1.バレスチアで会いましょう

文字数 1,471文字

「シンガポールの首都ってどこだっけ」

職場の先輩たちに留学を決めたことを告げると、ひとしきり話が盛り上がった後、ふと疑問。マレー半島の南端に位置するシンガポール島は、南北に23km、東西に42kmしかありません。首都はまるっとそのままシンガポールな訳ですが、観光客で賑わっているのはハーバーサイドやクラークキー、CBDからオーチャードロードの辺りです。もう少し周辺から北の方へ足を伸ばすと、HDB (Housing Development Board) と呼ばれる、政府が建設した高層アパートの立ち並ぶ区画や、色とりどりのショップハウスがひしめき合った、地元民の居住地域になります。

私が住んでいたのは、バレスチア・ロード沿いに立つ、ショップハウスの三階でした。MRTではノヴェナ駅が最寄りで、家と道を挟んでバレスチア・プラザというショッピングモール、階下にバス停有り。クラスメイトたちのほとんどがHDBでシェアハウスをしていたなか、このショップハウスは三階をリノベーションして小部屋を幾つも仕切り、キッチンとトイレ、洗濯機は共同でしたが、ちょっとした寮みたいで、一人暮らし初心者にはとても居心地が良かったのです。部屋の備品はベッドと机と椅子とクローゼットとテレビがぎゅっと、全て手を伸ばせば届く距離。ベットの上から吹き替え版のドラえもんを見て中国語をおさらいするという、贅沢を味わえます。隣の部屋との壁が薄すぎて、寄りかかるとたわむのが分かるほどでも…気にしない!洗濯機脇の窓というか半バルコニーのような開け晒しから、物干し竿に濡れた服を掛けて、外側に突き出すように干すとまあ、当然よく落ちましたよね。(室内干しをすると湿度が高いのでなかなか乾かない。)建物自体は古いせいか、それとも南国のせいか、蟻が多いのには少々難儀しました…でも、角部屋からは、街並みがよく見えました。

CBDのビルが林立する様子とは打って変わって、シンガポールの下町は、草地や熱帯の木々を後背に、ショップハウスやストールがくっつきあって建っています。その間を縫って歩くのはなかなか楽しいもので、バレスチア・ロードには、幾つものおかずを並べて好きに選んでご飯の上に盛ってくれるテイクアウェイのお店や、マレー系の可愛らしいお菓子を売る店、生活用品が所狭しと置かれているストール、車の修繕屋、亀苓膏(亀ゼリー、超苦いやつ)の専門店、乾物や駄菓子のお店、そしてバレスチアと言えば肉骨茶のお店が並び、あちらこちらを覗きながら歩いていくと、うきうきした気分になってきます。

特に飲食店の営業時間は長く、肉骨茶のお店は朝早くから良い香りがするし、お酒を出すところは深夜まで開いていました。あのドリアンを夜食代わりに平らげるシンガポール人―または周辺国からの移民労働者は、とかくよく働きます。我が家一階のお店で、私がアルバイトから帰ってくる日付が変わる頃まで店番をしていた彼はマレーシア人で、親戚を頼ってシンガポールの学校に通いながら仕事をしているのだと言っていました。カフェやフードコートで休日の朝、甘い甘いシンガポールコーヒーを啜って自習していると、よく母子が一緒にやってきて、ノートを広げて学校の課題を見ているようでした。あの頃小学生くらいだった子どもたちも、もう社会人になっているでしょうから、感慨深い。シンガポールには、ホーカーと呼ばれる、ストール(屋台)が集まってフードコートのようになった場所が幾つもあります。次はこのホーカーから、シンガポールの不思議空間に集う人々をご紹介。

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