第4話 紗那を救い出すために
文字数 1,957文字
真白が氷穴から出ると、外は秋の入口であり、残暑がまだ厳しい日差しだった。
手をかざして太陽を見ると、強い光が目を射る。
さっきの出来事はなんだったのだろうか。
紗那は死んでしまったのだろうか?
あれは本当のことだったのだろうか?
現実にかえってきて、ぼうっとした頭で必死に考える。
はっきり分かったことは、氷穴の奥の世界、そこに紗那はいる。
それは間違いがないことだった。
そう確信し、ではあそこは何処なのだろうか、と疑問に思った。
紗那は『義経の身代わり』をしている、と言っていた。
そして真白をこの氷穴でここに帰したのは、『武蔵坊弁慶』だ。
その武蔵坊弁慶は、「この『時の氷穴』は色々な時代へ行ける」と言っていた。
ならば、紗那はこの氷穴の奥の世界、時代の違う世界へと行ってしまっているのか。
そして、一番気が気でないのは、紗那が命を狙われていた、ということだ。
義経は、最期に兄の頼朝 の逆鱗 に触れて命を落とす。
それくらいなら真白も知っていた。
でもいつ? どこで?
そんなことまで真白は知らなかった。
「と、とにかく紗那のいる場所は分かったわ! あとは私がどうやってか、あっちの時代にいる紗那をこっちの時代に連れてくるのよ!」
真白は自分に言い聞かせるようにして、声を上げた。
もう一度、氷穴の中に入ってみる。
そこには、氷壁の中に緑に光る字数列がまだ浮かび上がっていた。
『G(I)-X(S)201709110900』
この字数列は、場所と時間を表す、と弁慶が言っていた。
Gが紗那のいた場所、Xが真白たちのいる場所。
そして西暦と日付と時間、そう弁慶は言っていた。
ならば、日付を一日前にして、紗那をあの館から連れ出すのはどうだろうか。
そう思ったが、紗那はあの時点で二十歳を超えていた。
さらに、紗那はあの時代で、「仲間を置いて逃げられない」と言っていた。
もっと前の時代で、そう、紗那がきたばかりの時代へ遡って彼を助けるわけにはいかないだろうか。そうすればなんのしがらみもなく紗那は帰ってこられる。
そして、今すぐには助けにいけないことも知った。
あの時代に溶け込む服装、せめて着物くらい着ていきたい。制服では目立ちすぎる。
そして、どの年代に飛べばいいのか、そのガイドになるメモのようなものを持って行かないと、字数列を入力する際に困ることになる。
そう考えて真白は紗那の家の裏山の入口に置いてある自転車にまたがると、学校へは行かず、市立図書館へと向かった。
図書館はこの市で一番大きい図書館だった。書架が天井まで伸び、上の本を取るための椅子も用意されている。検索機が置いてあり、インターネットも使えた。
本の独特の香りが充満しており、壁には可愛い絵のついたお知らせが張ってある、静かで明るい雰囲気の図書館だ。
その検索機で『義経』と入力すると、関連した本がたくさん表示された。
その中の何冊かを選んで書架から抜き出し中を見たところ、とくに『義経の一生』という本が一番わかりやすく年表まで載っていた。
それを真白は図書館でむさぼり読んだ。
義経の最期は、奥州平泉 (東北地方)にて、衣川 の館 と呼ばれている館 で1189年に藤原泰衡 の軍に追い詰められ、自刃を遂げる。
衣川の館……。それは紗那も言ってた場所だ。紗那は衣川の館にいたのだ。
そして襲ってきた兵士たち……それは泰衡 の軍だったのか……?
ならば時代は1189年だ。
真白は本を読みながらぶるっと身体が震えた。
紗那はあの衣川の館の時代で二十一歳になると言っていた。
だから、あの時代に行って五年になるのだろう。
五年もあの時代に囚われていたのだ。
そして、仲間を犠牲にできないから、と言って真白だけ逃がして自分は残った。
真白はさっき氷穴の入口で考えたことをもう一度反芻する。
この、衣川の館で襲われている時代から、五年前に行けば、紗那は何のしがらみもなく帰ってこられる。
衣川の館で紗那が襲われていたのが1189年。
ならば、1184年にいけばいいのではないか……?
しかし、そこでどうやって紗那を見つける?
それはもう、真白の中で答えが出ていた。
源氏の軍にいればいいのだ。そこに義経の身代わりとなるべき紗那がいるのではないか。
1184年に義経が参加した有名な戦は、源氏の義仲と戦った『宇治川の戦い』だ。
その時期に合わせてタイムスリップ――『時の氷穴』を動かそう。
真白はそう決めると、その本の貸し出し手続きをして、市立図書館を出た。
あとは食料をそろえなければいけない。真白はコンビニエンスストアへ行くと、おにぎりをいくつかと、お菓子を少し買った。ペットボトルのお茶も。
それらを買って家についたときには、もう時刻は夕方になっていた。
手をかざして太陽を見ると、強い光が目を射る。
さっきの出来事はなんだったのだろうか。
紗那は死んでしまったのだろうか?
あれは本当のことだったのだろうか?
現実にかえってきて、ぼうっとした頭で必死に考える。
はっきり分かったことは、氷穴の奥の世界、そこに紗那はいる。
それは間違いがないことだった。
そう確信し、ではあそこは何処なのだろうか、と疑問に思った。
紗那は『義経の身代わり』をしている、と言っていた。
そして真白をこの氷穴でここに帰したのは、『武蔵坊弁慶』だ。
その武蔵坊弁慶は、「この『時の氷穴』は色々な時代へ行ける」と言っていた。
ならば、紗那はこの氷穴の奥の世界、時代の違う世界へと行ってしまっているのか。
そして、一番気が気でないのは、紗那が命を狙われていた、ということだ。
義経は、最期に兄の
それくらいなら真白も知っていた。
でもいつ? どこで?
そんなことまで真白は知らなかった。
「と、とにかく紗那のいる場所は分かったわ! あとは私がどうやってか、あっちの時代にいる紗那をこっちの時代に連れてくるのよ!」
真白は自分に言い聞かせるようにして、声を上げた。
もう一度、氷穴の中に入ってみる。
そこには、氷壁の中に緑に光る字数列がまだ浮かび上がっていた。
『G(I)-X(S)201709110900』
この字数列は、場所と時間を表す、と弁慶が言っていた。
Gが紗那のいた場所、Xが真白たちのいる場所。
そして西暦と日付と時間、そう弁慶は言っていた。
ならば、日付を一日前にして、紗那をあの館から連れ出すのはどうだろうか。
そう思ったが、紗那はあの時点で二十歳を超えていた。
さらに、紗那はあの時代で、「仲間を置いて逃げられない」と言っていた。
もっと前の時代で、そう、紗那がきたばかりの時代へ遡って彼を助けるわけにはいかないだろうか。そうすればなんのしがらみもなく紗那は帰ってこられる。
そして、今すぐには助けにいけないことも知った。
あの時代に溶け込む服装、せめて着物くらい着ていきたい。制服では目立ちすぎる。
そして、どの年代に飛べばいいのか、そのガイドになるメモのようなものを持って行かないと、字数列を入力する際に困ることになる。
そう考えて真白は紗那の家の裏山の入口に置いてある自転車にまたがると、学校へは行かず、市立図書館へと向かった。
図書館はこの市で一番大きい図書館だった。書架が天井まで伸び、上の本を取るための椅子も用意されている。検索機が置いてあり、インターネットも使えた。
本の独特の香りが充満しており、壁には可愛い絵のついたお知らせが張ってある、静かで明るい雰囲気の図書館だ。
その検索機で『義経』と入力すると、関連した本がたくさん表示された。
その中の何冊かを選んで書架から抜き出し中を見たところ、とくに『義経の一生』という本が一番わかりやすく年表まで載っていた。
それを真白は図書館でむさぼり読んだ。
義経の最期は、
衣川の館……。それは紗那も言ってた場所だ。紗那は衣川の館にいたのだ。
そして襲ってきた兵士たち……それは
ならば時代は1189年だ。
真白は本を読みながらぶるっと身体が震えた。
紗那はあの衣川の館の時代で二十一歳になると言っていた。
だから、あの時代に行って五年になるのだろう。
五年もあの時代に囚われていたのだ。
そして、仲間を犠牲にできないから、と言って真白だけ逃がして自分は残った。
真白はさっき氷穴の入口で考えたことをもう一度反芻する。
この、衣川の館で襲われている時代から、五年前に行けば、紗那は何のしがらみもなく帰ってこられる。
衣川の館で紗那が襲われていたのが1189年。
ならば、1184年にいけばいいのではないか……?
しかし、そこでどうやって紗那を見つける?
それはもう、真白の中で答えが出ていた。
源氏の軍にいればいいのだ。そこに義経の身代わりとなるべき紗那がいるのではないか。
1184年に義経が参加した有名な戦は、源氏の義仲と戦った『宇治川の戦い』だ。
その時期に合わせてタイムスリップ――『時の氷穴』を動かそう。
真白はそう決めると、その本の貸し出し手続きをして、市立図書館を出た。
あとは食料をそろえなければいけない。真白はコンビニエンスストアへ行くと、おにぎりをいくつかと、お菓子を少し買った。ペットボトルのお茶も。
それらを買って家についたときには、もう時刻は夕方になっていた。
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