第10話

文字数 976文字

 最近教会に足を運ぶ人が明らかに減った。悩みを抱えている人が減ったのだとしたら喜ばしいことだけれど、ホルニッセ王子は未だに行方不明のままで街に活気が戻ってきたわけでもない。信心深いヴァッフェルの人々が遂に神に祈るのをやめたのか、それとも他に心の拠り所を見つけたのか…。どちらにしても何か悪い予感がするけど私はただここで人々の話を聞くことしかできない。何故なら私は勇者でも探偵でもなく、ただのシスターだからだ。
「シスターさん、最近あの男前な神父さんを見かけないけど何かあったのかい?」
「あら、おばあさま今日もお元気そうで何よりですわ。エリックさんなら他のお仕事で少し忙しいだけなので心配いりませんよ。きっとすぐに教会にも顔を出してくれるはずです」
「ああ、そういえば彼は特別な神父さんだったねぇ」
「特別?」
「あらあなた御存じないの?あの子今は教会で神父さんなんてやっているけど昔は教会を継ぐか継がないかでお父さんと大げんかしていたのよ。なんとか彼がやりたいことを続けながら教会のこともやるって感じで妥協したらしいけどねぇ」
「だからエリックさんは我々聖職者が禁じられている副業をこなしていたわけですか。不思議だと思っていましたがそんな事情があったのですね。自分の仲間について無知であったことはお恥ずかしいですが、教えて下さりありがとうございます」
「まあ今じゃ誰もが忘れたような話だしねぇ」
「しかし、私たち聖職者を信じて教会に足を運んでくださる皆様のことを考えると少々心苦しいですわ。そんなルール違反を隠しているなんて…」
「人間そんなものさ。あたしらだってそれを知ったうえで教会に通い続けているし、告発しようとも思わない。別に言わなくたって不利益はないし、言った方がむしろ何が起きるかわからないからね」
「そんな…」
「お嬢さんもシスターになって5年?それくらい経つような気がするけど、色んな人の心の闇や後ろめたいことを聞いてそれでも純粋で前向きな心を持っていられるのはすごいね。あなたのような綺麗な心を持ったシスターさんがいるとね、曇った心が少しは晴れるような感じがするよ。いつもありがとうね」
「いえいえ、私は聖職者として、いや人として当然の振る舞いをしているだけですわ。それよりも今は私の方が教え諭された気がします。ありがとう、おばあさま。あなたに神の祝福を」
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登場人物紹介

Hornisse=Zacharias

食と芸術の観光地、ヴァッフェル王国の第一王子。強く美しくフレンドリーな国民のアイドル的存在だが、何者かに誘拐されて失踪中。

Marco=Tiglio

ホルニッセに仕える近衛兵。異世界のイタリア出身。陽気で常識人だが、優柔不断なところがある。

白城千

『千年放浪記』シリーズの主人公である不老不死の旅人。人間嫌いの皮肉屋だがなんだかんだで旅先の人に手を貸している。

獅子堂倫音

マルコ同様異世界から来た日本人。人が苦手だが身寄りがない自分を拾ってくれた店主のために喫茶店で働く。少年とは思えない綺麗な高音の歌声を持つ。

烏丸エリック

街はずれの教会の神父。真面目な好青年で人々からの信頼も厚いが、拝金主義者という裏の顔を持ち利益のためならなんでもする。

Katry=Kamelie

教会のシスター。包容力と正義感を持ち合わせた聖職者の鑑のような人物だが気になることがあると突っ走ってしまうところがある。

Natalie=Schlange

街はずれに住む魔女。ホルニッセに一目惚れし、彼を独り占めするために誘拐、監禁する。夢見る乙女だが非常にわがまま。

浜野ハヤテ

ナタリーと共に行動する青年。根暗で厭世的。自らの出自を隠しているようだが…

Amalia=Tiglio

マルコの姉。面倒見がよく器用なところが認められヴァッフェル王国の第二王子であるアルフォンスの世話係に。

Alfons=Zacharias

ヴァッフェル王国の第二王子でホルニッセの弟。なんでも完璧にこなすが、プライドが高く兄のことを見下している。

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