第22話 Prisoners③
文字数 2,175文字
「ああ、ようやく見つかった。…別に人に探させても良かったのだが俺はそういうのを好まないものでな」
もうこの国を去ろうとしていたタイミングで俺を呼び止めたのはお騒がせ王子ホルニッセ=ツァハリアス、一発殴ってから帰りたいと思ってたのでちょうどいい。
「あなたは旅人だと聞いたのでな。少し聞きたいことがある」
「聞きたいこと?さっさと済ませてくれ。俺はもう帰りたいんだ」
「ああ、なに、大したことではない。質問は2つ。あなたは各地を旅しているらしいが、噂でも良い、不老不死になる術を知らないか?」
「は?不老不死だって?」
こいつ、何を考えているんだ。まあどうせ永遠というものに憧れているだけだろう。あるいは戦好きとのことであったから無敵の兵にでもなりたいのだろう。貴族は老い、死ぬことのない命を欲しがるものである。
「なんでもいい。完成していなくても、そういう魔法や薬、技術を発明しようとしている者がいるという話だけでも聞いたことはないだろうか」
随分と必死だな。しかし不老不死というものに興味津々な割に目の前にいるのがまさに不老不死者であることには気付かないのは滑稽である。いやまさかカマをかけているつもりなのか?
「はあ…一体何を聞かれるのかと思ったら…。そりゃあ不老不死を夢見て研究する怪しげな魔導士や科学者はいるだろうけど、胡散臭いもんばっかだぜ」
「それはその手の話をいくらか知っているということでいいのだな」
「いやいや、あんたが期待しているようなもんじゃない!俺は若返りの術も知りやしないよ!」
「そうか…。まあそうだよな。あなたは旅人と言っても見た感じ俺とあまり歳も変わらないのだろう。知らない方が普通だ」
「わかってくれたか。じゃあさっさと次の質問を…」
「…と言うとでも思ったか」
「!?」
「あなたの名は昔あの人から散々聞かされたからな。マルコから聞いた瞬間ピンときたさ」
”あの人”…?ヴァッフェルに来たのは今回が初めてだ。ここには誰も知り合いはいないし、ヴァッフェルに出入りして王族と会うことができるような知り合いもいない。
「”あの人”ってのは誰だ。全く見当がつかない」
「それが2つ目の質問だ。正直口にするのも忌々しいが、あなたは剣崎雄という男を知っているな?」
「えっ、お前なんで剣崎のこと知ってるんだ…!?」
「…その様子を見るとあなたは共謀者ではないのか…?」
共謀者とか物騒なワードが出てくるあたりあいつ一体ヴァッフェルで何をやらかしたんだ…?そもそもここに来たことがあったなんて初耳だ。最近姿を見なかったがまさかヴァッフェルにいたなんて!
「剣崎とはしばらく会っていない。お前の口ぶりからして一体今度は何をやらかしたんだか…」
「…。いや、すまない言葉を失っていた。あなたはあの人の味方ではないのか?」
「そりゃまた答えづらい質問だな。かつて剣崎が俺の友人だとか言ったやつもいたが、あれとセット販売されるなんて不名誉の極みだ」
「…そうか。なら例えばあの人への復讐を手伝えと言ったらあなたはどう答える?」
ホルニッセの目がマジだ。本当に剣崎のやつ、何をやらかしたんだ…!
「簡単に頷くことはできないな。まずは剣崎が何をしたか聞かせてもらおうじゃないか」
と言っても協力する気など更々ないが。
「あの人は俺の家庭教師だった」
王族の家庭教師など、随分贅沢な暇つぶしだな。しかしどうやって忍び込んだんだろうか。
「他国の情報にも明るく、世にも珍しい不老不死者ときたもんだ。父上も好奇心旺盛な俺にちょうど良いと思いあの人を採用した。実際俺たちは馬が合い、俺はいつしか実の兄弟であるアルフォンスよりあの人のことを兄弟だと思うようになっていた」
「はあ」
「だが俺たちは騙されていた…!あいつは俺の暗殺を企てるスパイだったんだ…!」
暗殺だと…?あの剣崎がそんなことするだろうか。あいつは横暴でわがままで自己中心的なやつだが盗みや殺しなど法に触れることはしない。貴族のプライドとやらがあるかららしいが。
「あの人が俺を刺し殺そうとした時、偶然母上がそれを目撃したようだ。そして母上は俺を庇って…」
「王妃殺しなんて重罪じゃないか。あれはよく逃げられたな」
「全くだ!俺から多くのものを奪ったあいつが未だにのうのうと生きていることが許せん!頼む、奴の弱点を知る、いや…弱点そのものである、あなたなら…」
弱点そのもの…、あの野郎調子に乗って色んなことをベラベラと…
「悪いが俺は中立の立場でいさせてもらう」
「何故っ…!?」
「俺は別に正義の味方でもないし、かといってヴァッフェル王国を敵に回したくもないしな。」
…それに”世界論”が完成しないのは惜しい。
「俺はあなたに何かするつもりはない…!確かにあなたの気持ちもわかる。かつての知り合いを殺すのを手伝えと言われ戸惑うことだろう…。だが、どうか…!」
口ではそう言っているが不老不死になる術を探していると言っておきながら、その手段の1つである俺に何もしないわけがない。多くの愚者はこいつの王子という立場とこの演出の上手さに騙されるのだろう。それに俺は”お前の気持ちもわかる”という言葉が死ぬほど嫌いなのだ。まあ死ねないけど。
「中立だと言っただろ。邪魔をするつもりはない。せいぜい一人で頑張れよ坊ちゃん」
「…。俺は諦めないからな」
to be continued…
もうこの国を去ろうとしていたタイミングで俺を呼び止めたのはお騒がせ王子ホルニッセ=ツァハリアス、一発殴ってから帰りたいと思ってたのでちょうどいい。
「あなたは旅人だと聞いたのでな。少し聞きたいことがある」
「聞きたいこと?さっさと済ませてくれ。俺はもう帰りたいんだ」
「ああ、なに、大したことではない。質問は2つ。あなたは各地を旅しているらしいが、噂でも良い、不老不死になる術を知らないか?」
「は?不老不死だって?」
こいつ、何を考えているんだ。まあどうせ永遠というものに憧れているだけだろう。あるいは戦好きとのことであったから無敵の兵にでもなりたいのだろう。貴族は老い、死ぬことのない命を欲しがるものである。
「なんでもいい。完成していなくても、そういう魔法や薬、技術を発明しようとしている者がいるという話だけでも聞いたことはないだろうか」
随分と必死だな。しかし不老不死というものに興味津々な割に目の前にいるのがまさに不老不死者であることには気付かないのは滑稽である。いやまさかカマをかけているつもりなのか?
「はあ…一体何を聞かれるのかと思ったら…。そりゃあ不老不死を夢見て研究する怪しげな魔導士や科学者はいるだろうけど、胡散臭いもんばっかだぜ」
「それはその手の話をいくらか知っているということでいいのだな」
「いやいや、あんたが期待しているようなもんじゃない!俺は若返りの術も知りやしないよ!」
「そうか…。まあそうだよな。あなたは旅人と言っても見た感じ俺とあまり歳も変わらないのだろう。知らない方が普通だ」
「わかってくれたか。じゃあさっさと次の質問を…」
「…と言うとでも思ったか」
「!?」
「あなたの名は昔あの人から散々聞かされたからな。マルコから聞いた瞬間ピンときたさ」
”あの人”…?ヴァッフェルに来たのは今回が初めてだ。ここには誰も知り合いはいないし、ヴァッフェルに出入りして王族と会うことができるような知り合いもいない。
「”あの人”ってのは誰だ。全く見当がつかない」
「それが2つ目の質問だ。正直口にするのも忌々しいが、あなたは剣崎雄という男を知っているな?」
「えっ、お前なんで剣崎のこと知ってるんだ…!?」
「…その様子を見るとあなたは共謀者ではないのか…?」
共謀者とか物騒なワードが出てくるあたりあいつ一体ヴァッフェルで何をやらかしたんだ…?そもそもここに来たことがあったなんて初耳だ。最近姿を見なかったがまさかヴァッフェルにいたなんて!
「剣崎とはしばらく会っていない。お前の口ぶりからして一体今度は何をやらかしたんだか…」
「…。いや、すまない言葉を失っていた。あなたはあの人の味方ではないのか?」
「そりゃまた答えづらい質問だな。かつて剣崎が俺の友人だとか言ったやつもいたが、あれとセット販売されるなんて不名誉の極みだ」
「…そうか。なら例えばあの人への復讐を手伝えと言ったらあなたはどう答える?」
ホルニッセの目がマジだ。本当に剣崎のやつ、何をやらかしたんだ…!
「簡単に頷くことはできないな。まずは剣崎が何をしたか聞かせてもらおうじゃないか」
と言っても協力する気など更々ないが。
「あの人は俺の家庭教師だった」
王族の家庭教師など、随分贅沢な暇つぶしだな。しかしどうやって忍び込んだんだろうか。
「他国の情報にも明るく、世にも珍しい不老不死者ときたもんだ。父上も好奇心旺盛な俺にちょうど良いと思いあの人を採用した。実際俺たちは馬が合い、俺はいつしか実の兄弟であるアルフォンスよりあの人のことを兄弟だと思うようになっていた」
「はあ」
「だが俺たちは騙されていた…!あいつは俺の暗殺を企てるスパイだったんだ…!」
暗殺だと…?あの剣崎がそんなことするだろうか。あいつは横暴でわがままで自己中心的なやつだが盗みや殺しなど法に触れることはしない。貴族のプライドとやらがあるかららしいが。
「あの人が俺を刺し殺そうとした時、偶然母上がそれを目撃したようだ。そして母上は俺を庇って…」
「王妃殺しなんて重罪じゃないか。あれはよく逃げられたな」
「全くだ!俺から多くのものを奪ったあいつが未だにのうのうと生きていることが許せん!頼む、奴の弱点を知る、いや…弱点そのものである、あなたなら…」
弱点そのもの…、あの野郎調子に乗って色んなことをベラベラと…
「悪いが俺は中立の立場でいさせてもらう」
「何故っ…!?」
「俺は別に正義の味方でもないし、かといってヴァッフェル王国を敵に回したくもないしな。」
…それに”世界論”が完成しないのは惜しい。
「俺はあなたに何かするつもりはない…!確かにあなたの気持ちもわかる。かつての知り合いを殺すのを手伝えと言われ戸惑うことだろう…。だが、どうか…!」
口ではそう言っているが不老不死になる術を探していると言っておきながら、その手段の1つである俺に何もしないわけがない。多くの愚者はこいつの王子という立場とこの演出の上手さに騙されるのだろう。それに俺は”お前の気持ちもわかる”という言葉が死ぬほど嫌いなのだ。まあ死ねないけど。
「中立だと言っただろ。邪魔をするつもりはない。せいぜい一人で頑張れよ坊ちゃん」
「…。俺は諦めないからな」
to be continued…