P.11

文字数 616文字

榛瑠は目の前にいる女の子を気にするふうもなく、手元の古めかしい本を読んでいた。

古い趣のある大きな机の向かいの椅子に一花は座って、ノートにペンを走らせている。

「できた!」

「できましたか、見せてください」

榛瑠は本から目を離してノートを受け取ると、ざっと目を通した。

そして、すぐに正解ですと言って、ノートを再び返した。

「やった! あー疲れた」

そう言って一花はノートの上に突っ伏した。

「疲れたってまだ二問目ですよ。まだあるんでしょう? 宿題」

一花は顔を上げる。

「あるけど、ちょっと休憩。だって、こんな応用の文章題ばっかり出すなんてひどくない? 数学の野崎」

「野崎先生がどんな方かは知りませんが、応用問題と言っても教科書レベルですよ。それに、良問を選んであると思います」

「そりゃ、あなたみたいに数学の難問を解くのが趣味の人にはどってことないでしょうけど。私には難しいの!」

一花は榛瑠に八つ当たり気味に言葉を投げつけると、机上のノートに再び頭を乗せ横を向いた。

「休憩するのはいいですけど、でもその調子だと来年高等部に上がったら、少々大変かもしれませんよ」

「いいもん、そしたらまた榛瑠に教えてもらうもん」

「そういう問題じゃないと思いますけど」

「そういう問題なの」

榛瑠はそれに答えず手元の本に目を戻した。日が傾き始め、天井の高い、書架に囲まれた重々しい部屋を薄暗くしていく。やがてかすかに寝息がした。

榛瑠は目をあげると一花を見て「あーあ」と呟いた。
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