第一話「黒鉄の騎士とか弱い少女」

文字数 3,016文字

「テメェ、このクソガキ!」
村に怒号が響き渡る。村の広場に、武器を持った男三人が少年を取り囲む。男達は傷だらけで、武器もトゲトゲしいものばかりで、いかにも荒くれ者といった印象の強い男たちだった。少年の方は、年頃の少年といった感じで、肌も綺麗だ。
この男達は何をしているかというと、どうやらよってたかって少年のことをいじめているらしいのだが、村の人間たちは誰も助けようとしない。なぜなら。
「この俺たち、ドラグ・スレイブに対して舐めたマネして、タダで済むと思ってんじゃねぇだろうな!」
「そうだぜ! 俺たちはこの辺りじゃ有名なハンターギルドなんだぞ! 俺たちがその気になりゃあ、テメェなんかすぐに殺せるんだよ!」
「そんな俺たちの武器に落書きしやがって……」
男達の威圧に対し、少年は怯まず言い返す。
「うるさい! 元はと言えばお前達が悪いんだろ! お前達こそ、この村から出て行け!」
「ヤロォ……どうやら、痛い目みねぇとわかんねえようだなコイツ……オイ、やるぞ!」
「ああ、ちょうどムカついてたとこだしな! こういう世間をよく知らねえガキには、こうやって世間の厳しさを知らしめてやんなきゃな!」
そうして、男達は少年に対して暴力を振るおうとする。少年もボコボコにされることは覚悟しており、腕を前で交差させる。
だが、そこに水を差す人物が現れた。
「おいおい……子供相手に大人が三人で暴力を振るうなんて、少しやり過ぎなんじゃないのか?」
一体いつからそこにいたのだろうか、男達の近くに二人の何者かがいた。二人は背の高い方と低い方に分かれていた。二人は手をつなぎ、男達の目の前に立っている。
背の高い方は、全身を黒鉄の鎧に身を包み、顔はおろか全身がよく見えない。腰に剣を差していた。
もう一人は、白い肌の白と黒のレースつきのドレスを着た青い瞳少女で、手にはドレスグローブをつけている。だが、特徴的なのは彼女の髪の毛。赤い髪の毛を左右で縛ってツインテールにしているのだが、その縛った髪の毛が大きな膨らみをもっており、彼女の腰まで垂れ下がっているのだ。
そんな奇っ怪な容姿をしているにも関わらず、男達は少年をタコ殴りにするのを邪魔されたことに対して怒る。
「おいテメェ! 邪魔すんじゃねえよ!」
「何の権利があって俺らの邪魔をするんだ!」
「別に、子供相手に三人で殴るなんて卑怯なことを見過ごすことができなかったからだ。なぜそんなことをする?」
「俺たちの武器に落書きしやがったんだよ! 『バカ』だの『アホ』だの『クソッタレ』だの!」
「……拭けばいいだけだろう。子供がやったことだ、大目に見てやれ」
「大目だとぉ!? 俺らのプライドを傷つけたヤツは誰だろうと……こうしなきゃ気が済まねぇんだよ!」
そう言って、黒の鎧の方に殴りかかる。マトモに殴られる……と思って村の人々は目を伏せるが、黒の方はその手を片手でつかみ、投げ飛ばした! 男は簡単に吹っ飛び、その辺の土手に突っ込んだ。
「あ……あ?」
「ふう。次に殴るのはどいつだ?」
「おいおい……俺らを敵に回して、タダで済むと思ってんじゃねーだろーな!」
「なら、来い。相手にならいくらでもなってやる。さあ、他の奴らも呼んできたらどうだ?」
「……チクショー! 覚えてやがれ!」
そう言って、土手に突っ込んだ男を回収し、荒くれ者たちは去って行った。
「ふぅ、ああいうのはどこにでもいるものだな」
ため息。本当にこういうのを何度も経験しているかのようにパンパンと女の子のドレスから埃を通す。
その様子を見ていた少年は、驚いて起き上がれないでいた。なぜなら、あの大男を片手で投げ飛ばした。だけではない、女の子の手を握りながら、ほとんど動かずに。
「……そこの少年、少し良いか?」
「あっ、はい。なんでしょう」
「私達は、少しお腹が空いてるいるんだ。この村でおいしい料理を食べられる所はないか?」
「あ、それなら僕のトコで食べられるよ! ささ、おいでおいで!」
「ありがとう」
黒鉄の鎧騎士とドレスの少女。アンバランスな二人と手をつないで、少年は案内を始めるのだった。


「母さん! お客さんだよ!」
「お客様? あら、随分と……物々しい人と、可愛らしいお嬢さんね」
「アーシャさんと、アミティだって。あ、鎧の方がアーシャさんで、ドレスの方がアミティだよ。料理を作って! できれば一番おいしいの!」
「ハイハイ、カレーね」
厨房に入り、料理を始める。包丁の音や野菜を煮込む音。全てが聞こえる。その音を聞きながら、舌を舐める。
「料理上手なのだな。音からして美味しいことがわかる」
「わかるの?」
「美味しいモノは、料理を作る人からしてわかる。ちゃんと食べる人のことを考えているのだな。ありがたくいただこう」
「……あ、ありがとう」
「はいはーい。そんな美味しいカレーはこちらね」
茶色のドロリとした液と、椀盛られたライスが出てくる。ライスを皿に盛り、その上にスパイシーな液が乗る。液にはニンジンやらジャガイモやらがゴロゴロ入っている。
「さあ、食べようかアミティ」 
「うん」
「おっと、これは邪魔だな」
アーシャは兜をを取り、隣に置く。兜の下から現れたのは……。
「おぉ……」
白い肌はアミティと同じだが、赤……というより深紅の色をした紅い瞳の女性であった。その端正な顔立ちは、素人目にもいい顔であった。
そして、その顔にスプーンをつかってカレーを運ぶ姿は、非常に絵になる光景であった。
そうして、鍋のカレーと椀のライスが全て無くなった時、アーシャが口を開いた。
「ところで、さっきの男共は一体なんだ? この村の人間ではなさそうだが」
「はい……あの人たちは、ドラグ・スレイブという妖魔ハンターギルドの人たちです。人を食う怪物がこの辺りに現れるという話があり、あの人達を村長が雇ったのですが……」
「この子が武器に落書きをする程、やりたい放題していると?」
「はい……お恥ずかしいのですが」
「だってあいつら、必要経費だとか守ってやるとか言って、店の物とか勝手に持って行ったり、村の女たちを手込めにしたり! あんな暴力しか取り柄の無い奴らが村を守るなんて、お笑いもいいとこだよ! 怪物も見つけてないくせに!」
「この子が言った通りの惨状ですから、この子も我慢ができなくて、ついあんなことをしてしまったのでしょう」
「それで、怪物というのは?」
「わかりません。ともかくここ最近現れて、村の人たちの惨殺死体が数多く見つかっているもので……」
「……そうか。カレー、美味しかったです。さ、行こうか、アミティ。お金はここに置いておきます」
金貨が入った袋をテーブルに置き、アミティの手を取り、宿屋を出るアーシャ。それを、少年は追いかける。
「アーシャさん、行っちゃうの?」
「ああ、噂を聞いてここに来たは良いが、ここには私達の求めているものは無さそうだからな」
その言葉を聞いて、少年はしょぼんとする。
「……そうなんだ。じゃ、さよなら……」
肩を落としながら、足取り重く宿屋の中に戻って行った。
それを見て、アーシャは歩みを進めようとするが、アミティがアーシャの手を取ったまま動こうとしない。
「アミティ?」
「ねえ、お姉ちゃん……助けてあげようよ。わからないってだけで、ひょっとしたらひょっとするかもじゃない? だから……」
「だが……」
「……お姉ちゃん」
「やれやれ……しょうがないな」
アミティに連れられ、宿屋の中へと戻っていくアーシャなのであった。
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