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文字数 1,485文字

 
 
【それで話を戻すとね】


【彼女は話を戻そうとするが、
 (あい)()わらずその恥ずかしさは、
 同時に僕に伝わっていた】


【イルカの翻訳(ほんやく)なんだけど、
 初期の開発ではもちろん
 イルカの話している言葉はわからなかった。
 (はっ)している音波はわかってもね。

 そこで、
 まだ言葉を知らない子供のイルカを使って、
 人間の言葉をイルカの発する音波に合わせて
 教え込んだの。

 この音波はうれしい。
 この音波はお腹すいたと言った風に。

 人語をイルカ語として教えたの。

 そして群れに戻した子供イルカは!
 本来の仲間の言葉を覚える。

 そのイルカは人語とイルカ語のわかる
 通訳者になるの。
 そうして通訳が出来るようになったのが、
 ピーピーとキーキー 】


【それは不思議な話だった。
 僕の知る世界では、
 そんな技術はまだ発見されてないどころか、
 そんな(こころ)みさえされてないのだから。

 オーバーテクノロジー

 (あき)らかに彼女の所属する組識は、
 時代の最先端(さいせんたん)をいっている 】


【アレフ、それが私の所属する組識。
 でもね、そんな事はどうでもいいの。
 ただイルカと仲良く出来れば。

 それで翻訳(ほんやく)を進めていた時に、
 人語とイルカ語の決定的な齟齬(そご)
 いきあたったの。
 イルカはその言葉で、
 海底の地形やその物の形や、
 材質まで語っていたの。
 これを人間の言葉で説明するのは、
 不可能に近かったのよ。
 人間の言葉はイルカの言葉より、
 圧倒的(あっとうてき)(おと)っていたのよ 】


【さすがイルカを神と崇拝(すうはい)する彼女の言葉。
 そこには(くや)しさより嬉しさで(あふ)れていた】


【そこでこのソールリンクが、
 新たに開発される事になったの。
 言葉じゃなく感情を、
 ダイレクトに直接伝える装置がね。
 まだ実験段階で、
 人間同士の通信には成功してるけど、
 イルカとの交信はまだまだこれからよ 】


【そこでふと()(もん)がわいた。
 アクアボイジャーでも片言ではあるが、
 イルカと話せていたはずじゃ・・・

 その疑問を口にするまでもなく、
 彼女はすぐに答えてくれた 】


【確かに子供の時に人語を教えた、
 ピーピーとキーキーとは会話できるわ。
 でも他のイルカとの会話になると難しいの。

 だって人の言葉はその物の形や材質、
 その位置情報まで伝えたりしないもの。
 ピーピー達が翻訳してくれても、
 うまく伝わらないのよ 】

【逆に言えば、ピーピーとキーキーは、
 人の理解できる部分だけを抜き出して
 話してくれている 】


【イルカに理解できるように話していたと
 思っていた自分が、
 逆にイルカに考慮(こうりょ)されていた。
 それこそが人間の傲慢(ごうまん)なのだと、
 思い知らされた。

 万物の霊長(れいちょう)だとおごった人間は、
 他の生物は人間より知能が低いと、
 ()(とう)だと(さげす)んでいる。


  ()(りょ)欠如(けつじょ)

 それこそが傲慢(ごうまん)無知(むち)

 ()(しゃ)の権利を(しいた)げる暴虐(ぼうぎゃく)()

 他の者を()みにじる悪の因子(いんし)

  人の(ごう)なのだと 】
 
 
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