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文字数 626文字

「何か、食べるものない?ノコさん」

厨房の両開きのドアの片側を空ける音とともに入ってきた声に、私は振り返った。

金色の髪の背の高い少年がそこに立っていた。

「どうしたの?お嬢様が何か?」

「違う、俺です。お腹すいて。なんかないかな?」

どこかいたずらっぽい笑顔をこちらに向ける。私は一瞬、ドキッとする。

こんな10歳以上年下の高校生相手になんだっていうの。

「珍しいのね。今ちょっと手を離せないから冷蔵庫のぞいてみて」

私はディナーに出す魚の下ごしらえをしつつ言う。

うん、と言って彼は大型の冷蔵庫を開けて中を覗き込む。

「あ、チーズもらいますね」

そう言って、常備してあるプロセスチーズを一つ口にくわえると、まだ覗き込んでいた。

「そこにイチゴの入った器があるでしょう?」

「これ?」

そう言って彼は苺が山盛り入った白い深皿を取り出す。

「デザート用に用意したけど、思ったより熟しちゃって。使うのやめたから良ければ食べる?」

「いいの?全部?」

本当はジャムにでもすれば使えるかと思っていたが構わないだろう。

「いいわよ。でも、傷んだところ簡単にはとってあるけど、まだ残っているかもよ?」

「いいよ、サンキュ」

そう言って、予想外なほど嬉しそうな顔をする。

「本当に、珍しいわね、榛瑠(はる)くん?お昼少なかったの?」

彼の行っている私立学園では豪華と言っていい昼食が学園側で毎回用意されている筈だ。

「生徒会関係の仕事でバタバタしてたら、きちんと食べられなくて」

赤く熟れた苺を口にしながら榛瑠が言った。
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