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文字数 1,685文字

「午前中の時間指定だからって正午1分前にくるっていやがらせ?」

「申し訳ありません。全くそういうことはありません」

いつもの嫌みをルート配送のお客様にいわれながらも

"時間指定でも不在でいつも再配達になるお客様よりずっとまし"

と心に言い聞かせてまともに休憩もとらず次の配送先に向かう山本大輔の額には汗が吹き出している。
大輔が勤務している運送会社では朝8時から働いて、夜10時まで残業があり、休日は仕事で疲れた体を休めるだけで終わってしまう。ネット通販のセール期間で最近はさらに物量が増えて荷物を配送するのに一苦労だ。

"こんな会社いつまでもいるわけにいかない。まとまったお金をつくってできる限りはやく辞めよう"

と思い、前々から株の購入を進めていたのだが、最近の株高の恩恵をうけ、1ヶ月分の給料より前月比の株の含み益の方が多くなっていた。

"このままだと2年後には一生分のお金が出来上がっているんじゃないか?"

と考えながら歩いて帰っている途中、普段は見ないような屋台があることに気付いた。

よく見ると

"時(人生) 買います" 

という札が着いていた。

気になって屋台を覗いた大輔に店員が

「ここはあなたの時(人生)・健康を売って、それと同じぐらいの価値の契約・もの・こと(体験)が手に入る店だよ。」

と言ってきたので、

「今日から会社を退職するまでの2年間の時間を売って、その退職日の相場の取引開始時間に全ての株を売却する契約なのだがその契約はできますか?」

と尋ねると

「2年間、会社での嫌な思い出を残さずに、2年間の株の値上り益を享受しようとしてるようだが、その契約は私にとってどんなメリットがあるんだい?」

と店員が答えたので、

「メリットはないけど、そこをなんとか頼むよ」

と大輔はすがり付くように頼んだ。

店員は

"本来ならほかに、何か健康をもらわないと契約はできないんだけど、2年後にこいつの持っている株の会社が倒産していて、こいつが絶望することになるのもおもしろいなぁ"

と思ったので、

「じゃあ、この契約書にサインして」

といってサインを促しました。

サイン直後、大輔はパソコンの前に座っている自分に気付きました。

時計の針は、2年後の取引開始時間を過ぎているのが確認できたので、

"大損していたらどうしよう?"

と思い恐る恐るパソコンで取引の履歴を確認すると、なんと一生分のお金が利確されているではないですか。

"やった。かけに勝った。これで再就職もしなくていいし、なんでも買えるぞ。まず腹ごしらえしてから外出しよう。"

と思いカップ麺のお湯を湧かそうと水道水をヤカンにいれようと蛇口をひねったが、水がでません。

"おかしいなぁ"

と思い玄関から外にでると、隣のアパートの人がポリタンクに水が入ったものを運んでいたので

「水、出ないんですか?」

ときくと

「老朽化した水道管が破裂して断水してて復旧の目処はたっていないそうよ」

と答えられました。

仕方なく車で買い物に行くため、車のエンジンをかけようとしましたが、かかりません。

車屋さんに電話をかけると

「修理する整備士が人手不足でいなくて修理に1ヶ月はかかりますよ」

といわれたので

「代金を倍額払うからすぐやってくれませんか」

と頼んだところ

「人がいなくてできないんだ金の問題じゃねぇ」

と怒って電話を切られてしまいました。

"車が使えないなら、運んでもらえばいいんだ"

と思い、ネット通販サイトをひらき、買いたいものを"ポチッ"とやる直前、但し書きを見て驚きました。

「2年前に注文してから翌々日に届いていた物が届くまで一週間かかる……」

そんなこんな時間と体力を使いもう午後6時50分です。

"疲れたしコンビニで飯買ってきて食べて、さっさと寝てしまおう。"

と近くのコンビニによったときコンビニの店員に

「もう閉店なんでまた明日お越しください」

と言われてしまいました。

大輔は

"2年たって現場で働いている人が少なくなり、金があっても、ものやサービスが手に入らない時代になってしまったんだ"

とショックを受け、田舎町に土地を買って自給自足生活をするために不動産屋にとぼとぼと歩きだしましたとさ。



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