P.13

文字数 584文字

「違う。先に息を吐く」

言われた通りに息を吐く。
その間に榛瑠は立ち上がると、部屋の天井照明をつけた。陰影を帯びた部屋が一気に平面的に明るくなる。

一花は深呼吸を何度かすると、椅子に腰掛けようとする榛瑠に言った。

「ありがとう、少し落ち着いた。ね、次の問題も教えてくれる?」

榛瑠は身を乗り出し問題に目を通すと、ざっと解き方のヒントを教える。

「あ、なんとなくわかった気がする。ちょっと、待って」

そう言って一花は残っていた苺にデザートフォークを刺すと二つ続けて食べて、それから問題を解き出した。

解いている間にもまた一つ食べると榛瑠に言った。

「最後のいっこ榛瑠にあげる」

ひとつだけ苺の残った器を軽く押して言った。

「いいですよ、別に。お嬢様が食べれば」

「だって、もともとあなたのだし。苺好きだし。……ああ、なにこれ、もうちょっと待ってね」

そう、焦り気味の声でいうと、ノートに書いたものを消し出す。

榛瑠は差し出された苺を手で摘むと、先の方だけ半分かじった。

「一花」

名前を呼ばれて一花は顔を上げた。と同時に口元に甘酸っぱいものが入れられる。

「⁉︎ なに?」

「イチゴ、半分甘い方だけ頂きました」

「何それ? なんかひどいんだけど!」

榛瑠は笑うと言った。

「で、解けたの?」

「……まだです」

「ほんとに、なんでかな」

榛瑠はわざとらしくため息をつくと、席を立って彼女の横に立ちノートをのぞき込んだ。
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