第13話
文字数 1,609文字
このヴァッフェル王国についていくつかわかったことがある。1つは建国に若市の人間も多く関わっていること。正確な歴史はわからないが、この国はもしかしたら俺より若いかもしれない。恐らく妖怪が権力を持つ若市の生活に不満を持つ人々が新興のヴァッフェル王国に期待し協力した後移住したのだろう。そしてその結果向こうの神を信仰する文化も根付いたようだ。ヴァッフェル国民は王家に忠誠を誓うと同時に若市の神を信仰している。まだ弱小だった当時の王が他国の威厳ある神の力を借りて民を統治しようとしたのだろう。ただ若市とこの国の違いは人間主体の国家であるがゆえ科学技術が受け入れられやすかったということだ。マルコが”他国”と言っていたのは恐らく理研特区のことだろう。特に生活に関わる電子機器を開発している理研特区の電子工学研究科は自分たちの技術に誇りを持っているからこそ、他国への輸出を積極的に行っているらしい。いや、技術の話はどうでもいい。宗教の話に戻ろう。彼らヴァッフェル国民は国家及び唯一神を信仰し、王家もそれを望んでいる。恐らく、いや確実に新たな信仰が生じ従来のシステムが壊れることは阻止するべき事態であろう。そう、俺の推理では宗教面で国家に仇するものは排除される。
「…で、千の言う通りSNSで”あの話”を拡散したよ。本当にこれで上手くいくの?」
「元の発信源がその方面ではそれなりに影響力のある人物だという話だし、これで少しは動きが生まれるとは思うがな」
マルコの話ではPiece Noire及び烏丸エリックは国との繋がりがあり正攻法ではロン、もとい獅子堂倫音は泣き寝入りをするしかないとのことであった。そこで彼のアーティストイメージと勢いを利用し、ロンを新たな偶像として崇拝させる新興宗教を創り出そうと考えたのだ。ちょうど都合よくオカルト界隈の有名人が似たようなことをSNS上で発信しているところをマルコが発見したため、やや大げさに拡散するよう指示した。SNSというものはここに来てから知ったが、マルコと行動するうちに大体のルールは理解したつもりだ。後はより噂に信憑性と親近感を加えるためにマルコがいつものやり取り(通行人にホルニッセ王子の情報について聞く)にロンの噂をプラスすれば良い。正直その気がない人間を教祖や偶像として祀り上げ宗教化するなど俺にとっては死体蹴り同然、最も再現するべきでない黒歴史なのだが…。
「それにしてもよくこんな方法思いついたね。やっぱり旅人としての経験かい?」
「あ、ああ。まあそんなところだな…」
あれは旅をする前の経験だが。
俺が故郷、若市を出る前のことだ。神やら妖怪やら非科学的な存在がうようよしている若市では科学技術はほとんど発展しなかった。しかし今から100年前くらいだったか、20世紀の終わり頃から徐々に人間中心の科学に頼った暮らしの基盤が出来始め、その波に乗って辺境の田舎町に鉄道という現代技術を導入したのが俺の知り合い…、いや友人である三又聖だ。しかし元々オカルト的な思考を持つ若市の民は聖のことを神の力をもたらした教祖として祀り上げ、若市の産業革命は宗教革命のようになってしまった。今回俺はその出来事をヒントに意図的にロンを宗教化しようとしているわけだが、当時の結末を知る者からは”心臓に毛が生えているのか”などと非難、罵倒されるに違いない。
ともあれこの作戦はすぐに効果が表れるものではない。しばらく様子見だ。ああ、また長居をすることになるのか…。既にここに来て数か月が経つが今度も1年コースだろうか。不老不死だから俺単体なら住むところや食事には困らないが今回はそんな俺の事情を知らないマルコと行動を共にしているためなかなか誤魔化すのが難しい。これ以上ここで見たいものがあるわけでもないし早く解放されたい。いや、どうせなら元凶であるホルニッセ王子とやらを一発殴ってから帰りたいものだが。
「…で、千の言う通りSNSで”あの話”を拡散したよ。本当にこれで上手くいくの?」
「元の発信源がその方面ではそれなりに影響力のある人物だという話だし、これで少しは動きが生まれるとは思うがな」
マルコの話ではPiece Noire及び烏丸エリックは国との繋がりがあり正攻法ではロン、もとい獅子堂倫音は泣き寝入りをするしかないとのことであった。そこで彼のアーティストイメージと勢いを利用し、ロンを新たな偶像として崇拝させる新興宗教を創り出そうと考えたのだ。ちょうど都合よくオカルト界隈の有名人が似たようなことをSNS上で発信しているところをマルコが発見したため、やや大げさに拡散するよう指示した。SNSというものはここに来てから知ったが、マルコと行動するうちに大体のルールは理解したつもりだ。後はより噂に信憑性と親近感を加えるためにマルコがいつものやり取り(通行人にホルニッセ王子の情報について聞く)にロンの噂をプラスすれば良い。正直その気がない人間を教祖や偶像として祀り上げ宗教化するなど俺にとっては死体蹴り同然、最も再現するべきでない黒歴史なのだが…。
「それにしてもよくこんな方法思いついたね。やっぱり旅人としての経験かい?」
「あ、ああ。まあそんなところだな…」
あれは旅をする前の経験だが。
俺が故郷、若市を出る前のことだ。神やら妖怪やら非科学的な存在がうようよしている若市では科学技術はほとんど発展しなかった。しかし今から100年前くらいだったか、20世紀の終わり頃から徐々に人間中心の科学に頼った暮らしの基盤が出来始め、その波に乗って辺境の田舎町に鉄道という現代技術を導入したのが俺の知り合い…、いや友人である三又聖だ。しかし元々オカルト的な思考を持つ若市の民は聖のことを神の力をもたらした教祖として祀り上げ、若市の産業革命は宗教革命のようになってしまった。今回俺はその出来事をヒントに意図的にロンを宗教化しようとしているわけだが、当時の結末を知る者からは”心臓に毛が生えているのか”などと非難、罵倒されるに違いない。
ともあれこの作戦はすぐに効果が表れるものではない。しばらく様子見だ。ああ、また長居をすることになるのか…。既にここに来て数か月が経つが今度も1年コースだろうか。不老不死だから俺単体なら住むところや食事には困らないが今回はそんな俺の事情を知らないマルコと行動を共にしているためなかなか誤魔化すのが難しい。これ以上ここで見たいものがあるわけでもないし早く解放されたい。いや、どうせなら元凶であるホルニッセ王子とやらを一発殴ってから帰りたいものだが。