第9話

文字数 714文字

ところが間も無く、彼からのメールで現在では治療法の無い病気にかかってしまったと知らされた。
私に出来る事はないかと考えて、昔ドライブで一緒に聴いた曲を送ったり、励ましのメールをした。
メールを送ると必ず彼から電話がかかり、昔と変わらない距離感で会話をした。
私たちが出会った頃産まれたばかりだった彼の1人娘の現在の様子を話してくれて、写真も送ってくれた。
清楚で素敵な女性に成長されていた。
出会った頃、彼は年上で大人しい女性と結婚した事を少し悔いるような事を言っていた。自分には、従順な女性より自由で明るいタイプの方が合っているんだと。
素敵な女性に成長した彼の娘さんの写真を見た私には、その年上で大人しい人が、夫が不在がちな中でしっかりと娘を大切に育て上げられたのを感じとれた。
自宅で療養を続ける彼は、病床から彼の友人が運営している農園のトマトを送ってくれた。
私の長男が大のトマト好きだった事と、私がいつも彼の人としての魅力を話していた事もあり、トマトのお礼を是非伝えたいと長男が言い出し、桜の季節だったので 満開の桜をバックに長男からのお礼メッセージ動画を彼に送った。
1歳の頃会った長男が22歳に成長した姿を見て、彼はとても喜んでくれた。
その3週間後、彼の夢を見たので久しぶりにメールを送った。中々既読にならず、体調が悪いのかと心配していたところに返信が来た。
それは彼の文章ではなかった。
私が動画を送りメールでやり取りをした2週間後に、彼はこの世を去ってしまっていた。
「主人は亡くなりました。」と言う文面から再婚したことを悟り、私は過去にお世話になった者としてお悔やみの言葉を伝えた。
彼が他界した事を長男に話しながら、思い切り泣いた。
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