文字数 654文字

"外"から戻ると、発掘品を袋から取り出してケースに移した。
"発掘"を担う者が発掘品を依頼者に直接渡すことはなくなった。今では専門の職員がケースを抱えて訪問することになっている。
以前は、発掘品について依頼者とトラブルになることも少なくなかった。
依頼者の記憶はあいまいであることがほとんどで思い入れも大きいし、毒の影響で発掘品が劣化していることもある。
つまり真贋論争が起こる。
それで政府は専門の職員を配置した。
彼らは依頼者が提出した資料と実際の発掘品が同じであることを、丁寧に説明する。
ときにはさまざまなレトリックを用いて。
あいまいな記憶と発掘品を同一視させるための"なにか"を作り出して提示したり、
タイムマシンによる調査の結果であると称することもある。
彼らは依頼された”発掘”がたしかに行われ、その発掘品が依頼された品物であるということを認定する。
そして依頼者を説得するのだ。
かつてある男がいった。

  『本物だと思えることが大事なんだ』

偽物か本物かは依頼者本人が決める。
防護スーツを脱いで回収箱に放り込んだ。ロッカーを開け、着替えをはじめる。
青いシャツのボタンをはめ、時計を左腕にはめ、メガネをかけ、コートを着てから手袋をする。
今の時期は冬に設定されている。
顔こそ出ているが、別の防護スーツに着替えたようなものだ。廊下をしばらく歩いていくと次第に気温が下がっていくのがわかる。
ドアを開くと、比較的暖かい空気に押されて"内"へ出た。
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