三 男らしくないのはキライ

文字数 923文字

 六月半ば。
 二日間にわたって大学院の入試が行われた。
 終ってみれば、メールの問題が出題され、試験の翌日、合格の内定が出た。
 総合成績で、鷲野、堀田、加山の順でトップスリーを占めていた。
 堀田の総合成績二位と、専門科目と物理の成績が一位だったため、研究室の教授たちを大いに満足させた。

 工学部の成績が良かった松岡は合格していなかった。
 その後、秋の二次募集も、松岡は不合格になり、就職できなかったため、卒業後、一年間、研究生として残り、就職先を見つけて、大学を去っていた。
 大学院を受験する学生にとって両天秤はない。合格すれば就職しないから内定を断ることになる。従って就活は御法度だ。それら事情を大学側から注意されている。厳しい現実だ。


 六月下旬。
 堀田は体調を崩して寝込んだ。
 病院で診察を受けると、医師は、試験勉強の疲れで過労だと言った。
 どこから聞きつけたか、雨の日、鈴木あや子が下宿を訪ねてきた。
 堀田は布団に入ったまま、まどろんでいた。

 あや子は好子と同じ歳だ。この春、高校を卒業した。留年して四年生を二度くりかえしている川本とつき合っている。
 あや子は顔立ちも体型もすごく可愛い。街を歩けば誰もがふりかえる。堀田は川本を
とおしてあや子と親しくなった。
 川本が就活で忙しいさなか、堀田は大学院の受験勉強の気分転換に、二人で映画を見に行った帰り、この年頃の女が興味を持つであろう事に関心を示さず、異性にしか興味が無いあや子のビッチさを知った。この年頃のホルモンのなせる技なのかと思う・・・。

「なにか、欲しい物ある?」
「あやこ」
「バカ、男らしくないのはキライ」
「川本さん、女々しくなったんだ」
「そうなの。結婚する気、なくなったよ。ワイルドじゃないんだ、最近・・・。
 留年したのが就活の妨げだってボヤキ出して・・・。
 熱、無いの?」
 あや子は堀田の体温を唇で確かめている。

 なるほど、メールはあや子の本質を見ぬいてる。もし俺があや子と一緒になれば、何かの時は、他の男の部屋を訪ね、熱があるか否か、唇で確かめるような事をするのだろう。

 これまで、堀田はあや子と身体の関係はなかった。今、堀田は熱があり、あや子のすることをぼんやりと記憶していた。
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