
神座は言う。
「世の中に超能力なんてものはありませんよ、魔法がこの世にないのと同じくらいに。」
「どうしてそう断言できるわけ?」
「見たことがないからです。」
「小麦ちゃん今、幾つ?」
「二十七です。」
「たった二十七年間しか生きていないあんたが見てきたことってそんなに多くないよね?それとも この世の隅から隅まで全部、知っているわけ?」
「それは………、わかりませんけど………。」
世の中にあふれる超能力というものは全てタネがある手品だと思っている。ただのエンターテインメントだ。実際に瞬間移動したり、心で思ったことが手に取るようにわかったり、手を触れずに物を動かせたり、カードが透けて見えたりすることはない。全て何かしらのトリックがある。それをあたかも超能力とうたっているだけのまやかしだ。
「じゃあ………。」
「じゃあ実際にやってみろ、って言いたいんでしょ?」
佐竹に言葉の先を読まれて神座は詰まる。これは心の声が読まれたわけではなくておそらく超能力者を自称する人間のほとんどが他人から言われる言葉。ただの経験則だろう、神座はそう思う。
「残念ながらね、あたしは超能力を持っているけれど 万能ってわけじゃないの。あたしが出来るのは他人に憑依すること。憑依ってわかる?」
「憑りつくことですか?」
「そ、他人の躰を思考も肉体も奪ってね、自分の思い通りに動かすことが出来る。例えば小麦ちゃんの躰を乗っ取って 簡単にここにいる誰かを殺すことだって可能。」
「無理ですね。」
佐竹の話す間や言葉の抑揚に飲み込まれそうになるのを神座は自分に言い聞かせるように無理という言葉を発して守った。
アクリルガラスに顏を押し付けて佐竹が神座を睨むようにして見た。
「あたしにはそれが出来る。」
だったら試してみてください、と言いそうになるのを我慢する。頭では他人に憑依するなんてことは出来ない、とわかっていても 万が一、魔王の言うことが本当で彼女が他人に憑依してさらに罪を犯したら、と考えると迂闊には挑発し返せなかった。
「そんなに疑うのならさ、実際にやってみせてあげようか?」
「やめなさい。」
「ふふふ、おかしい。」
佐竹は吹き出して笑った。目の前のアクリルガラスに飛沫が掛かるのが見えた。
「口ではそんなこと出来ないと言っておきながら やめさない、って………、小麦ちゃん、信じているんでしょ? あたしが憑依出来るってこと。」
神座は言い返せなかった。出来る証拠もなければ出来ない証拠もどこにもない。それで もし見ず知らずの誰かの命が無残にも奪われでもしたら、と考えると佐竹の話に乗らざるを得ない。
「でも、小麦ちゃんが信じてくれなかったから 今から誰もいいので殺しちゃいまーす。」
佐竹はそう言うと両手を打った。音が面会室に響いて 看守が立ち上がる。それと同時に佐竹は椅子から崩れるように床へと落ちて 神座の視界から消えた。
「佐竹。」
神座はアクリルガラスに両手をついて必死で向こう側の様子を覗き見る。刑務所職員が倒れた佐竹に近づいて何度か頬を打つ。しかし佐竹は目を覚まそうとしなかった。脱力し、床に倒れたまま動かない。
「呼吸は?」
神座の問いかけに看守が鼻と口元に顔を近づけて確かめる。
「あります。ただ少し浅いかも。」
「応援を呼んでください。」
職員が面会室のドアを開いて叫んだ。それでもまだ佐竹摩央は床に寝そべったままだった。演技なのだろうか、そうじゃなければ持病による発作とも考えられた。
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