文字数 734文字

防護スーツに着替えて気圧室に向かう。
IDカードをつまんでかざすと、ドアが開く。
気圧室へ入ると同時に、コントロールルームにつながっているスピーカーががなる。
防護スーツには無線通信装置はついていない。
衛星は壊れたし、電離層は使えなくなったし、中継装置をわざわざ設置することもしなくなった。とはいえ通信機能は備わっている。
マイクで音を聞き、スピーカーで声を発し、ときにはジェスチャーを用いる。
相手が人間やそれに準じるものなら通信は可能だ。

「ねえ、今月何回目?」

女の声だが、顔がついているかどうかを考えたことはない。

「さあな」
「稼ぎすぎじゃない?」
「それでオレは困るのか?」

実際、金は必要以上に持っているがそれで困ったことはない。
解決しないといけない問題は他にある。

気圧室はいつからか"出口"と呼ばれるようになった。"内"への入口でもあるはずだが、"出口"としか呼ばれない。
普段どおりのルーチンワークをこなしていると、自動回収機のコンソールに「お気をつけて」と表示された。
そして、普段通りに悪態をつこうとするのを制するかのように、コンソールに見慣れない文章が表示された。

「"友人同士は未来を語り合わなくても未来に再会することを確信している"」
「自動回収機はあなたの友人です」

普段と違うことが起こるのは、気づかれずに進行しているなにかの表出だ。これが吉兆なのか凶兆なのか判断しかねていると、気圧室のスピーカーががなる。

「びっくりしたでしょ?」

きゃはは、と笑って続ける。

「バージョンアップだってさ。あの連中、もうやる気ないね」

片手を軽くあげて応えると、気圧室の壁のボタンを叩いた。
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