第二話「ドラグ・スレイブ」

文字数 3,644文字

アミティに連れられ、アーシャは宿屋に戻ってきた。
「え、泊まるですって!?」
女将と言える少年の母親に、いきなり戻ってきてそんなことを言い、驚かれる。
「ああ、気が変わった。しばらくこの土地に厄介になろうと思う。そうだな……その怪物が見つかるまでここにいよう。これぐらいで良いか?」
女将に袋いっぱいの金貨を渡し、宿の打診をする。だが、女将は困ったような顔をする。
「どうした? 足りないか?」
「いえ……そうではありません。この宿のお部屋はもう満室なのです」
「ええっ。それはどうして……」
「先ほども言ったとおり、ドラグ・スレイブの方々が宿に全員泊まっていて、宿の部屋は既に満室なのです……」
女将がそう言った後、少年が出てくる。
「アイツら、部屋を好き放題使って荒らしまくって、母さんが片付けるのにどれだけ苦労してると思っているんだよ! ホントはあんな奴らに一部屋だって貸したくもないのに……」
「私達は屋根さえついていれば大丈夫なのだが……」
「いや、さすがにお客様に対してそういう訳には……」
「心配するな、ここまでもほとんど野宿しているようなものだ。屋根のあるところならどこでも寝られる」
「……それでしたら……」
そう言われ、用意された部屋はというと……。呼びのベッドのシーツや掛け布団などを置いておく場所であった。
「ほう、ここか……良いじゃないか」
「本当にすみません。こんな所しか用意できなくて……」
「いえ、かまいません」
「あ、ベッドは棚から出して床に直に引いておいてくださいね。取り替えるのがわかりますので……」
「わかりました」
「お食事は食堂で好きな時にかまわずしてもらって良いですが……あまり人がいない時に来てくださいね」
「なぜ?」
「その……あの人たちがいるといろいろ面倒ですので」
「いろいろと……か。大丈夫です」
「それでは、何か入り用な物があったら遠慮無く言ってくださいね」
倉庫から出て行った母親。早速アーシャは、シーツや敷き布団を1つ引き、寝る用意をする。
「早速だがアミティ、一緒に寝よう」
「吸血鬼は夜にだけ、活動するんだよね」
「そうだな。アミティ来てくれ、寝間着を着せてやる」
「じゃあお姉ちゃん、脱がせて?」
「ああ、わかっている」
アミティはアーシャに背を向けて腕を広げると、ドレスをアーシャ脱がせてもらう。そして、髪を縛っているレースを外してもらう。すると、髪の毛が垂れて床につくほどになり、その長さがうかがえる。
そして白い薄手の寝間着に着替えさせ、アーシャも鎧を脱ぎ寝間着に着替える。
そして、アーシャはアミティを座らせ、背中から櫛を使って髪をとかす。
「アミティは本当に良い子だな。ここまでの旅路、いろいろと苦労かけたと思うが、それでもお前は私についてきてくれた」
「だって、お姉ちゃんはずっとあたしのこと考えてくれてたでしょ? 村が大変なことになった時も、その後のことも……」
「私にとっては、お前は全てだからな。ずっと、お前は……私の……」
「あたしが危険な目にあっても、ずっと守ってくれてたよね」
「……ああ、そろそろ寝ようか」
布団に入り、アミティが寝る所を開ける。そこにアミティが入り、ちょうど抱き合うような形になる。
「おやすみ、アミティ」
「おやすみ、お姉ちゃん」
二人は共に、お互いのことを思いながら眠るのであった。


夜も更け、大分動植物達が寝静まった。だが、この時間帯にこそ、怪物たちは行動する。だからこそ、妖魔ハンターが活動するのも夜なのだ。
「……ん、もう夜か……ああ、アミティめ、また髪がボサボサになっているな。後でまたとかしてやるか。ほら、アミティ起きろ」
「んんぅ……」
「食事しに行くぞ。奴等、いないと良いが……」
床に敷いたベッドから起き上がり、アミティと手をつないで倉庫から出て食堂に入る。すると、やかましい声が聞こえてきた。それはちょうど、昼に聞いた……。
「ガハハハハ、馬鹿野郎、お前!」
「良いだろ良いだろ、さあさあ飲め飲め!」
「おい女将! お代わりまた何個かよこせや!」
「は、はい……」
「どうやら、来ては行けない時間帯に来てしまったようだな」
「うん……」
ドラグ・スレイブの連中が、食堂を占拠しているんじゃないかと思うくらい馬鹿騒ぎをしていた。酒盛り、大食い、大声で女将に要求など、我が物顔で騒いでいたのであった。
「……アミティ、しばらくしたらまた来るぞ。今は不味い」
そうして食堂から出ようとするが、アーシャは美人であったのが災いしたのか、一人に声をかけられる。
「おい、そこの美人なねーちゃんよう! こっちに来て俺らに酌してくれや! 俺らと一緒に遊んでくれよ!」
「……やれやれ、美人だとこれがあるからイヤだ」
美人故の悩みを考えながら、この手の輩はうんざりするほど経験しているため、無視して立ち去ろうとする。
だが……。
「そうつれない態度すんなよ~、ちょっーと遊んでくれるだけで良いっていうのに」
「そうだぜ! 手ぇつないでるガキなんかほっといて、俺らと一緒に遊ぼうぜ!」
と、男がアミティの悪口を言った時、アーシャは向き直って悪口を言った男の胸ぐらをつかむ。
「おい貴様……私に妹を放っておけなどと言うのか? 私の大事な……妹を!」
「な、なんだコイツ……女のくせにやたら力が……!」
「あぁっ! コイツ、昼間の……!」
「知っているのか?」
「鎧を着てないし、ガキの方は髪型が違ったからわからなかったが……コイツら昼間に俺のことを投げ飛ばした……!」
「何ぃ!? コイツらがぁ!?」
その話を聞いて、ドラグ・スレイブの連中がアーシャとアミティを取り囲……まない。
「さっき投げ飛ばされた時はすげぇムカついたけどよ、相手がこんな美人なら、別に構わねぇ。ちょっと一緒に寝てくれれば投げられたことなんか忘れるぜ」
「ハァ……嫌だ。妹を一人にしたくない」
「そんなこと言わずに……」
差し伸べられた手をバチンとはたき落とし、拒否の意思を強烈に見せる。そしてアーシャは語り始める。
「そんなことより、お前達はそれで良いのか? これから怪物退治に行くんじゃないのか? 酒盛りなんかして……そんなではやられてしまうぞ?」
「フン。この村を襲っている怪物なんぞ、我らのリーダーならば一ひねりだ。あっ……という間に倒せる」
「……それで、お前達は酒盛りをしているというのか」
「お、噂をすれば来たぜ。お頭~! ガギイお頭~!」
「おいお前ら、何をしていやがるんだ?」
奥の扉から現れたのは、身長が2メートル以上もありそうなスキンヘッドの筋肉の男であった。背中には、凄く大きな銀の斧を背負っている。
「……ヤツが、お前達の言っていたお頭か。お前達のリーダーだということがよくわかる人間だ」
アーシャが皮肉を言うも、ガギイは男達を差し置いてアーシャの所に向かう。
「ほぉ~お前ら、いい女連れて来たんじゃねえか。なんかお前ら、廊下で聞いた話じゃその女にやられたらしいが、俺らはどっちかと言うとヤる方だろ!」
「……なるほど、お前達以上という訳か」
アーシャは一人納得する。男の手を振り払い、部屋に戻ろうとする。だが、ガギイに肩を掴まれるが……。
「お前と話をしている余裕は無い、これから怪物退治に行かねばならないのでな。酒盛りならお前達で勝手にやっていろ」
と、簡単に振り払って部屋に戻る。
「チッ、つれねえ女だぜ。あんな美人のクセに、強い俺様になびかねえなんてよ……チキショー酒持ってこい酒! はよせんかタティ!」
ガギイは大声で、部屋の隅にいたタティに伝える。それを聞いて、タティは大声にビクッとなって立ち上がる。
「ま、また俺の自腹ですか? もう手持ちが……」
と、言いかけた途中で、ガギイの拳がタティの横っ面にぶち当てられる。
「あが、あががが……」
「良いから黙って酒持ってくりゃいーんだよ!」
「あ、はい……」
ドラグ・スレイブの連中がそうこうしているうちに、アーシャは鎧に着替えて村近くの森に来ていた。ドレスに着替えたアミティも一緒に。
「……なるほど、この死体には目立った外傷がほとんど無い。なのに骨と皮だけになっている。これが意味するところは……これだ」
剣で死体をひっくり返すと、首筋に穴が2つ開いていた。そこに、赤黒いモノが固まっていた。
「血だ……おそらく血を死ぬほど抜かれて絶命したのだろう。普通のモンスターなら、骨や肉ごと食う。なのに、血だけ抜かれたということは、ここらにいるモンスターが何者なのかわかったよ」
「うん……吸血鬼、だよね」
「ああ、もう何人か犠牲になっているだろう。だが、争った形跡がないことを見ると……不意打ちで首にガブリとやったのだろう。まだそれほど力は無いのだろう。だがしかし……相手が吸血鬼となると、あの程度の奴らが束になってかかれば餌を献上することになりかねない」
「じゃあ、今……」
「いや、この死体をみるにまだ血を吸ってから日が浅い。まだ渇く時ではないから後2~3日したら、また人を襲うだろう。その時に退治すればいい」
「うん……」
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