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文字数 680文字

「うお、悪かったから!」最初に言った男の子が大きな声で言う。「悪かった!だからこっち見るな、榛瑠。お前の笑ってない笑顔、ちょー怖いって」

「歩いて帰る?」榛瑠がその子を見て言う。

「? ! どうやって!?」

「バカだ……」「あーあ」

私はやりとりを聞いて思わず吹き出してしまった。榛瑠が私を見てちょっとバツの悪そうな顔をした。

「すみません、騒いで。グラス、後で返しに行きますので」

私は厨房に戻りながら、何度か笑ってしまった。

なんだ、びっくりするくらい、普通に高校生してるんじゃない。

それで、多分、友人達から大事にもされている。きっと、彼よりある面ではずっと恵まれた子供たちだろうに。

榛瑠の友達への態度の悪さもむしろ、高校生くらいの子の自意識の発露という気がして私には好ましく映った。

でも、一歩自室を出れば。

屋敷内では、彼はずっと柔和になり、寡黙になり、そして。

榛瑠は私の目の前で再びお嬢様に苺を食べさせていた。

「でも、ちょっと傷み始めたのをもらったんですけどね、これ」

「へいき。あ、でも榛瑠はいっぱい食べた?」

「うん、もともと山盛りあったから」

「そうなんだ、よかったね。苺好きだもんね」

ああ、そうなんだ……。

「あ、数学! 残りは勉強しながら食べる。図書室でいいよね?」

明らかにわかりやすく榛瑠がため息をついた。

彼はお嬢様に多くの時間をとられる。もともと高校生ともなるとそれほど家にいるわけではないが、だからこそ余計、割かれる割合は多くなる。

彼はここでは本当に、一花様のお世話係であった。

平凡な女の子の後ろにいる影。外とはまるで違う。お嬢様も分かっているのかいないのか。
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