第6話【『シンデレラ』の父親の再婚理由を考える】

文字数 2,924文字

今回から本編に入ります。早い話が、おじさんになって童話を読み返してみて、「ここってどういうことなのかな?」と、疑問に思ったことを、屁理屈をこねながら仮説を立てて書いていきたいと思います。
基本『夜の図書館』の進行状況に合わせて進みますので、恐らくゆっくり更新になることと思います。

第1回目は『シンデレラ』です。
作者はフランスの詩人シャルル・ペロー氏です。"シンデレラストーリー"という言葉を世の中に定着させる位、広く愛されている物語です。
貧しくも心の優しい少女に起こった、不思議な魔法の物語。まさに魔法使いが登場する物語の代表ではないでしょうか。

物語の冒頭から、少女は母親を失ってしまします。その時点で十分薄幸ですが、まるで追い討ちをかけるように意地悪な継母と義姉が登場します。
ここでさっそく「?」が浮かびます。

ーー父親の再婚理由は何だったのか?

自分も女の子の父親だからでしょうか。この物語で気になったのは、少女(シンデレラ)の父親の存在です。物語には登場しませんが、少女は父親とも一緒に暮らしているはずです。しかし、父親の描写は全くと言っていいほどありません。
父親が再婚し、意地悪な継母達が登場する事によって、少女の物語は動き始めます。そんな物語のトリガーとなった人物にも関わらず、です。

この父親は、一体どんな思いで再婚したのでしょうか。
家事を担ってもらう為だとしたら、シンデレラに家事全般を押し付けている時点で、新しい継母は失格でしょう。
シンデレラは年頃の娘ですし、母親の存在が不可欠な年齢ではないでしょう。
母親を失い悲しみに暮れている娘を元気付けたい為ならば、もっと優しい人を迎えるでしょう。

そこで、この父親の再婚理由の仮説として、以下の3つを考えます。
【仮説①…娘を元気付ける為の再婚であったが、父親は継母達の本性を見抜けず、本性を知った後も娘を守る勇気が出せない気弱な父親だった】
父親は母親を失って気落ちしている娘を元気付ける為に、新しい家族を迎えようと考えます。誰かからの紹介なのか、当時のお見合いシステム(?)があるのかはわかりませんが、父親は継母と出逢います。
この時、年頃の娘2人を連れた継母の狙いは、父親の収入(稼ぎ)と仮定します。少女の暮らしを見る限り、決して裕福とは思えませんが、娘2人を舞踏会に送る(為の支度を出来る)だけの収入はあったものと推測します。
継母は父親との再婚を成功させるために"良い継母"を演じたのかもしれません。娘達も同様です。3人は安定した暮らしを手に入れるために、協力してひと芝居打ったとも考えられます。父親の目には、娘にとっていい継母であり、いい義姉妹になる未来が映っていたのかもしれません。
そして、無事再婚が成立すると、3人はその本性を明かします。家事も行わず、娘にも強く当たる継母達に、父親も気づいていたはずですが、それをたしなめる描写は一切ありません。あったとしても、物語上なんの影響もない程度の弱々しいものだったと考えます。
「あんたが再婚を望んだんだろう?」
そう言われてしまえば、言い返せない。娘を慰めることすら出来ないのです。
心優しい反面、とても気の小さい父親だったのかもしれません。物語にも登場させる必要がないほどに。

【仮説②…自分のことしか考えてない、自分勝手な父親だった】
父親は娘のことなど全く考えない、自分勝手な
男でした。妻が亡くなったので、新しい妻を迎えることを当然と考えました。
物語上、継母のビジュアルは意地悪そうに描かれていることが多いのですが、まぁまぁの美貌の持ち主であったと考えられます。なぜなら、魔法使いの力で美しく変身したとはいえ、ある程度目が肥えているだろう一国の王子様を一目惚れさせた娘(シンデレラ)は、素顔も美しい娘だったはずです。亡くなったその母親もまた、恐らく美しい女性であった可能性は高いと思われます。
そんな女性を最初の妻にした父親ですから、美しい女性でなければ再婚相手には選ばないでしょう。父親は、己の欲を満たすためだけに再婚したと考えられます。継母に求めたのは外見の美しさのみ。内面の醜さや、娘への配慮など、父親は全く考えてはいなかったのかもしれません。これでは、物語に登場しないのも頷けます。

【仮説③…再婚したのはシンデレラに魔法をかけさせる為の魔法使いの助言からだった】
これは、完全に僕の妄想です。①②も妄想なのですが……。
本によって違うかもしれませんが、我が家の童話集では昔から少女の家の隣に住んでいたおばあさんが実は魔法使いだったという設定になっています。それを踏まえた仮説です。
父親の妻が健在だった頃、それこそ娘が生まれる前から、隣同士であった父親達と魔法使いの老婆は親交があったものと考えます。もちろん、最初老婆は自分が魔法使いであることは隠していました。
老婆は娘(シンデレラ)が生まれたことを自分の孫が生まれたように喜び、また、娘の母親が亡くなったことを自分の娘が亡くなったように悲しみました。
悲しみに暮れる父親と娘の姿に心を痛めた老婆は、ある決断をします。
「実は私は魔法使いなんだ」
老婆は自分が魔法使いであることを父親だけに明かし、同時に、最愛の母親を失い不幸のどん底にいる娘を救うための方法を伝えます。
「人の一生に降りかかる"幸せ"と"不幸せ"の量は、天秤で釣り合うようなっている。どちらかに大きく片寄れば、必ずどちらかに大きく傾く。魔法使いには、その天秤を操る力がある」
魔法使いは父親に言います。辛いとは思うが、不幸のどん底にいる娘をもっと辛い目に合わせれば、不幸の天秤が傾きの限界を迎え、今度は幸せへ傾くことになる、と。そしてその時、自分の魔法で娘を手助けすることができると。
その話を聞いた父親は悩みます。これ以上娘を苦しめたくはないと思うのは当然です。けれど、同じだけ娘を幸せにしたいと願う気持ちもありましたから、父親は決断します。娘を更なる不幸に追い込む為に、意地の悪い継母を迎えよう、と。
そして、父親の思惑通り継母と義姉達は娘をさらに苦しめます。シンデレラ(灰かぶり)という酷いあだ名までつけます。それでも父親は我慢しました。不幸の天秤が限界まで傾くその時まで。
そして舞踏会の夜。義姉達を見送った直後に、不幸の天秤は限界を迎えました。
泣き出す娘に、老婆は自分の正体を明かし、魔法をかけます。天秤が幸せへ傾き始めた娘のその後は、皆さんもご存じの通りです。
そんな娘の数奇な運命を、父親は陰からずっと見守っていたのかもしれません。自分が娘を慰めることで、少しでも娘の天秤が幸せに傾くことがないように、自分の気持ちを殺しながら。

以上、3つの仮説を勝手に立ててみました。個人的には①が最も現実的かもしれませんが、③であったら面白いかなとも思います。②は一番人間らしいかもしれませんが、あまりいい気持ちはしません。

自分で物語を考えるのも楽しいのですが、出来上がった物語の裏事情を妄想するのも凄く面白いと思います。皆さんは、どう考えますか?
シンデレラの父親は、どうして再婚したのだろう。そんなことを考えている、今日この頃です。

つづく…。





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