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文字数 638文字

私は手についた魚の臭みをシンクで洗い流しながら彼を横目で見る。

白い皿を手に、壁際のカウンターにもたれかかりながら苺を手でつまんで食べている。

相変わらず綺麗な子だな、と思う。

彼に最初に会ったとき、一瞬息を止めたのを覚えている。

厨房で働く為にこの屋敷を訪れた初日の朝だった。

私はこんなお屋敷で働くのは初めてで、緊張していたせいもあって何も考えず正面玄関から訪れてしまった。本当は使用人用の出入り口に行くべきだったのに。

けれど、執事の嶋さんは怒ることなく迎えてくださって、ただちょっと困っていた。

「厨房に案内したいところなんですが、私はお嬢様にお声がけする時間ですし、さてどうしたものか。しばらく待ってもらってもいいでしょうか」

もちろん、と私は答えた。

そこへ、「どうかしたんですか、嶋さん?お客様?」という声がした。

声のした方を向くと大きな階段があって、そこを金色の髪の、背の高い男の子が降りてくるところだった。

彼は学校のものと思われるグレーの制服をきちんと身につけ、無駄のない動きで降りてくると、私を見て柔らかく笑った。

私は一瞬息を止めた。それくらい魅力的な笑顔だった。

結局、榛瑠という名のその子が私を厨房まで案内してくれた。

「屋敷内はおいおい嶋さんか誰かが後から案内すると思います。すみません、私もこのあと学校なので」

声変わりの済んだらしい落ち着いた声で彼が言う。

「ごめんなさい、忙しい時間に来てしまったようで」

「そんなことないですよ。お嬢様が時間に起きてこないのが悪いんです」
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