第5話

文字数 637文字

東京に戻って数年後、彼の会社の視察旅行に姉と共に招待され、パリに同行させてもらった。
彼は年に数回パリに社員を連れて行き、商品企画の素材を収集していたので、そこに加わったかたちだ。
街歩きは、彼らと別行動で夕食は一緒。パリ在住の姉の友人宅を訪ねたり買い物をしたり、それなりに楽しかったが 常々感じていた思いが、私を苦しめてもいた。
もし、彼の会社の社員だったら、今の私の立場より沢山の時間を彼と過ごし、何より楽しく感じる仕事を共に出来ただろうと、いつも思っていた。
そしてその思いは、パリ滞在の最終日に爆発してしまい、私は彼に泣きながら訴えた。何を言ったか全く覚えていないけれど、出会ってから初めての感情的な言動だった事は間違いない。
彼は押し黙ったままだった。
間も無くバブルがはじけ、広告業は予算が削られ納期はタイトになり、大手代理店の孫請けの立場は、睡眠時間を削って仕事をしても身入りが少ないような状況となり、身体を壊す前に東京を脱出しようと、姉と共に岐阜の両親の元への引越しを決めた。
彼とは時々電話で話す程度の付き合いとなり、数年後 母の知人の紹介で私は結婚した。
今はよく思い出せないけれど、彼には結婚する事を伝えてはあったが、奇遇にも式の当日に出張で近く迄来ていると彼から電話が入り、私は何となく「式に来る?」と言ってみたら、彼は平服である事を気にしつつも「行こうかな」という流れとなり、彼は私の親族と共に集合写真にもおさまった。
本当に不思議な、運命の悪戯のような1日だった。
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