想起:浜野出版の若社長

文字数 940文字

 ―数年後。とあるビルの一室にて。
 「久しぶりだな。そのスーツ、ドレスよりも似合っている」
「美形に褒められたって嫌味にしか聞こえないがな。特に同性の場合は」
「ハハハ、相変わらずネガティブなやつだ。好きなように生きているわけじゃないのか?」
「いや、自由に生きてはいるさ。両親は案外すんなりと籍を変えることを許可してくれたしな。うちはそもそもよそ者だし、後継者が血縁者である必要もないらしいからさ」
「それは良かったな。だが家は継いだのだろう?」
「別に本は嫌いじゃないし…。俺は一度浜野の名に泥を塗りかけた。これくらいはするべきだろう」
「俺より全然親孝行者じゃないか」
「…王位継承権を譲ったというのは本当か?」
「ああ。猛反対されたがなんとか、な。俺より弟の方が優秀だし、目的のためには王になっては色々と不都合なんだ」
「ホルニッセ、お前…!自分が何をしたかわかってるのか…!?」
「お前なら型にはまらない同士わかってくれると思ったが…」
「わかり合いたくもないな」
「まあそれはいいとして、俺だってわざわざ他国への留学の機会も与えてもらったのに期待を裏切ったのは悪いと思っているんだぞ」
「なら尚更今からでも撤回しろ」
「いやいやそうはいかない。亡くなった母上のためにも俺は王なんてやっている暇はないんだ」
「興味も無いし、詳しく聞くつもりはないが王権をもってしても出来ないことなのか?」
「ああ、そうだな。むしろ王だからこそ出来ないことだ」
「あ、そう。まあHornisse=Zachariasを批判する書物が流通しても俺には嬉しいだけだが」
「国の汚点して歴史に残るのも悪くはないな」

 …浜野のもとを訪れたのも随分前になるのだろうか。多くの人間から期待され愛されていた俺だが、彼女…いや、彼のようにはなれなかった。実際弟のアルフォンスの方が優秀だし王として相応しいだろう。だが、だからと言って代々守られてきた絶対的なしきたりを破り挙句の果てに家を出るなど親不孝者の極みである。父上もアルフォンスも、王宮の誰もがもはやあの裏切り者のことなど忘れて生きているだろう。俺自身何故ここまであいつを追い続けているのかわからない。しかし俺にはもうそれ以外の生き方はあり得ないのだ。

Prisoners Fin...?
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登場人物紹介

Hornisse=Zacharias

食と芸術の観光地、ヴァッフェル王国の第一王子。強く美しくフレンドリーな国民のアイドル的存在だが、何者かに誘拐されて失踪中。

Marco=Tiglio

ホルニッセに仕える近衛兵。異世界のイタリア出身。陽気で常識人だが、優柔不断なところがある。

白城千

『千年放浪記』シリーズの主人公である不老不死の旅人。人間嫌いの皮肉屋だがなんだかんだで旅先の人に手を貸している。

獅子堂倫音

マルコ同様異世界から来た日本人。人が苦手だが身寄りがない自分を拾ってくれた店主のために喫茶店で働く。少年とは思えない綺麗な高音の歌声を持つ。

烏丸エリック

街はずれの教会の神父。真面目な好青年で人々からの信頼も厚いが、拝金主義者という裏の顔を持ち利益のためならなんでもする。

Katry=Kamelie

教会のシスター。包容力と正義感を持ち合わせた聖職者の鑑のような人物だが気になることがあると突っ走ってしまうところがある。

Natalie=Schlange

街はずれに住む魔女。ホルニッセに一目惚れし、彼を独り占めするために誘拐、監禁する。夢見る乙女だが非常にわがまま。

浜野ハヤテ

ナタリーと共に行動する青年。根暗で厭世的。自らの出自を隠しているようだが…

Amalia=Tiglio

マルコの姉。面倒見がよく器用なところが認められヴァッフェル王国の第二王子であるアルフォンスの世話係に。

Alfons=Zacharias

ヴァッフェル王国の第二王子でホルニッセの弟。なんでも完璧にこなすが、プライドが高く兄のことを見下している。

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