第6話 「休職、療養。」

文字数 963文字

「お願い、どこにも行かないで。」
「わかった。」
「私を1人にしないで。怖いのよ。」
 さらに強く僕の腕を掴んだ。
「そばにいるから、大丈夫だよ。」
「ごめんなさい。本当にごめんなさい。」
「もう謝らなくていいよ。」
 母が再び眠るまで頭を撫でた後、僕はおよそ10年ぶりに母の胸の中で眠った。

 “僕は母親と性行為をした”

 人としていけないことだとは分かっているが、僕にはどうすることもできなかった。早くに夫を亡くしてしまった母の辛さを考えると、僕も胸が苦しくなった。父を裏切ることになるからと言って、母は新しい恋人を作ろうとはしなかった。そうして我慢できなくなった母は、僕に父の姿を重ねて体を求めた。
 服を脱いだ母の姿は美しく、僕は彼女とする時のように悦んでしまっていた。最低だ。

 翌朝、僕は良さげな心療内科を調べて予約を取った。それから母の大学に連絡して、先に僕が事情を説明してから母に電話を替わった。心理学部というだけあって、よく理解してくれたらしい。
 心療内科の初診は僕も母と一緒に診察室へ入り、医者と3人で話した。次からは母と主治医が2人きりで話し、僕は受付で待つようにした。

 以前より頻度は減ってきたが、その後も僕と母はお互い罪悪感を抱えながら寝た。母が危ない状態であることはわかっていたので、これ以上悪化させないためには仕方がなかった。そう自分に言い聞かせた。

 母は喫茶店で本を読んだり、自然のあるところに出かけたり、温泉に行ったりして療養した。貯金が十分にあり、休職手当も出たらしく、生活費は問題なかった。
 僕も放課後や休日は母に付き合った。責任感の強い母なので、初めは休職することに罪悪感を覚えていたが、「今の母さんは休むことが仕事だよ。」と僕が繰り返し諭しているうちに理解してくれた。
 彼女にも母の事情を話すと(もちろん僕と母が寝ていることは言えないが)、泣きながら心配して「私のことはいいからお母さんのそばに居てあげて。」と言ってくれた。

 母が休職してから半年が経った頃、僕と母が寝ることは無くなった。母が精神的に落ち着いてきたようなので安心したのと同時に、母と寝なくなったことが残念だと思ってしまった自分に嫌気がさした。

 ある休日。僕が料理を作って、母と一緒に夕食を取っていた。

「それで、あの子とは上手くやってるの?」

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登場人物紹介

僕。小学生の頃から心を閉ざし、人に興味を示さなくなった。

1時間おきに泣くクラスメイトの女の子。逆に普通の顔を思い出せない。

僕の母。大学で心理学の教授をしながらスクールカウンセラーもしている。40代だが若々しくて美人。

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