第18話 おっさんとマグナムと回転投合

文字数 2,770文字

冒険者試験。

試験の内容は、心・技・体をひとつの基準に設け、

心は精神面、技は技術面、体は肉体面を評価し、

ー冒険者として活動可能なのかー

その1点に焦点が当てられる。

ーー

試験官は3人、

盾と剣をもった戦士はカギー・バドラ。

2大名乗りと呼ばれる名誉称号を持つ人間でありながら、

冒険者組合長の信望も厚い彼は、53歳。

ドラゴンが現れる所にカギー在りと言われる程、

ドラゴン戦記と呼ばれる1万のドラゴンとの戦闘で

軍団50万人の兵士・冒険者を含んでの戦いの中、彼の討伐数は100体。

ドラゴンの吐く灼熱の炎に突き進む姿は蛮勇の如き猛者を感じさせ、

他の戦闘者を熱狂させた。

炎斬(えんざん)と呼ばれるツーハンデッドソード=両手剣を駆使し、

炎を切り裂き進み、ドラゴンを炎の中より出でて討伐する事、

早20年、バドラの名乗り挙げを人間国王から認められるに至った。

ーー

ローブに身を包んだ杖持ちの女性はレフィー・フォー。

彼女も2大名乗り称号をもつ人間で、37歳。

魔法行使の申し子と幼少時より呼ばれ育ち、

様々な魔法経験値を蓄積し、その魔法行使技術を文献に残し功績を挙げ、

種族において絶大なマナ保有量である事と、

4つの魔法属性火・水・風・光(治癒の進化属性)の魔法属性を行使可能な事から、

フォーの称号を人間国王より与えられた。

ーー

弓を持つエルフ:エルガーラ。正式名称:エル・ガーラ。

2大名乗りの称号を持ち、都ルシアーでの活動はエルフ族先祖との契約によるものである。

2大名乗りの称号は人間種族からの呼称であり、エルフ界ではエルと呼ばれている。

ガーラの称号は、祝福の日と呼ばれる過去の出来事から与えられた称号であるらしいが、

過去の文献が残っておらず、その呼称は人間国王の先祖代々から引き継がれているだけである。

ーー

「よし、冒険者をこれから志す諸君。

まず一言。

この冒険者試験は生半可な覚悟で簡単に乗り越えられるものでは無い!!!」

カギー・バドラーの恫喝に冒険者の中には動揺するものがおり、

その姿勢を整える姿をカギー達試験官は観察していた。

「(気の弱い連中をふるい落とす気だろうが、
冒険者増やしてくれないと、俺の目的が遠のくから勘弁してくれ!)(ジロリッ)」

おっさんは多少睨みを利かせ、カギー達を見据える。

(ゾクゾクーッ)

試験官2人が視線を右往左往し、1人はおっさんを見渡す。

おっさんは感づかれたと思い視線を逸らすがエルフはしっかりと観察していた。

「(あのエルフ強いな、たぶん。・・・あまりオーラを出さないほうが良さそうだな・・・)」

スーッとおっさんは身体に掛けた力をオフにすると、エル・ガーラはその視線を少し緩める。

「(あのおっさんは何者だ。自発的に能力値を隠す事ができるとは・・・。ふふ、少し興味が湧いたぞ)」とはエルフ。

「「(今、なんか変な視線感じた(わ))」」カギーとレフィーは視線を右往左往している。

「っ・・・すぐに試験を始めるぞ!番号順に、移動してもらった線より、前方に見える的に向かって好きな武器を投げて欲しい、投げ終わったら、直ぐに的は新しいものに貼りなおされる魔法が掛けられているから、それを確認して投合してくれ、それでは1番の者、的に攻撃したまえ」

「おう!、俺はこの斧だぜ!・・・フヌヌヌ、どりゃああああっせ!!!」

1番の男。如何にもマッチョな筋肉質ボディをしており、

俺の筋肉に惚れたまえと吠えそうな面構えをしている。

男は溜めた力を腕先に伝え、斧を振り投げるとブンブンブンと上下に回りながら、的にガキンと直撃し、跳ね返る。

「おお、見事なコントロールだな。力を制御できている証拠だ。次の試験会場へ行って良し。」

試験官は男に近寄ると、次の試験内容が書かれた紙を渡す。

「では次の2番、君の番だ」

2から30番まで、魔法を放つ者もいれば、斧をぶん投げる者もおり、

的目掛けて己の武器を投合または魔法を放ち続ける。

的を外す者もいれば、的のど真ん中を凍らせる者、焦がす者、切り裂く者、弾かれる者、

破壊までに至らないが的に当たる者は30人中10名、当たらずとも高威力の攻撃が出来ている者は8名であった。

「次31番、君の番だ」

おっさんは31番。

「おう、俺だな(さて、武器はこの剣になるが、全長が長く、投合するにしても工夫しないと、的を破壊する事ができないな・・・フム。)」

「?どうした31番、的は出てるぞ?」

「・・・おう・・すまんな今やる」

「やるってw・・・!」

おっさんは武器に込める。イメージ錬成。

.22口径(5.56mm)マグナム弾。

高い弾頭初速・貫通力に優れる。

その特性をイメージし、剣の見た目を変えず、剣の内部構造のみ錬成する。

おっさんは目を閉じている間、周りの者がざわめいているのを感じ取っていたが、

いまさら引き返せない。おっさんは身体能力を50%程引き上げ、剣の柄を持ち、

両足を前後に開き、剣を頭の後ろに掲げ、胸を半分反らし、片方の手は的に照準を当てる。

「んっ!!!どりゃ!!」

おっさんの唸りと投合がシンクロする時、剣は一瞬光を灯し、的を目指して突き進む。

秒間550~700Mの距離を進むという弾丸速度を実現させた、

その剣の動きをただの人間は見ることなどできない。

だが試験官達はただの人間ではなく、あらゆる修羅場を戦ってきた強者。

おっさんの能力値は50%しか上昇させておらず、

試験官達の能力値を大きく下回っていた。

しかし、結果は能力値通りになるかと思いしや、そうはならなかった。

突き進む剣は的に当たった瞬間、その威力を示すこととなる。

おっさんは剣の柄を持っているとき回転させやすいように握り、

投合の瞬間剣に左右の回転を加えていた。

その結果、マグナムの貫通力を高めただけでは的を貫通できない状態になっていたが、

おっさんの力と回転推進力が剣の威力を後押しする。

「っ!おいおい、ありゃどうなってやがるんだ・・・」

的の真ん中で回転を繰り返し、空中でその回転が分かるぐらいになると、

まわりの参加者がこぞって反応する。

「ふう。とりあえず、的には当てられたな・・・あとはどこまで突き進んでくれるかな・・」

おっさんは投合し終わった余韻に浸る。

剣はその回転速度を緩める事無く、徐々に的を削っていき、次第に剣の胴体まで入り込んでいく。

剣の柄に当たると、その回転は遅くなっていき、約10分後、的に刺さった剣がそこに残るのであった。
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