火と霧

文字数 7,735文字

例の一件以来、美雪に対すイジメはなくなったらしい。代わりに僕と美雪との嫌らしい噂がひとり歩きし始めた。噂の出処は大体見当が付くが、それぐらい痛くも痒くもなかった。美雪とは相変らず接点のないまま学校生活を送っている。だからそういった噂も次第に収まった。
彼女のことはなんだかんだ心配だけど、その心配を上回る大きな事件が起こった。
ちょうど修学旅行の時期だった。各クラス委員に行き先のパンフレットを配り、注意事項などを説明した後、生徒会の仕事もピークを過ぎた。
行き先は奈良である。その辺はありきたりではあるが、窮屈な学校生活から一時抜け出せるから、楽しみにしている生徒も少なくなかった。僕にとっても、新学期以来仕事に追われる日々が続いてきたからストレスが溜まっていて、ちょうどいい息抜きになるのだ。
出立の日に、思わぬことが起きた。
その日の朝食に、母の姿が見えなかった。母はいつも早起きの方で、寝過ごしたことはなかった。それが気掛かりになり、様子を見に母の部屋を訪れた。
母に声をかけたが、返事は気怠そうだった。体温を測ってみて、案の定熱を出したようだ。慌てて濡れタオルを持ってきて、母の額に乗せ、それから美雪に消化しやすいお粥を作ってもらった。
困ったことに、修学旅行の出立に生徒達は校門に集まり、バスに乗る予定だったから、生徒会長の僕はその場に居合わせないといけない。学校へ行くのに一時間もかかるから早めに家を出ないと間に合わない。
すでに退職した閑子婆さんに頼むべきか?それとも近くの診療所の先生に来てもらうべきか?
悩む所を見て、美雪は珍しく声をかけてくれた。
「私が介護する。あなたが学校へ行って」
いつもの彼女なら想像もできないその言葉に驚き、僕は信じられない目で彼女を見た。
「君はどうする?修学旅行に間に合わないよ。やはり閑子婆さんを呼んだ方がいい」
「あの人に迷惑でしょ。私は元々修学旅行に興味ないから、さぼっても構わない。あなたは生徒会長だから、立場上そうはいかないでしょ?」
いつもと違う彼女に引っかかりを感じなくもないが、その時は急いでいたのでその提案を受け入れた。
「分かった。先生に言っておくよ。母のことは頼む」
それから僕は急いで家を出た。学校へ行く途中、ずっと先程のことについて考えていた。
あれは何だっただろう?修学旅行をさぼりたいのは、まぁ理由として納得できるが、母の介護を申し出すのはやはりどこか違和感を感じる。僕のために嫌なことを引き受けたか?それは流石に自惚れ過ぎた。
訳の分からないまま学校へ着いた。校門の前にかなりの人数が集まって、各々雑談していた。クラス別に整列し、バスを待っていた。予定時刻にやってくるバスに乗り、奈良へ出立した。
道中、美雪と母のことを考えていた。あの二人はお互い嫌っている。嫌う相手を看病するのも、嫌う相手に介護されるのも、どういう心境で向き合えばいいかは想像つかない。果たしてうまくいけるだろうか。
僕は美雪に対し、いつも過剰な程心配している気がする。自分は彼女に何もしてやれなくて悔しかった。愛する人達をなくし、うちでは酷い扱いを受け、自分の殻に閉じ込めるしか身を守る術がなかっただろう。彼女は失う苦しみをいっぱい味わってきたから、失うことうぃ恐れて、希望を持つことすら恐れていた。だから僕のことも頑なに拒絶した。そんな寂しい思いを抱えて生きてほしくなかった。
彼女の力になりたい。いつもそう思っているが、井野家の肩書きを背負っている時点、自分の意志に沿って生きることは許されていない。棘の生えた蔓に全身縛られたように、振り解こうと前へ進む度、その棘は体中に食い込んだ。痛みで足が竦んでしまうと、美雪がどんどん離れて行く気がしてならない。
ふと窓ガラスに映る自分の顔を見た。眉間にしわはできて、酷い暗い顔をしている。せっかくの修学旅行がこれじゃあ台無しだ。
奈良に着き、宿泊先の旅館に荷物を置いて、旅先の注意事項を短く説明した後は自由行動だった。生徒達はグループを作って、パンフレットに乗っていたポイントを回るルートを自分らで決めて回っていく。僕何人かに声をかけられたけど、誘いを全て断った。
一人でゆっくりしたい気分だ。
旅館の脇に小道があって、それは後ろの竹林に続くようだ。その小道を辿って竹林に行った。竹林の中は穏やかな空気が漂っていた。竹の葉が微風に揺れて擦れ合い、その音は波のように心を落ち着かせた。黒い土の上に枯葉と木漏れ日が点在して、風と共に踊っているように見えた。
竹林を抜けたら一面芝生が広がっていた。あまり遠くない先にキレイな湖が見えた。回りは幾つクヌギが生えて、その下で休憩する人もちらほらいる。公園の中は鹿がうろうろして、人に寄って集って餌を求めている。平和な景色であった。それを見ていると心も幾らか柔らかくなったような気がする。
その公園は意外と広かった。湖に沿ってゆっくりと散歩しながら見学していたら、一周して宿に戻るのに二時間もかかった。その二時間の間、抱えていたことを一旦忘れて、ただ目の前の景色を堪能するように過ごしてきた。息抜きとしては悪くはなかった。
夕方の頃、父から急に電話が来た。今すぐ家に帰ってこいと言われた。父によると、屋敷は火災に遭ったらしい。母は火傷が酷くて今病院に運ばれて治療を受けている最中だ。要件だけ伝えて電話を切った。美雪のことは一言も言及しなかったら、心配で電話をかけたが、繋がらなかった。
先生に事情説明した後、慌ててタクシーを呼んで家路を急いだ。
地元に帰り、先に病院へ向かった。病院に着くと、父の秘書が入口で待っていた。母の場所に案内してもらいながら、事情を聞かされた。火災の時、母は自室で寝ていたらしい。救出され際の火傷は酷くて、すぐ手術を受けないといけなかった。屋敷は木造だから火の手が広がるのが早かった。そのせいで屋敷はほぼ焼失したようだ。住める場所がなくなり、しばらくの間はホテル住まいになるそうだ。美雪は先にホテルに行かせた。
火事の原因は調査中だが、推測では火の無用心が原因だそうだ。料理をしている最中、塩がないと気付いた美雪が慌てて近くのコンビニに買いに行った。出掛ける時火を止めることを忘れて、返った時にはすでに手遅れだった。美雪は出かけたことで一難を免れたようで、怪我はなかった。そして何故彼女がここに居ないのかはなんとなく分かった。
手術室の前にやって来て、扉の上の「手術中」のランプが赤く輝いていた。廊下は僕と父の秘書二人だけだった。二人は無言のまま手術室のランプと睨み合っていた。しばらくして、秘書の方に電話が来た。彼は電話に出て、それからその場を離れた。そこに僕一人取り残された。
僕は廊下のベンチに座り、まだ方向性のない気持ちを整理した。
長い間「手術中」のランプと睨めっこしたせいか、時間が止まっているような気もした。僕は見上げる彫像にでもなったような気分だ。
赤いランプが消灯につれて、世界は再び動き出したようだ。手術室から物音がして、それから扉は開いた。僕は立ち上がって先生に事情を聞いた。
先生の顔を芳しくないようだった。
「できる事はした。後は患者次第だ」
ストレッチャーの乗せられた母はミーラのように、全身包帯に包まれ、ナース達に集中治療室に運んでもらう予定だった。医者の先生に色々聞かされた後、病院でする事がなくなり、一旦美雪の居るホテルに向かった。
ホテルの部屋は普通のツインベッド部屋だった。そこに大きな窓があって、夜景が見えるので見晴らしは悪くなかった。窓の前に椅子が二つ置いてあって、美雪はその内の一つに座って夜景を眺めているようだ。ベッドラップしか着いていない部屋は仄暗くて美雪の後ろ姿もぼやけて見えた。
「来たの?」
彼女の抑揚のない声は背中越して伝えてきた。相変らず感情は読めなかった。
「無事だった?」
「うん。平気」
明かりを付けて部屋はぱっと明るくなった。美雪の背中姿が蒼白になったような気がして、心配を抱えながら彼女の隣に座った。
彼女を顔を覗いてみた。相変らず物静かで、少し憂いげを帯びている顔付だった。彼女は外を眺めていた。僕もその視線に沿い、外を眺めた。一面暗闇に町の明かりが飾っていた。屋敷の方角に目を向けたが、そこは暗闇に包まれた。
「奥様の容体は?」
「あまりよくない。これからが正念場だそうだ」
「そう」
短くて素っ気ない返事だった。
「病院へ行ったか?」
「いええ。私にはその資格はないから」
そのことについて僕に言えることはなかった。
「修学旅行をダメにしちゃったね。ごめんね」
「何で君が謝る?別に責めるつもりはないよ」
「あなた以外にそう思ってくれる人はいないわ」
そう言って彼女はようやく僕の顔を見た。彼女は不安そうな顔をしていた。救いを求めるような目で僕を見詰め、今にも涙が出てきそうだ。そんな顔を見たのはいつ以来だろう。
僕はそっと彼女の頬にふれ、溢れそうになった涙を拭った。それから優しく声をかけた。
「お腹すいたか?外で食べよう」
美雪は無言で頷いた。今までの冷たさも意固地もどこかに消えてしまったように、昔の彼女に戻ったようだ。こんな大変な時期に不謹慎かもしれないけど、僕はそれが嬉しく思った。

二日後、母は重篤であの世へ行った。
病院から遺体を斎場に運んでもらい、そこで葬儀を執り行った。
葬儀の当日は人がいっぱいやってきた。母方の親戚や父の知人の政治家や実業家も参加してくれた。喪服を着ていた人達は知らない顔が多いが、漏れなく僕に挨拶してくれた。
僕は他の事を考えながら、挨拶してくる人達に機械的に対応した。
人生において、これが三度目の葬式だった。初めは事故で亡くなった和彦おじさんと静流さん達の葬式だった。あれは簡素で寂しい葬儀だった。会場は小さく、参加者も身内だけ、今日と比べ物にならなかった。二度目は祖母の葬式で、今みたいに大勢の人が来て、黒服祭りでも開くような勢いだった。
今にして思えば、死の気配はいつも僕の回りに漂っていて、ふとしたことで回りの人間を暗闇に飲み込んだような気がする。
偶然だったかもしれないけれど、偶然の連続は人を運命に意識させられる。もしそれは運命であるなら、死の気配はこれからもなお僕に取り憑き、回りの人達を飲み込んでいくだろうか。
美雪はここへ来ない。祖母の葬式も母の葬式も参加しない彼女は、まるでいない人間のように扱われた。井野家の人間は彼女を本当の養子だと認めていない。それについてはもう怒る気さえ起こらなかった。こんな葬式に、むしろ出ない方がいいのだ。
葬式というのが、死人のために行うことではない。死んだ人に取り残された人々の思いや欲望のために行ってきたと言ってもいい。それは生者が死者への割り切りの儀式であって、時として人間関係を維持する目的にも使われてきた。参加者の胸の内に様々な思いを抱え、表立っては喪服の色のように統一された感情を表している。ここは黒い服を着ている役者しかいなかった。似たような仮面を付けて、悲劇に見せかけた喜劇を演じてみせた。それはある意味死者への当て付けのようにも見えた。
だから僕は自分の感情を殺した。そうでないととてもその場にいられなかった。

母の葬式の後、東京へ引っ越すことになった。
屋敷は焼失で住めなくなったし、建て直すにも時間がかかった。何より父はかなり前から東京へ移住し、今後の活動を考えるとそちらで暮らす方が便利だということらしい。火事のことは新聞の片隅に短い記事が載っていただけだった。調査も事前の推測と同じようで、火の無用心が原因だった。手続きなどが済んだ後、父が用意したマンションに引っ越すようにと言い渡された。
引っ越す前にマンションへ行ってみた。場所は東京の目黒区にあった。屋敷程広くはないが、二人が住むのに十分な広さだった。僕と美雪の部屋以外、空き部屋が二つあり、客が来るとき泊まっても困らないものだ。奥に物置もあった。居間は寝室の二倍あまりの広さがあり、右に続くのはダイニング、左側はベランダだった。
家に置いてあった物はほとんど焼失したから、荷物は少なかった。足りない物はそちらで買い揃うことになる。出立の日が決まって、もうすぐこの地とはおさらばだ。
「あの場所へ行きたい」
引っ越す前日、美雪が唐突に言った。
思い出が沢山残るこの地でも、僕らにとって特別の「あの場所」は一つしかなかった。離れる前に見納めておく気持ちも分かるから、美雪と一緒に行くことにした。
久々にあの欠落した橋へ行き、そこから見えた景色は昔のままで感慨深かった。同時に懐かしさも感じた。同じ場所に立ち、同じ風景を見ても、昔みたいに理由のない憧れは浮かばなかった。
美雪の方を見た。彼女はあの島を真剣に見詰めて、胸の内にあどけない憧れはまだ消えてないらしい。今までの出来事で純真な思いはとっくに色褪せたと思いきや、まだ微かに残っているようだ。
「一樹、向こうへ連れていってくれる?」
島の方を指さして、軽い声で言った。
それはいつか彼女との約束だった。大人になったら一度は行ってみたいものだと考えたが、思わぬ出来事でこの地を離れることになり、次来る時は何時になるかも分からない。ひょっとしたらその約束も叶えてやれないかもしれない。今が最後のチャンスかもしれないということは僕も理解できた。
中学生でボートを借りられるとは思わなかったが、一か八かレンタル屋に交渉してみた。
ボートの貸出しをやっている店はそこから遠くない場所にあって、歩いて数分で着いた。そこに入り、坊主頭の中年の店主に事情を説明した。
「だめだめ!ガキ二人がボート借りるなんて、何かあったらただじゃ済まない。返った、返った!」
「お願いします!どうしてもあの島へ行きたいです!」
誠意を見せる時は言葉だけじゃなく、行動も示さないと。僕が持っていた現金の十万円を差し出した。
それを見て店主は片方の眉がぴくっと動いたような気がした。しばし考えた後、彼はその金を受け取った。
「いいか、借りるのは今回だけだよ。そしてこれから言うことは絶対に守れ。一つ、救命胴衣を必ず着用すること。二つ、危険な目にあったら、もしくは戻れなくなった時はこのスイッチを押せ。そん時俺がモーターボートを出して助けてやる」
言いながら渡されたのは丸いスイッチだった。GPS機能がついているようで、ここを利用する客に皆渡されるようだった。
「三つ目、これは大事なことだ。あの島へ行くと聞いたが、森には絶対に入るな。迷子になったら騒ぎになる。面倒事はごめんだ」
「大丈夫。言い付けは守ります」
それから船着場に案内され、初心者に優しい足漕ぎボートを勧められた。ペダルを漕ぐことで前進、方向転換はハンドルを操作すればいい。波は比較的に穏やかなここ近くだけ使用できるらしい。
自転車を漕ぐこつと一緒だが、水の抵抗は空気よりずっと重いから力を入れないと思いままに進まない。僕達はゆっくりと時間をかけて、やっとあの島へ辿り着けた。
ボートを船着場に繋ぎ止め、狭くて長いビーチに出た。足元の砂は細かくて、柔らかい触感だった。流れ付いたゴミと野営の後に残ったゴミがちらほら見えて、あまりいい気分ではなかった。
森はすぐ目の前にあった。名前の知らない高い木々が生い茂って、その影はビーチ全体に覆い尽くしていた。
美雪は僕の前を歩き、森へ目掛けてどんどん進んでいった。何の迷いのない彼女の後ろ姿に少々違和感を感じながら彼女の後を追った。あの店主に申し訳ないが、彼女にどこまでも付き合って行く覚悟はできていた。だから僕も彼女に続いて森へ入った。
近くて見たら森の木は高く聳えているように見えた。幹は真っ直ぐに伸びて、太さは半メートルぐらいあった。仰いで見て、茂った木の葉が空を覆い尽くし、陽の光を遮った。そのせいで森の中は暗かった。足元の黒い土の上に落ち葉が敷いていた。枯れ具合はそれぞれだったから、緑、黄色、ブラウン三色の葉っぱが混在していた。乾いた落ち葉に踏み付けうる度、さくさくと音がした。
回りを見回す僕と違い、美雪はある場所を目指すようにただ前へ進んでいった。彼女は何を考えていたんだろう。ここは「橋の彼方」であることを信じて、静流さんが辿り着けなかったどこかを探しているんだろうか。
森は見た目以上に広かったようで、どこまで進んでも似たような景色が続いていた。よくある話だけど、森の中で方向感覚が狂ってしまい、どれだけ進んでも同じ場所をぐるぐる回るだけだ。迷子になるじゃないかと不安が頭をもたげるその時、急に霧が発生した。
雪崩込むような霧があっという間に森の中を覆い尽くし、回りを白く染め上がた。まるで僕の不安が形作るように現実に現れたようだった。そして前を見ると、さっきまで居た美雪の姿がどこにもなかった。
視界に入るものは霧に見え隠れする木々の幹、黒い柱がずらりと並んでいて、謎の古代遺跡に立たされた気分だった。異常な事態に焦りは一気に登ってきた。
足元がよく見えないにも関わらず、美雪の名を大声で呼びならら走り出した。不思議なことに、自分の声は霧に吸収されたように、周囲に渡る感じがしなかった。声を出した後はすぐに静まり返っていた。それは余計に焦りを煽ぎ、走るペースもどんどん上げた。
しばらく走って、疲れで一旦止めて息を整った。回りを見渡し、美雪の姿を探した。ポケットのスイッチを押すべきは迷っている。言い付けを守れなくて、結局人様に迷惑をかけることに対して負い目を感じた。迷った末、スイッチを押せなかった。
少し休憩した後、美雪の捜索を続けた。大切な人を探すために、幽霊のように森の中を彷徨っていた。訳もなく時間相対性理論を思い出した。永遠の一瞬の怖さと限りある時間のありがたさ、それがその理論に感じたものだった。もし、僕はこのまま美雪を見失ってしまったら、僕の心は乾いた大地のように、潤すことなくずっと枯れていたままだろう。
どれだけ彷徨っていたかは分からなった。スイッチを押せないまま森を彷徨って、心が次第に萎えて行くような感じだった。
そしていつしか変な霧が引いて、森は再び仄暗いに戻った。その仄暗さが懐かしい感じさえした。しばらく探したら、美雪が何事もないように現れた。
彼女を見付けるなり、早足で彼女の元へ行き、両腕をしっかりと掴まった。幻じゃなくて一先ず安心した。
「さっきはどこへ行った?心配したぞ」
「急に霧が出て、一樹の姿見えなくて、名前呼んでも返事がないから探した。そしたら変な場所に出た気がする。気が付けば霧がなくなって、一樹が現れた」
「変な場所って、どんな?」
美雪は戸惑っているように頭を傾げた。
「さぁ……よく覚えていないわ。どうしてだろう?」
頑張って思い出そうと試みたが、結局何も思い出せなかった。
「まぁ、とにかく無事でよかった。こんな訳の分からない場所を早く出たほうがいい」
美雪はそれに賛同したように頷き、今度こそ離れ離れにならないように僕の手を握った。それから二人は昔のように手を握り合ったまま森を出た。
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