時を買う人

文字数 1,091文字

"わがチームには彼(森)のような決定力のあるFWがどうしても必要なんだ。
あと1億円あれば、契約が成立するのに…"

弱小サッカーチーム"アスレチックス"のGMの田中は悩んでいた。チームは昨年のリーグ戦を通して戦って決定力さえあれば優勝を狙えることがわかっていた。しかし選手を獲得する1億円の目処がどうしても立たなかったのだ。

帰り道、悩みながら商店街を歩いていると、

"時(人生)・健康 買います"

と書かれた札を着けた屋台をみつけた。

"あやしいが冷やかしで寄ってみるか…"

「いらっしゃい。このお店はあなたの時(人生)・健康を売って、売った金額と同等の、欲しい物·契約·こと(経験)が手に入るお店だよ。でも時と健康を売るんだから時と健康は手に入らないし、愛、幸福、友情とか抽象的なものもダメだよ。あと、もし時を売ったらその分、全体(世間さま)の時間は過ぎてしまうよ。」

「契約に1億円かかる森選手と契約を結びたいが、どれぐらいの時と健康を犠牲にすればいいだろうか…」

「そうだねぇ。あなたならリーグ戦・最終戦の日に死ぬとして、ちょうど1億円の契約になるねぇ」

"こんなことはありえないだろうが、今年を逃したら私が死ぬまでに優勝なんてできない。死んでも構わないから優勝したい。"

「私の人生・健康を売ります」

「じゃあこの契約書にサインして」

田中がサインをすると、気付いたときには病院のベッドにいてテレビでサッカーの試合を観戦していた。

屋台で契約したように、森選手が加入しており期待通りの活躍で、この試合に勝てば優勝という最終戦の状況だった。

試合は、0-0で進み後半アディショナルタイム森が倒されPKを獲得した。

"決めれば優勝だ。やった。人生と健康を犠牲にしてまで契約してよかった。"

と画面が観れないほど涙を浮かべながら田中は思った

が、次の瞬間

「森、外した~。そしてここで試合終了のホイッスル。アスレチックス優勝を逃しました。」

と実況のアナウンサーが叫んだのが聞こえた。

"ダメだったか、人生・健康を犠牲にしたのに無駄じゃないか"

と天国から地獄におとされた気分だった。

そこに

「俺がPK外したせいで優勝できなくて申し訳ありませんでした。訳がわからないうちにアスレチックスと契約していたけど今ではこのチームとサポーターが大好きです。来年はこんな悔しい思いしなくていいようにこのチームに残って必ず優勝させます。」

と森選手のインタビューが放映された。

"森選手がこのチームを愛してくれるようになってよかった。これでチームは大丈夫だ"

そう思い田中は息を引き取った。

優勝を逃したにもかかわらず最後はとびきりの笑顔だった。







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