自由の翼

文字数 1,082文字

「もう疲れた」

中学校からの帰宅中に商店街で買い物をしながら弱音が漏れた。

中村ひなたは、アルコール依存症の母親の介護をしながら学校に通う中学生だ。
両親は離婚しており、父親は消息不明で頼れる親族や友達もいない。
介護を母親が感謝するときもあるが、不機嫌なときは暴力を振るわれるのでたまったものではない。そんな生活が5年も続いていた。


そんなひなたの目に

"時(人生)・健康買います。"

という札を着けた屋台が飛び込んできた。

「いらっしゃい。この店はあなたの時(人生)・健康を売って、それと同額の契約、もの、こと(経験)を手に入れることができる店だよ。」

と販売員が言った。それを聞いて

"今の生活をすぐにでも抜け出したいが、時(人生)をある程度売らなければ、健康で全てまかなうことになって、すぐに死んでしまう。だが、あまりに時(人生)を売ってしまっては、人生楽しめない、売れる時(人生)は10年がギリギリだ。"

と思い、

「10年間の時間を犠牲にして、都心部の大企業に住み込みで働く正社員になる契約を結ぶとしたらどれくらいの健康を犠牲にしなくてはなりませんか?」

と、ひなたは尋ねた

「そうさねぇ。あなたの今の状況と年齢を考えると10年の時間ではそれなりの健康をいただくことになるし、10代の普通の青春をおおかすることもできなくなるよ。あと10年の間にお母さんが死んでもその時にそばにいてあげることはできないけどそれでも契約するかい?」

"普通の青春などとっくにあきらめているからどうでもよいが、それなりに健康が損なわれたら、その後の人生に支障がでるのではないか?暴力を振るわれていても唯一無二の母親の最後にも立ち会えないのは親不孝じゃないのか?"

と思い、ひなたは一瞬、躊躇したが

「このまま介護を続けていても母親はアルコールを止めないだろうし、暴力を振っても介護をしてもらえる今の状況に甘えてしまっています。第一この状況では私がもちこたえられず共倒れなので契約を結びます。」

と言って覚悟を決めた。

「じゃあ、この契約書にサインして契約成立だ」


ひなたがサインをした直後、


「中村さん、ちょっと寝ないで下さいよ」


車椅子でデスクワーク中に居眠りをしてしまった自分を起こす声が聞こえてきた。

"そうか契約通り、足が不自由になってしまったか"

足が不自由になったことを少し残念に思ったが、

"足は不自由になってしまったけれど、介護の仕事から解放されて、暴力も振るわれなくなったし、背中には見えない自由の翼が生えているわ。これから人生楽しむわよ!!"

と思い直した。

中村ひなた現在25歳、まだまだ人生これからです。

















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