第3話 「僕と彼女の共通点」
文字数 1,154文字
「もし良かったら、このあと一緒に帰らない?」
「いいわよ。」
また彼女は泣いた。
そうして僕らは一緒に学校を出ると、並んで歩き始めた。
「こんなこと聞かれても困るかもしれないけどさ、どうして君はそんなに泣くの?」
「自分でも分からないのよ。」
「両親に心配されるでしょう?」
「私には両親がいないの。」
「そうだったのか。ごめん。」
「いいのよ。」
泣かせてしまったと思い恐る恐る彼女の顔を覗き込んだが、ここでは泣いていないようだ。タイミングが分からない。
「私って普段からこんなに泣いてるのに、両親が事故で亡くなった時は涙が出なかったのよ。最低な人間でしょう?」
彼女は皮肉っぽく笑った。
「実は僕も小学生の頃に父を亡くしてるんだ。そして僕も同じように涙は出なくて、自分は人でなしだと思いながら生きてきた。」
彼女は泣いた。
「ただ心理学者の母は“泣けないことにも理由がある”と話していたんだ。悲しみが強すぎて頭が整理できずに泣けないということもあるんだと。」
彼女は空を見上げて僕の言葉を反芻した。
「あなたのお母さんは心理学者なのね。」
「大学で心理学を教えながらカウンセラーもしているらしい。」
「素晴らしいわね。」
彼女はまた泣いた。
「そういえばあなた、私のことを知ってくれていたのね。」
「もちろん。君のことが気になっていたからね。」
「それは好きってこと?」
僕は戸惑い、顔が熱くなった。“知的好奇心という意味だ”と弁解したかったが、上手く言葉がまとまらずに時間が過ぎてしまった。
「ありがとう。」
そう言ってまた僕の頬をつついた。この癖は母とよく似ている。
「いつかあなたのお母さんと話してみたいわ。」
そうして僕らは解散した。
家に帰ってから今日のできごとを母に話してみた。
「恋の進展があったようね。」
母は からかうように僕の顔を覗き込んだ。
「そんなんじゃないよ。」
「親御さんが亡くなった時に泣けなかったという部分はあなたと同じね。そのことを後悔して過剰に泣くようになったのかしら。」
「その可能性はあるね。」
「ただ、これは彼女にとってデリケートな問題だから、無闇に聞いちゃダメよ。あなたなら分るでしょう?」
母は僕の頭を撫でながら言った。
「父さんと母さんは、お互いに心理学を勉強していたから気が合って結婚したの?」
母は腕を組みながら少し考えた。
「結果的にはそうなんだけど、あまり関係ない気がするのよ。仮に違う形で出会ったとしても、きっと私はお父さんのことを好きになっていたと思うわ。」
母の目から1滴の涙が流れていた。
「ごめん、そんなつもりじゃ。」
「いいのよ。こっちにおいで。」
僕らは父の遺影の前に並んで正座して手を合わせた。
数日後。学校から帰っていると、近所の公園で涙を流しながら野良猫を撫でている彼女を見かけた。
「いいわよ。」
また彼女は泣いた。
そうして僕らは一緒に学校を出ると、並んで歩き始めた。
「こんなこと聞かれても困るかもしれないけどさ、どうして君はそんなに泣くの?」
「自分でも分からないのよ。」
「両親に心配されるでしょう?」
「私には両親がいないの。」
「そうだったのか。ごめん。」
「いいのよ。」
泣かせてしまったと思い恐る恐る彼女の顔を覗き込んだが、ここでは泣いていないようだ。タイミングが分からない。
「私って普段からこんなに泣いてるのに、両親が事故で亡くなった時は涙が出なかったのよ。最低な人間でしょう?」
彼女は皮肉っぽく笑った。
「実は僕も小学生の頃に父を亡くしてるんだ。そして僕も同じように涙は出なくて、自分は人でなしだと思いながら生きてきた。」
彼女は泣いた。
「ただ心理学者の母は“泣けないことにも理由がある”と話していたんだ。悲しみが強すぎて頭が整理できずに泣けないということもあるんだと。」
彼女は空を見上げて僕の言葉を反芻した。
「あなたのお母さんは心理学者なのね。」
「大学で心理学を教えながらカウンセラーもしているらしい。」
「素晴らしいわね。」
彼女はまた泣いた。
「そういえばあなた、私のことを知ってくれていたのね。」
「もちろん。君のことが気になっていたからね。」
「それは好きってこと?」
僕は戸惑い、顔が熱くなった。“知的好奇心という意味だ”と弁解したかったが、上手く言葉がまとまらずに時間が過ぎてしまった。
「ありがとう。」
そう言ってまた僕の頬をつついた。この癖は母とよく似ている。
「いつかあなたのお母さんと話してみたいわ。」
そうして僕らは解散した。
家に帰ってから今日のできごとを母に話してみた。
「恋の進展があったようね。」
母は からかうように僕の顔を覗き込んだ。
「そんなんじゃないよ。」
「親御さんが亡くなった時に泣けなかったという部分はあなたと同じね。そのことを後悔して過剰に泣くようになったのかしら。」
「その可能性はあるね。」
「ただ、これは彼女にとってデリケートな問題だから、無闇に聞いちゃダメよ。あなたなら分るでしょう?」
母は僕の頭を撫でながら言った。
「父さんと母さんは、お互いに心理学を勉強していたから気が合って結婚したの?」
母は腕を組みながら少し考えた。
「結果的にはそうなんだけど、あまり関係ない気がするのよ。仮に違う形で出会ったとしても、きっと私はお父さんのことを好きになっていたと思うわ。」
母の目から1滴の涙が流れていた。
「ごめん、そんなつもりじゃ。」
「いいのよ。こっちにおいで。」
僕らは父の遺影の前に並んで正座して手を合わせた。
数日後。学校から帰っていると、近所の公園で涙を流しながら野良猫を撫でている彼女を見かけた。