５

彼女は魅(み)いられた様(よう)に、
足元(あしもと)の海面を見つめたまま歌い始めていた。


『ラーラーラーラーラー』

どこまでも透明な声は、
深淵(しんえん)の夜空に響き渡り闇夜を彩(いろど)る。


波(なみ)の緒(お)の旋律(せんりつ)に包まれ流れる幼(おさな)き歌声(メロディー)。


そんな優(やさ)しいメロディーを口ずさむ少女の横顔を
海から漏(も)れた仄(ほの)かな燐光(りんこう)が、
青紫(せいし)の妖艶(ようえん)の中に包み込んでいく。

子守唄(こもりうた)の様(よう)などこか懐(なつ)かしいメロディー。


　　　　　夢にたゆたゆように

　　　　　 永遠(えいえん)に誘(いざな)うように

　　それは世界を調律(ちょうりつ)する歌声だった



波(なみ)の音が、その拙(つたな)き声を優(やさ)しく溶(と)かしていく。

僕はそんな彼女の幼(おさな)き横顔を見つめ、
癒(いや)されてゆくのを感じた。

温かな抑揚(よくよう)。

どこか懐(なつ)かしく切(せつ)なくなる声。

渺漠(びょうばく)と広がる海原(うなばら)に響(ひび)く声は、
どこまでも透明(とうめい)で、幼気(いたいけ)なく、優しかった。

そんなセイレーンの声に誘(さそ)われ海原(うなばら)で、
何かが鳴く声が「ピュウﾋﾟｭｳ」と聞こえていた。

その優しき歌が世界に溶(と)け込み終わる頃(ころ)には、
その余韻(よいん)を残すように、
辺(あた)りを潮騒(しおさい)の優しさが包んでいた。

彼女は満天(まんてん)の星空(ほしぞら)を見上げポツリともらした。


『私あそこから来たの』


一粒(ひとつぶ)の雨粒(あまつぶ)の様(よう)にこぼれ落ちた彼女の鼓動(こどう)。

そう言って黙(だま)ってしまった彼女の、
視線(しせん)の先を辿(たど)る。

彼女の見つめる先には満月があるだけだった。


不思議(ふしぎ)の海(うみ)の少女。

そんな神秘的(しんぴてき)な少女の顔が、どこか
憂(うれ)いを帯(お)びて見えるのは気のせいだろうか。

彼女は虚空(こくう)を見上げたまま続けた。


『私が宇宙人だと言ったら信じる？』


僕は彼女の不思議な容姿(ようし)を見つめ、
その真意(しんい)を計(はか)る。

『月面保管計画(げつめんほかんけいかく)・・・
　 そこで産まれた最初の子供・・・　』

彼女は付(つ)け足(た)すように、
腰かけたポッドに手を添(そ)え続けた。


『このポッドは宇宙船なの』

どこか夢見るような遠い瞳で、
彼女は静かにそう告(つ)げた。

僕はそんな彼女に魅(み)いられたまま静かに答えた。

「信じるよ」

そうそれが彼女の空想だろうと真実だろうと、
僕は彼女の言葉を信じる。


彼女は僕に向き直りその真意(しんい)を計(はか)るように、
じっと僕を見つめ続けた。