第1話【童話集との再会①】

文字数 1,901文字

人生で初めて童話と触れ合ったのはいつ、どこだったのか、正直覚えてはいません。
母親の読み聞かせだったのか、幼稚園の先生の紙芝居だったのか、ラジオ放送か、はたまたテレビの教育番組だったのか……。
それでも、僕の頭にはちゃんと有名な童話(のあらずじ)は入っています。"桃太郎"や"かぐや姫"のような日本の童話から、"人魚姫"や"赤い靴"のようなアンデルセン童話。"ヘンゼルとグレーテル"や"ブレーメンの音楽隊"のようなグリム童話。そして"アラジンと不思議なランプ"や"アリババと泥棒"のようなアラビアンナイトまで。
有名な童話達は、あらゆるメディアで何度も取り上げられたり、オマージュされたりしていることも多く、それが頭に入っている理由のひとつだと思います。
しかし、もう一つ、僕の頭に童話のストーリーが入っている理由があります。それは、僕が幼い頃に家にあった"童話集"です。
その童話集には"ポケット絵本"と記されており、サイズにしてB6サイズ程度と小さく、厚さも1㎝弱と薄いものでした。それこそ先程述べたような世界中の有名な童話から、あまり聞いたことのないものまで、40冊が詰め込まれていました。 初版第1刷発行は約50年前という……なかなか年季の入った童話集でした。
母親に聞いた話では、その童話集は約40年前、僕の兄が赤ん坊の頃に自宅へ訪問販売に来たセールスマンから購入したそうです。

余談ですが、僕が幼い頃(約30年前)は傘や鍋の修理販売のおじさんが、家にやって来ていた記憶があります。今よりも様々な業種が訪問販売を行っていたんですね。傘も鍋も、壊れたら直ぐ買い換えるのではなく、直して使う。素敵な 時代だったと思います。今では"竿竹~"のトラックも滅多に見かけなくなりました……。
というわけで、母親曰く外に干していた布おむつを目印にやって来た(?)らしい訪問販売の人から、その童話集は我が家に届けられました。

50年前に作られたとはいえ童話集ですから、もちろん子ども向けに作られています。ですが、現在の子ども達向けに販売されている童話のようにポップなイラスト付きで、あらすじをなぞったような簡単な文章とは少々違っていました。
文字は全部ひらがなではありますが、ページの左半分にそこそこ小さな文字で、そこそこしっかりとした文字数のストーリーが書かれていて、じっくり読めば各話10分はかかるでしょう。幼い子どもの寝かしつけには不向きな文字の量です。
右半分にイラストが載っています。イラストは物語によって担当者が違うのですが、童話のイラストにしては少々迫力があるというか……正直、怖い。当時の僕には話によってはかなり怖かったという記憶が確かにありました。さすが50年前、といったところでしょうか。
童話にしては細かい描写に、独創的なイラストの数々。子どもが自分で読むならば小学校低学年以上のレベルであり、親がじっくり読み聞かせるにしても年長さん以上向けのような文字の量。でも、だからこそ、当時の僕は飽きずに何回も読み返すことができたのではないかと思っています。
そして、良くも悪くも細かく描写された物語だからこそ、より想像力が刺激されて、しっかり記憶できていたのではないかと、勝手にいい方向に思っています。

余談ではありますが、もちろん本は読むためにあるのですが、B6サイズ&ハードカバーで固い&40冊あるとなれば、子どもは読む以外の遊びもします。並べて立ててドミノ倒しをしたり、立てて重ねてトランプタワーのようにしたり、ミニ四駆のコースを作ったり……。今思えば絵本達には申し訳ない扱いをしたなと、むしろそっちの遊びの方が多かったなと、反省もしたりしなかったりです。
でも、絵本達には許して欲しいと思います。多少ぞんざいに扱って、まぁまぁの落書きもしてはしまいましたが、あれから30年が経った今でも、その童話集は僕の家に置いてあります。
時の流れ、引っ越し、成長、30年間いろいろありました。ランドセルや五月人形を始め、手放した思い出の品も多々あります。けれど、この童話集は手放したくありませんでした。なぜなら、僕は自分の子どもにもこの童話集を読んでもらいたいと思っていたからです。恥ずかしい話ですが、おそらく自分が子どもの頃から、そう思っていました。

そして今、僕の母親から始まったこの童話集は、無事に僕の子ども達(特に娘)の手にわたりました。
だから、どうか絵本達には許して欲しいです。そして願わくば、この落書き童話集が、僕の孫にまで伝わってくれたら、こんなに嬉しいことはない。そんな風に思ってしまう、今日この頃です。

つづく…。


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