第二話:フランシス・エルゴール
文字数 2,375文字
小さく、透き通って可憐で、それでいて生物としての上位を分からせる圧倒を備えた顔容姿と、スラリと見事に伸びた長身。
一流の職人が造形した、女神のような顔立ちを持った少女が、大口を開けて笑っていた。
フランシスはむくれながらも、リプカに執拗な頬ずりを続けていた。
フランシス。
フランシス・エルゴール。
リプカ・エルゴールの妹であり、貴族としての教養を
天賦の
欠点といえば――決定的な玉の傷はといえば、姉のリプカを偏愛的にまで溺愛し過ぎていること。
姉のためなら大体のことをしてしまう妹。
――最初からこうではなかった。最初はむしろ、出来損ないと呼ばれる姉を見下していた。
「お姉さま」
「お姉さまッ」
「お姉さま!」
この世の全てと比すべき才女と呼ばれる少女が、この世でたった一人の味方に回った瞬間である。
稽古事で失敗したときも。
父と母にグズだ鈍間だ出来損ないだと罵られ、一人涙を流したあの日の夜も。
家の証である父の冠に脱毛剤を塗りたくったあの日の修羅場でも。
フランシスだけは、ずっと味方でいてくれた。
リプカはフランシスに抱き付かれながら、言い難い表情を浮かべ、天を仰いだ。
きちんと対等な立場で、
この胸にずっとずっと抱いていた、それが、最たる願いだった――。
しかし奮迅を胸にいざ発起すれば、三日の神速で婚約破棄。そりゃあ
というのも、それには非常に険呑な理由があって――。
私がちゃんとしていれば。
そう思うのだが、それはどんなに頑張っても今のところどうしようもなく、リプカはただただ、言い難い表情で天を仰ぐのだった。
その三日後。
何があったのかは、誰にも分からない。
ただ事実として、エイルムメイティル家という家名はその日から、世間の認知から一切合財消え失せてしまったのだった。