P.10
文字数 705文字
彼は不思議そうな顔で私を見た。
しまった、なんでこんなこと口走ってしまったのだろう。
榛瑠は笑顔を浮かべた。
「大丈夫です。これも忍耐力鍛えてると思えば無駄ではないし。それよりニンジンのスープ、賄いにもでる?」
「もちろん」
「じゃあ、それを楽しみにちょっとやってきます」
そう言って彼は出て行った。
私はスープの最後の味見をして、少し塩を足して火を止める。
このスープを彼が好きなのは知っている。最初に出したとき、とても喜んでくれた。
ある程度の量を作らないと美味しくないので、そう度々は作らないが、作るときはいつも榛瑠が頭に浮かぶ。
彼が喜んでいた顔を思い出す。
高校生相手に馬鹿らしいよね、と思う。口には出せない。この感情を名付けようとも思わない。
ただ、思うのは、誰かを思って作るほうが料理はきっと美味しくなるっていうこと。
愛情が一番の味付け、とかそういうことではなく。
誰かのため、とその人を思うと、ひとつひとつが丁寧になる気がするのだ。
切り方、下ごしらえ、盛り付けまで集中する。言い訳が減る。
そして何より、思う誰かがいるというのは幸せな気分で作れるのだ。
私は毎日たくさん作るし、食材を美味しくしようと思うし、そうすると目の前の事に集中してしまう。
だからこそ。
私はデザートの準備にとりかかった。
盛り付け用の苺を取り出して洗って水気をふく。それからミントやベリーやら。
手早く、でも丁寧に。
ふと、榛瑠がおやつを作っているときの顔が浮かんだ。
集中している真剣な顔。
そんなにまでしなくても、と思って見ていたが、きっと楽しんでいるのだろう。
彼もきっと。
ひとつひとつ、心をつかって。
あなたを、想って。
1 :厨房 < 了 >
しまった、なんでこんなこと口走ってしまったのだろう。
榛瑠は笑顔を浮かべた。
「大丈夫です。これも忍耐力鍛えてると思えば無駄ではないし。それよりニンジンのスープ、賄いにもでる?」
「もちろん」
「じゃあ、それを楽しみにちょっとやってきます」
そう言って彼は出て行った。
私はスープの最後の味見をして、少し塩を足して火を止める。
このスープを彼が好きなのは知っている。最初に出したとき、とても喜んでくれた。
ある程度の量を作らないと美味しくないので、そう度々は作らないが、作るときはいつも榛瑠が頭に浮かぶ。
彼が喜んでいた顔を思い出す。
高校生相手に馬鹿らしいよね、と思う。口には出せない。この感情を名付けようとも思わない。
ただ、思うのは、誰かを思って作るほうが料理はきっと美味しくなるっていうこと。
愛情が一番の味付け、とかそういうことではなく。
誰かのため、とその人を思うと、ひとつひとつが丁寧になる気がするのだ。
切り方、下ごしらえ、盛り付けまで集中する。言い訳が減る。
そして何より、思う誰かがいるというのは幸せな気分で作れるのだ。
私は毎日たくさん作るし、食材を美味しくしようと思うし、そうすると目の前の事に集中してしまう。
だからこそ。
私はデザートの準備にとりかかった。
盛り付け用の苺を取り出して洗って水気をふく。それからミントやベリーやら。
手早く、でも丁寧に。
ふと、榛瑠がおやつを作っているときの顔が浮かんだ。
集中している真剣な顔。
そんなにまでしなくても、と思って見ていたが、きっと楽しんでいるのだろう。
彼もきっと。
ひとつひとつ、心をつかって。
あなたを、想って。
1 :厨房 < 了 >