第2話【童話集との再会②】

文字数 2,049文字

そんなわけで、今は娘の部屋に置いてある童話集なのですが、子ども達が小さい頃はクローゼットの奥にしまっていました。
今から数年前、上の息子が保育園児だった頃に、一度クローゼットから出してみたのですが、試しに読み聞かせをした妻から一言。

「話が長すぎて、寝かしつけには向いてない」

と、先にも述べたような苦情(?)がありました。その結果、童話集は再びクローゼットに戻すことになったのでした。
そして数年が経った現在。
娘の為というよりも、自分が小説の参考文献とするために引っ張り出してきた童話集に、少し成長した娘が食いついてくれたのでした。

ここからは少し、僕の話になります。
僕の趣味が物語を考えること(小説を書くこと)だと、妻は昔から知っていましたし、子ども達も既に小学生ですから知っています。
我が家では、スマホやパソコンを子ども達の前で長時間眺めることをよしとしないので、物語の打ち込み作業は基本一人の時間ですることになります。
そうなると、夕食後のリビングに不可思議な風景が生まれます。

ポータブルゲームをする息子。
借りてきた本を見ながら工作をする娘。
借りてきた分厚い小説を読む母親(妻)。
童話シンデレラを読む父親(僕)。

この状態に初めて気づいたとき、自分の姿が父親としてどうなんだろうと、正直思いました。こんな父親でいいのだろうか。この場合、新聞を読むのが正解なのだろうか。それとも、仕事のスキルアップを目指して参考書でも読むべきなのだろうか。世のお父さん達は、一体何をしているのだろうか……と。
妻と子ども達は諦めているのか、それとも、こんな夫(父親)の姿に慣れてしまったのか、誰も"それ"に異論を唱えることはありません。
有り難いような、申し訳ないような、この件については、現在進行形で常に迷ってしまっています。
それでも、僕にとって物語を考えることがそれほど楽しく、夢中になることなのかは家族にも伝わっているようで、子ども達が「小説書いてみる!」と、自分達なりに物語を考えている姿を見ると、やっぱり嬉しくなります。

話を童話集に戻します。
先にも述べたように、そこそこ細かいストーリーと独創的なイラスト の童話集ですが、僕は"そっちの童話"にも出会えて良かったと思います。
もちろん、本当に小さな子どもには向いていないとは思います。物語によっては残酷な表現が出てくる場合もありますし、現在販売しているようなポップなイラストで簡易的なストーリーの方が、子どもにとっての童話の入口には向いているとも思います。
実際、自分の子ども達には、一冊にまとめられた分厚いおとぎ話集を買って、読み聞かせをしていました。
ただ、そこから少し大きくなった子どもには、少しレベルの上がった童話に触れてもらうことも大切なのではないかと。
言いかえれば、"内容"から"内面"に視点を移すという感じでしょうか。物語の内容(ストーリー)に触れることが第一段階だとすれば、登場人物の内面(マインド)に触れることが第二段階とでも言うのでしょうか。
シンデレラは、継母と義姉達から意地悪をされてどんな気持ちだったのか。人魚姫はどんな気持ちで声と脚を交換したのか。より細かい描写があることで、登場人物の気持ちに近づくことができるのではないかと。そうすることで、物語に深みが生まれ、より楽しむことができるのではないかと。
そして、多少残酷な表現も受け止められる年齢になれば、その刺激がスパイスとなって、より物語を楽しめるのではないかと。
歩く度に足をナイフで刺されるような痛みって、どれだけ辛いんだろう。そうまでして人間になりたかった人魚姫は、どんな気持ちだったんだろう。そんな感じでしょうか。

深く考えれば考える程、童話は面白くなると思います。むしろ、子どもよりも沢山の経験を積んだ大人の方が、登場人物の内面(マインド)に共感できる力はあると思うので、一度童話から離れた大人にこそ、もう一度読み直してもらいたいと思います。その時は、やはりある程度細かい描写で書かれた童話をおすすめします。そして、その際は、周りの目に注意することもおすすめします。童話を真剣に読む大人に、世間の目は決して温かくはないはずなので。

ーーー童話は子どもの世界のもので、大人が立ち戻るものではない

もしもそんな風潮があるなら、そんなのおかしいと思います。大人にこそ、童話を完全に楽しむ力があるはずですから。大人になって、童話を読み直して、考えて、感じて、その時に初めて童話を卒業できるのではないかと思います。

長々とややこしい話をしましたが、結局、僕は童話を読んでいる今の自分を正当化したいだけなのだと思います。
「大人だけど、童話読んだっていいじゃん!」
ただ、そう言いたいだけ。そのために子どものように屁理屈でコーティングしたにすぎません。やはり、僕はまだまだ子どものようです。童話からも、もうしばらく卒業できそうにありません。
童話集との再会で、そんなことを考えている今日この頃です。

つづく…。

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