第五話

文字数 1,711文字

 
 「じゃあ、何かあったらそれで呼んで頂戴ね」
 パタンと扉の閉まる音がする。
 「はぁ…」
 私は、平日の朝だというのに、自室のベッドの上に居た。ごろんと身体を転がす。
 「やっぱりだるい…」
 幸い、熱は微熱ほどしかないのだが、身体がだるくて仕方ない。…起きれない。
 瞳ちゃん、心配してるかな。
 ああ、町田くんも、もしかしたら気にしてるのかも。

 彼、心配性だから…。



 「リュウリィ…っっ‼︎」
 ゴツゴツとした皮膚と鱗を持つアイツが、リュウに刃を振るう。彼はそれをすんでのところで回避した。
 「…っ、はぁ、はぁ、はぁ…」
 しかし、もう彼の体力は少ない。次の攻撃を受けたら、彼は…
 「嫌っ!リュウリィを殺させはしないっ!」
 私は魔力を右手に集め、爆裂弾を三発アイツに当てる。少しは効いているらしく、グアッとかグゥっとか唸って、アイツは数歩後ろへ下がった。
 「【 】後どれくらい耐えられる?」
 彼が私に問い掛ける。私は自分の身体をめぐる流れを感じて答える。
 「…さっきのがあと数発。大きいのなら…一発が限度だと思う」
  「そうか…」

 …彼も私も、もうボロボロだ。彼は剣を杖の様に地面に突き立てて立っているし、私だってもうほとんど気力だけで立っている。…諦めたくない、

 …絶対、アイツは倒すっ‼︎

 「ねぇ【 】きっと…倒せるよね」
 な、
 「何言ってるの⁈当然でしょ⁈こんなところでやられたりなんか…」
 彼が笑う。とても穏やかに。やさしく。ふわっと、微笑んだ。

 ねぇ…何で?

 「…何で笑ってるの…?」

 そんなにやさしく、あたたかく。

 「ねえ、リュウ…」

 「うおおおおおおおおおぉおお〜〜〜〜〜っっ‼︎」

 ガッキィィィ……ィン…

 彼の剣が、アイツを捕らえた。刃先が折れても、その折れたところをその巨体を覆う鱗の隙間に刃を差し込んで、アイツの核に剣を突き刺す。

 「グゥオォオオオオ………ッッ‼︎‼︎」
 
 アイツの身体の中心部から、紅い光が漏れ出る。
 『パッキャアアァア………ン……』と、核の砕け散る音が響いた。
 その光が収まると、巨体は崩れ砂となって落ちる。
 その粒子を光らせ消滅したと同時に、リュウリィが地面に倒れる。カランっと折れた剣が音を立てる。
 「リュウリィっっ!」
 私は足がもつれ転びそうになりながらその身体に駆け寄る。幸い、まだ彼の意識はこの世にとどまっていた。
 「ライ、ラック…」
 彼が息も切れ切れに私の名を呼ぶ。
 喋っちゃダメ!今、今、傷を治すから…っ
 「…もう、むりだよ…、そんなこと…したら、きみが…」
 「そんなのっ!」気にしない。私はどうなったっていい!リュウさえ、貴方さえ助かるなら…
 「ダメだよ。…ぼくが許さない。…きみは、すぐにムリをしようと、するんだから」
 はは…と、リュウリィが笑う。その顔を見て涙が零れ落ちる。溢れて溢れて、視界がぐにゃぐにゃになる。
 「きみがぶじで…よか、…た…」
 彼の意識が途切れる。私は急いで彼の胸に耳を当てる。…大丈夫、まだ、まだ心臓は動いている。

 「…リュウが先にやったんだからね」
 
 私はそう呟き、そのままの姿勢でぎゅっと抱きつく。

 文句なんて、聞いてやらない。

 リュウが私を想ってくれる以上に、私だってリュウのことを想っているんだ。

 顔を上げる。
 「…私の魔力と、この身の全てを捧げます」
 私は一度本で読んだだけの、神話の呪文を思い出して唱える。…本当に、存在するのか。もしかしたら…しないかもしれない。けれど。それを、それでも、その呪文を。

 …唱えたい。

 「世界よっ!我が女神よっ!我が魂と彼の者の魂が、」

 ありったけの声で叫ぶ。…願わくば、もう一度。「…もう一度!」

 どこかで聞いているかもしれない、やさしい女神様へ向かって。「…出逢えることをっ!」

 「…願ってっ!…祈ってっ‼︎」


 …リュウリィと、出逢えることを……っ!



 …私の意識は、そこで、…ぷつりと途切れた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み