六 夢をあきらめる

文字数 482文字

 秋。
 白石麻美が見合いした、と噂が流れてきた。

「見合いじゃなくて、幼なじみ。結婚は以前から言われてたの。就職してしばらくしてからでいいと言われたけど、どうせなら、早くてもいいと思いはじめたの」
 麻美は長身の美女だ。大学入学時から卒業まで成績優勝で主席だ。書道は五段。入学以来、堀田とは友だちづきあいから先へ進まない相手だ。

 卒業と同時に、見合いして結婚するなら、なんで工学部に入って、某有名食品企業の内定を取りつけたのか不思議だ。

三月。
「前歯に口紅がついてるよ・・・」
 卒業式の会場で、堀田は麻美の話を聞きながら、そっと告げた。
「こういう注意、いつもしてくれるの、あなただけだよね・・・」
 寂しそうに、麻美はそっとささやいた。
 麻美の寂しさは、卒業することより、新生活を得るために、小さいときから夢みたという、食品開発をあきらめねばならない事にあると堀田は思えた。
 そして、もう一つ堀田は気なった。
 麻美の家庭は母と弟と麻美の三人家族だ。結婚後は、夫がなにかと麻美の実家を支えるらしい。麻美は、夫との愛情より、実家への経済援助を優先したように思えてならない。
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