プリップリン

文字数 828文字

草井健太は落胆した。

汐崎乳業の基幹システムの障害により「プリップリン」などほぼ全てのチルド商品が一ヶ月間の出荷停止となった為だ。

その中でも健太が大のお気に入りだった「プリップリン」は、出荷停止がニュース等でわかるや否や全てのスーパー、コンビニ、ドラッグストアの店頭から姿を消した。

"商店街の小さなスーパーではまだ売っているかもしれない"

と思い、普段行かない商店街のスーパーまで足を運んだのだが、やはりそこでもすでに売り切れていた。

"晩酌はしない俺の唯一の楽しみなのに一ヶ月間なしで過ごすのはやだなぁ"

と残念な気分で商店街をあとにしようと思ったとき、

「困り事ですか?」



"時(人生)買います"

という札の着いた屋台の店員が話しかけてきたので、話だけでもしてから帰ってもいいかと思い、屋台に寄ってみることにした。


「この店はあなたの時(人生)・健康を売って、それに見合った契約・もの・こと(経験)が手に入る店だよ。」

と店員が説明したので、

「"プリップリン"が一ヶ月間手に入らない。"プリップリン"がない生活はあり得ないので、いまから1ヶ月の人生を売ってすぐさま"プリップリン"を食べる契約をしたいのだがOKだろうか?」

と健太が尋ねると

「一ヶ月間に、やったことや起こった出来事の思い出は一切残らないけど、それでもよければこの契約書にサインして契約成立です。」

と店員が契約書を出してきたので、健太がサインするや否や、自宅で風呂上がりに"プリップリン"を食べようとしている自分に気が付いた。

食べてみてやはり

"うまい"

と思ったところに、

「あれ、出荷停止期間中に"林永の焼きプリン"の方がうまいとかいってたのにまたそれを食べることにしたの?」

と妻が晩酌のビールを飲みながら話しかけてきた。

"1ヶ月の間にそんな浮気をするはずがない"

と思ったが、冷蔵庫を開けてみると"林永の焼きプリン"が確かに大量に入っていた。

おそるおそる食べてみて健太は思った。


"あ、こっちのほうがうめぇな"

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