第七話

文字数 1,045文字

 次の日には少し熱が(知恵熱?)出てしまったけれど、風邪は二日後に完治した。
 まあ…、ほんとに風邪だったのか、今となっては怪しいけど。


 そして翌日の朝。

 私はなんとも言えない気持ちで制服に袖を通す。いつも着ていたはずなのに、なんだか初めて袖を通したような気分。まぁ、前(前世)着てた服とだいぶ違うから、無理もないか。


 「行ってきまーす」
 母にそう告げて、少し早い時間に家を出た。

 今日は良く晴れているので、この時間は朝日が眩しい。梅雨も寝込んでいた間に明けたらしいし、本格的な夏の到来も近い。その証拠か数分歩いただけで、少し汗ばんできた。
 「夏服にすれば良かったかな…」
 携帯を見ると、今日はこれからもっと暑くなるらしい。冬服じゃあ厳しいかな。痛い選択ミスだ。
 「はぁ」
 「どうしたんだよ、ため息なんかついて」
 「あ、町田くん。おはよう」
 「はよ。くわぁ〜…」
 どうやら私が少し早い時間に出ると会うらしい。少し遠いのかな、学校から。
 「風邪はいいのか?」
 やっぱり彼は心配性だな。
 「うん。もう大丈夫。ちゃんと寝たし」
 「そうか」
 少し距離を置いて横に並んで歩く。それからは特に話もせず、学校に着いた。教室に入り席に着くと、瞳ちゃんが飛び付いて来た。どうやら彼女も心配してくれてたらしい。

 いつも通りの彼女になんだかホッとして、少し、癒された。


 「よし、今日は…雨沢!これを解いてみろ」
 「うえ〜…。先生絶対梅雨明けから連想しただろ〜」
 「つべこべ言わず早く来い」
 教室にあははと笑いが起きる。私も少し笑った。彼が黒板の問題と睨めっこしている途中、カラン、と窓際の方から乾いた音が鳴る。
 音の方に目を向けると、町田くんと目が合った。彼は、ははは、と苦笑いをしながらペンを拾う。その困ったような笑い顔に見覚えがあった。

 …リュウリィも、誤魔化す時こんな風に笑っていたっけ。
 
 …。訊いてみようか。でも何て?『町田くんって前世はリュウリィなの?』
 
 いや…、変な奴だと思われるだけだよね。

 でも、…いや、〜〜〜…。



 結局声を掛けるか決められず、話し掛けるタイミングすら見つけられないまま、放課後になった。教科書を鞄に仕舞って肩に掛ける。
 ため息をつきながら廊下を歩いていると、前方から町田くんがばたばたと走って来た。
 …私は、そのすれ違いざまに小さく彼の名を呼んでみた。

 「“リュウリィ”」
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