第6話 新曲の録音が終わった後しばらくして、コマーシャルの撮影をすることになった

文字数 11,197文字

 新曲の録音が終わった後しばらくして、コマーシャルの撮影をすることになった。
梅印乳業の新製品のピュアヨーグルトのコマーシャルで、新鮮な感じがラブエンジェルズのイメージにぴったりだと会長が直々に指名してきたらしい。
新曲とのタイアップの企画でマネージャーの話では「コマーシャルが話題になれば新曲の大ヒットは間違いない」との事だった。
私もラブエンジェルズの女の子たちも本当にそんなに上手くいくんだろうかと半信半疑で話を聞いていた。
コマーシャルの撮影に朝早くからスタジオに行くと、スタッフが大勢スタジオで撮影の準備をしていた。
随分と広いスタジオで照明器具が天井や、壁際に沢山並んでいた。
撮影のスタッフ以外にも背広をきちんときた男女が大勢いて、ただ立っているだけで何もしない。
広告代理店の人やスポンサーの会社の人たちらしくて、マネージャーがさっそく名刺を交換していた。
しばらくして撮影の準備がすんだらしくて、撮影の監督を紹介されると打ち合わせが始まった。
「今日の撮影は、明るく楽しく、ラブエンジェルズらしい可愛らしさがポイントだから、君たちはいつも道理にして普段の感じをだしてくれればいいよ」と監督に説明を受けてからリハーサルが始まった。
時間にしてたった15秒だけど、何回もリハーサルを繰り返した。
リハーサルの後にやっと本番の撮影だ。
本番の撮影も何回もやると、さすがに疲れてきて表情が硬くなってしまった。
「はい、休憩」と監督が声を掛けてくれたので、しばらく缶コーヒーを飲んで休憩した後また撮影を繰り返した。
やっと撮影が終わったあと控室に戻ると、マネージャーが「有紀ちゃんちょっと来て」と私を控室の外に連れ出した。
「実は梅印乳業の会長の山口さんがわざわざコマーシャルの撮影の様子を見に来てくれてね。ぜひ有紀ちゃんと一緒に食事をしたいと言ってるんだ。大事な話があるらしくてね」とマネージャーが言い出した。

ーー 以下 AIのべりすとが自動生成した文章 ーー

私はびっくりしたけど、「いいですよ」と答えた。
するとマネージャーは更に驚いて「ええー!本当かい?!」と声をあげた。
そして次の瞬間にはもう私の手を掴んで廊下を走り出していた。
その日は日曜日だったので、事務所にいたのは私一人だけだった。午後1時過ぎに社長室に呼ばれて「今日これから空いているか?」と言われた時には、何か重要な用件なのだろうとは思ったけれど、まさかこんな事になるとは想像してなかった。
私が恐縮しながら「はい」と答えると、社長は「じゃあ、すぐ行くぞ」と言った。どこへ行くのか聞く間もなく車に乗せられて、着いた所は高級ホテルの一階にあるレストランだった。
入り口ではボーイが出迎えてくれていて、そのまま奥へ案内された。
席に着くとすぐにメニューではなくて、大きな花束が差し出された。
そして社長の隣に座っている男性が立ち上がり自己紹介を始めた。
「この度はわが社の新商品であるピュアヨーグルトのCMに出演させて頂く事になりまして誠にありがとうございます。今回当社の新製品の開発にあたり、イメージアップのためにもイメージガールが必要という事で、ラブエンジェルズと御社の両方にお話をしたところ、双方の思惑が一致しましたもので、このような企画が実現した次第であります。つきましては、まずはこちらの方からご挨拶申し上げます」と深々と頭を下げた。
それから顔を上げると「有紀ちゃん、こちらは梅印乳業の会長の山口様です」と紹介された。
「はじめまして。有紀と申します」と慌てて挨拶をした。
会長は「いやいや、そんなに畏まらなくても大丈夫だよ」と笑いながら言った後、「さて、早速だけど本題に入らせて貰おうかな」と言うと、隣の秘書に目配せをした。
秘書は一礼すると、手に持っていたファイルの中から一枚の写真を取り出してテーブルの上に置いた。
写真を手に取って見ると、そこには見覚えのある女の子の顔があった。
「有紀ちゃん、君はラブエンジェルズのメンバーの一人だったよね。どうだい、最近は芸能活動も順調みたいじゃないか」といきなり聞かれて面食らった。
「はい、おかげさまで…………」と答えると「実はね、今度のコマーシャルの話が来た時に、君の事も思い出してね。それで君を出演させたいなと思ったんだが、ラブエンジェルズの他のメンバーたちにも聞いてみたんだが、みんな忙しくてなかなかスケジュールが合わないんだよ。それで君にお願いできないだろうかと思ってね」と言われた。
「あの、でもどうして私なんでしょうか」と聞き返した。
「実はね、君にオファーを出す前に、他のアイドルグループのメンバーにも何人か声を掛けてみたんだが、全員に断られたんだ。君くらいの人気があれば、君一人で十分だと向こうが判断したんだろうね。しかし、君一人だけではコマーシャルのインパクトが弱いだろう。そこで君をラブエンジェルズのもう一人のメンバー、つまりエースにしようと決めたんだ。君さえ良ければ引き受けてくれないかね」
「えっと、それはどういうことですか」と私は聞き直した。
「君がラブエンジェルズの一員として頑張っている事は知っているし、人気も上がっているようだから、そろそろアイドルとして脱皮する時だと思うんだ。君がラブエンジェルズを卒業して、ソロ活動をしてくれれば、きっと君もブレイクできると思うんだ。どうかな、やってみないかい」正直に言えば、まさか私がこんなに早くソロデビューをする事になるなんて思ってもいなかったので、とっさに返事が出てこなかった。
「ちょっと考えさせてください。明日また事務所に来させてもらってもいいですか?」と聞くと「ああ、もちろんだ」と快諾してくれたので、今日は一旦帰る事にした。
家に帰る途中でマネージャーに電話をして「今日の話だけど、ちょっと考えてみるね。また連絡します」と言っておいた。
家に帰ってからもしばらく頭が混乱していた。
でも梅印乳業の会長の山口さんがわざわざ私のところまで来て、直接スカウトされたという事実は、ただ事ではないと思えてきた。
私は高校を卒業してから、ずっと地元の短大に通っていた。
本当は東京の大学に進学するつもりで勉強をしていたんだけど、成績が良くなくて結局地元で一番偏差値の高い短大に進学したのだ。
両親からは「本当にやりたい事があるなら、もっと上の大学に行けばいいのに」と言われ続けていたけど、自分の夢にチャレンジするためにも東京で一人暮らしをしながら専門学校に通うつもりだった。
ところが、ある日学校から帰る途中に山口さんに声をかけられて、芸能プロダクションにスカウトされたのだ。
その日は学校の帰り道だったので、その場ですぐに承諾して、後日事務所に行く事になった。
そして数日後にマネージャーと一緒に社長室に行ったら、社長は私を見て「おー、有紀ちゃんか。話は聞いたよ。いやぁ、良かったね。これでやっと大手のプロダクションと仕事をする事ができた。うちみたいな小さな会社では、とてもじゃないけど、そこまでは手が回らないからさ」と言ってくれた。
それからはトントン拍子に話が進んだ。
まずは契約書にサインして、次に写真撮影が行われた。
撮影が終わると、今度は梅印乳業の本社に連れて行かれて、CM製作委員会の会長である山口社長に紹介された。「この度は、我が社の新製品ピュアヨーグルトのCMに出演させて頂く事になりまして誠にありがとうございます」と深々と頭を下げられた。
「いやいや、そんなに畏まらなくても大丈夫だよ。ところで有紀ちゃん。君はラブエンジェルズのメンバーの一人だったよね。どうだい、最近は芸能活動も順調みたいじゃないか」といきなり聞かれたので、一瞬ドキッとしたけれど、「はい、おかげさまで…………」と笑顔で答えた。
すると「実はね、今度のコマーシャルの話が来た時に、君の事も思い出してね。それで君を出演させたいなと思ったんだが、ラブエンジェルズの他のメンバーたちに聞いてみたら、みんな忙しくてなかなかスケジュールが合わないんだよ。そこで君にお願いできないだろうかと思ってね」と言われた。
「あの、でもどうして私なんでしょうか」と聞き返すと、「いや、実は他のアイドルグループのメンバーにも何人か声を掛けてみたんだが、全員に断られたんだ。君くらいの人気があれば、君一人で十分だと向こうが判断したんだろうね。しかし、君一人だけではコマーシャルのインパクトが弱いだろう。そこで君をラブエンジェルズのもう一人のメンバー、つまりエースにしようと決めたんだ」と言われてしまった。
「えっと、それはどういうことですか」ともう一度聞いてみた。
すると「君がラブエンジェルズの一員として頑張っている事は知っているし、人気も上がっているようだから、そろそろアイドルとして脱皮する時だと思うんだ。君がラブエンジェルズを卒業して、ソロ活動をしてくれれば、きっと君もブレイクできると思うんだ。どうかな、やってみないかい」と言われた。
正直言って私はまだ迷っていた。
今までの私は、ラブエンジェルズのみんなと一緒に歌を歌ったり、踊ったり、テレビに出たりする事が何よりも大好きだった。
でもそれはあくまでもファンの人たちが求めてくれて、応援してくれるからこそできたことだった。
だから、ラブエンジェルズ以外の仕事がしたいという気持ちも少なからずあった。
私は悩んだ末、山口さんの申し出を受ける事にした。
「あの、もしよろしければ、ぜひ引き受けたいと思います」と言うと、山口さんは「おお、そうか。それは良かった。じゃあ早速だけど本題に入らせて貰おうかな」と言った後、「有紀ちゃん。君、ソロでやってみないかい。ラブエンジェルズを卒業して、ソロ活動をやって欲しいんだ」と突然言われて面食らった。
「えっと、それはどういうことですか?」と聞き返した。
「いや、実はね、CMの製作委員会が立ち上がったのは、君にオファーを出す前なんだ。というのも、ここだけの話だけど、最初はアイドルの卵として売り出していた有紀ちゃんに、アイドル路線のままで仕事をさせてみようと考えていたんだ。ところが、いざCM製作委員会を立ち上げたら、大手のプロダクションからも、うちみたいな小さなところからも声がかかるようになってね。このまま順調にいけば、間違いなく有紀ちゃんはトップクラスのアイドルになるだろうと予想しているわけだ。ただ問題はCMの出来栄え次第ということになってくるんだけど、これがまた難しいんだよ。何しろ、アイドルの女の子を使うとなると、どうしても可愛い子を使ってしまいがちで、それだけで終わっちゃうような気がしてね。それで、急遽方針を変えようという事になったんだ」
「あの、ちょっと待ってください。話が全然見えないんですけど」
「いや、実はね。ラブエンジェルズが解散して、君がソロで活動を始める事になれば、必然的に有紀ちゃんが一番輝いていた時期の映像を使わせてもらえるんじゃないかと考えてね。いや、これはもう確信に近いね。だから、それならいっそのこと、うちの会社の商品の一番の売りであるヨーグルトのCMに、有紀ちゃんを出演させたらどうだろうかと、そういう話になったんだ」
「えっ、でも私、まだデビューしてそんなに経ってないし、それに他のアイドルグループのメンバーとの掛け持ちだし…………」
「いや、大丈夫だよ。むしろこっちからお願いしたいくらいだ。実はね、うちのヨーグルトのCMに出ているタレントの中でも、有紀ちゃんほどインパクトのある子は他にいないんだよ。しかも、君はリーダー的な存在だったし、ダンスだってうまいじゃないか」
「あの、でも…………」
「もちろん、君が嫌だというならば無理強いはできないけど、一度考えてみてくれないかい」「あの、もう一度考えさせてください」と返事をして電話を切った。
それからしばらく考えた結果、山口社長の言う通りかもしれないと思った。
確かに私はリーダー的存在だったし、みんなを引っ張っていく役目も担っていた。
でも、それは他のメンバーが頼りなかったからではなくて、私がみんなの事を信頼していたからだ。
他のメンバーは私の指示に従ってくれていただけで、本当の意味で仲間になれたとは思っていない。
みんなが私についてきてくれたのではなくて、私の方がみんなを信頼していたのだ。
でも、ラブエンジェルズの時は、みんなは私の指示に黙々と従ってくれた。
でも、それはみんなにとって「仕事」であり、私にとっては「夢」だった。
でも、ソロで活動する場合は、自分でやりたいようにやれる。
つまり、自分が主役になれる。
私は、山口さんの言った通り、私の中の何かが変わっていたのだと思う。
そして、自分自身で決めた道を歩きたいと心の底から思った。
「あの、すみませんが、もう一度お話を聞かせてもらってもいいでしょうか」
そう切り出すと、マネージャーは「いいですよ」と言って話を続けた。
「えっとですね、CMに出るという事は、梅印乳業と専属契約を結ぶ事になるんですよ。それで、今度発売される新製品のイメージキャラクターとして出るわけですから、当然CMに出れば、商品名とか会社名なんかもテレビや雑誌に載りますよね。そうなると、今までみたいに学校に行ったり、レッスンをしたりできなくなると思うんです」
「まぁ、それは仕方がないでしょうね。でも、別に普通の女子高生と同じように学校に通っても、レッスンをしなくてもいいんじゃないですか? 例えば、週に二回くらいのレッスンに通うとかすれば、仕事に支障はないと思いますよ」「それはそうなんですが、やっぱり今までと同じ生活リズムではやっていけないと思うんですよ。だから、もし仕事を始める前に、その辺りの事についてもきちんと決めておきたいと思って、今日は伺ったわけなんです」
「なるほどね。じゃあ、そういう事なら、僕が責任を持って担当させていただきましょう。それで、具体的にどんな仕事をするのか決まっているんでしょうか」
「はい、それはCM撮影の時に監督さんと相談しながら決めることになりそうなので、まだ何も決まってないんですけど、CMの内容は、ヨーグルトの『食べる瞬間』という事で、口に入れるところがメインになるような気がします。あとは、パッケージの見栄えも大切になりそうだし…………。それに、CMはロングバージョンもあるみたいなので、ちょっと変わった事もやるかもしれませんね。ちなみに、このコマーシャルのコンセプトは、〈新しい自分に、出会いたい〉っていう感じらしいですよ」
「それはまた、ずいぶんと大層なものになりましたね。でも、コンセプトさえはっきりしていれば、後はこちらの方で進めていけると思います。とりあえずは、来週の月曜日に、うちの社長と一緒に打ち合わせに行きましょう。そこで、具体的な内容を決めていきたいと思いますので、よろしくお願いします」「はい、わかりました」
こうして、私は山口さんの申し出を受ける事にした。
山口さんは、「それなら早速だけど本題に入らせて貰おうかな」と言った後、「有紀ちゃん。君、ソロで活動しないか」と突然言われて面食らった。
「あのね、CMの製作委員会が立ち上がったのは、君にオファーを出す前なんだ。というのも、ここだけの話だけど、最初はアイドルの卵として売り出していた有紀ちゃんに、アイドル路線のままで仕事をさせてみようと考えていたんだ。ところが、いざCM製作委員会を立ち上げたら、大手のプロダクションからも、うちみたいな小さなところからも声がかかるようになってね。このまま順調にいけば、間違いなく有紀ちゃんはトップクラスのアイドルになるだろうと予想しているわけだ。ただ問題はCMの出来次第ということになってくるんだけど、これがまた難しいんだよ。何しろ、アイドルの女の子を使うとなると、どうしても可愛い子を使ってしまいがちで、それだけで終わっちゃうような気がしてね。それで、急遽方針を変えようという事になったんだ」「あの、ちょっと待ってください。話が全然見えないんですけど」
私は、山口さんの言っている事が理解できなかった。
「えっ、知らないの?」
山口さんは、少し驚いた様子だった。
「何をですか」
「有紀ちゃんがブレイクした理由だよ。まぁ、あれだけ可愛ければ当然かもしれないけれど、君はダンスもうまいじゃないか。あのね、君ほどインパクトのある子は他にいないんだよ。しかも、リーダー的存在だったし、みんなを引っ張っていく役目も担っていた。他のメンバーは頼りなかったから、君がみんなの事を信頼していたからだ。他のメンバーは君の指示に従っていただけだ。でも、ラブエンジェルズの時は、みんなが君についてきた。いや、君を崇拝していたというべきかな」「そんなことないですよ」
私は、ついムキになってしまった。
「いやいや、あるよ」
山口さんは、私の意見を一蹴すると話を続けた。
「確かに、今はそう思っていても仕方がない状況だと思う。だから、これから先、どんどん成長していく可能性はあると思うんだ。それに、君が今まで経験してきた事は決して無駄にはならないはずだ。例えば、芸能界に入っていなければ、今頃は大学生だったろう。そうすれば、今よりももっと大人になっていたはず。今だって、高校生にしては大人びている方だし、将来は女優やタレントとして成功する可能性だって充分にある。いや、きっと成功するだろう。まぁ、こんな事は言わなくてもわかっていると思うけどね」
「いえ、私は別に…………」
私は、否定の言葉を口にしようとしたが、山口さんは私の言葉を遮るように話を続けた。
「でもね、もし今のままの環境にいたとしたら、君はまだ中学生かせいぜい高校一年生くらいの年齢だと思うよ。つまり、君が一番輝いている時期なわけだ。でも、今の君には一番大切なものがないよね。それは、夢さ。もちろん、仕事は大事だとは思うよ。だけど、本当に大事なものは仕事にはないんじゃないかと思うんだ。どうだい、今までの人生で一番楽しかった事を思い浮かべてみてくれないかい。そして、その楽しい事があった時、いつもそばに誰かがいたんじゃない? 例えば、友達とか家族とかね」
山口さんは、私が何か言うのを待っていたみたいだったが、何も言わなかったので話を先に進めた。
「僕が言いたいのは、仕事が全てではないという事なんだ。それは、わかるかな。仕事を頑張りながら、同時に、自分の人生も楽しんでほしいと思っているわけだ。これは、僕の個人的な意見でもあるし、社長の考えも同じだと思うけどね。とにかく、僕は有紀ちゃんの事を応援したいんだよ」
「ありがとうございます」
私は、頭を下げた。
「じゃあ、話は決まったね。来週の月曜日、梅印乳業に行ってCMの内容を決めていこう。それじゃあ、今日はこれで終わりにするね」
こうして、山口さんの事務所を出て一人になると、「よかったじゃん」と声をかけた。
「何が?」
私は、真顔で聞き返した。
「決まってるじゃない。ソロで活動するって事でしょ。よかったじゃない。これで、もう学校に行かなくてすむようになるんでしょう」
「うーん、そうだね」
私は、曖昧な返事をした。
「それとも、まだ他にもやりたい事があるの」
「うん」
「何?」
「それが、ちょっと言えないんだけどね」
「ふーん。まぁ、いいけどね。でも、これだけは言えるわよ。有紀ちゃんの事を見ている人は沢山いるの。だから、自信を持って頑張ってね。私も、陰ながら応援しているからね。それと、たまには、こうやってお姉さんに会いに来てね。約束だよ。指切りげんまんしよう」
有紀は、小指を差し出した。
「わかった。約束する」
有紀は、笑顔で答えた。
「よしっ、指切った。絶対だからね。嘘ついたら、針千本飲ますんだぞ。わかった」
有紀は、何度も念を押していた。
「わかったってば」
私は、苦笑いしながら言った。
それから数日後、私は山口さんの事務所を訪ねる事にした。もちろん、ソロでのデビューが決まった事を報告するためだった。
「やぁ、有紀ちゃん。久しぶり」
山口さんは、私の顔を見るなり手を振った。
「ご無沙汰してました」
「元気だったかい」
「はい、おかげさまで」「そりゃ良かった。ところで、CMの話は進んでいるのかな」
「実は、その件なんですけど…………」
私は、今日ここへ来た目的を話した。
「なるほどね。まぁ、今のままじゃ無理もないよね。でも、心配しなくても大丈夫だよ。あの会社なら、きっと良いアイデアを出してくれるはずだから」
「はい、よろしくお願いします」
私は、深々と頭を下げた。
「それで、いつ撮影をするんだい」
「そうですね。一応、夏の終わり頃になると思います」「そうか。じゃあ、それまでに準備をしておかないとだね。それにしても、有紀ちゃんがデビューする日が来るなんて信じられないな。この前会った時は、アイドルなんかに興味はないって言っていたのに」
「いえ、そんな事言ってませんでしたよ。ただ、芸能界に入るつもりはなかっただけです。CMに出るのだって嫌だったんですよ。でも、山口さんのおかげで決心がついたんです。本当に、ありがとうございます」
「いやいや、僕は何もしていないけどね」
その時、ドアをノックする音が聞こえてきた。
「どうぞ」
山口さんが声をかけると、一人の女性が部屋に入ってきた。
「失礼いたします。本日のスケジュールについてなんですが…………」
女性は、私の存在には気付いていないようだった。
「あ、すいません。彼女は、今ちょっと外しておりまして、後程連絡させますので、こちらの方にサインを頂けますでしょうか」
山口さんは、女性に名刺を渡しながら説明をしていた。
「わかりました」
女性は、名刺を受け取ると、部屋を出て行った。
「彼女、マネージャーの高橋君ね。有紀ちゃんとは、長い付き合いなんだ。僕の事務所では、一番の古株さ。有紀ちゃんのデビューが決まった時も、彼女が一生懸命になってくれたんだよ」
「そうなんですね」
「じゃあ、そろそろ行こうかな。また、いつでも遊びに来てね」「はい」
私は、もう一度頭を下げた。
「じゃあね」
山口さんは、軽く手を振ると、部屋から出て行った。
私は、一人になった。
その後、私は梅印乳業の本社へと足を運んだ。CMの内容を決めるためだったが、それは口実にすぎなかった。本当の目的は、社長に会う事にあったのだ。
私は、受付で用件を伝えて名前を名乗った。
「梅印乳業の社長さんですか?」
若い男性の秘書は、少し驚いた様子だった。
「はい」
私は、素直に答えた。
「少々お待ち下さい」
秘書は、内線電話のような物を取り、どこかへ電話をかけ始めた。
「はい、秘書室です…………。えっ? はぁ、そうですね」
相手と話しているうちに、私の方を見て、何か言いたげな表情を浮かべていた。
「はい、わかりました。お繋ぎ致しますので、しばらくお待ち下さい」
秘書は、受話器を置くと、私に向かって言った。
「お待たせしました。社長の中村とおっしゃる方が、直接お会いしたいと言っております。いかがいたしましょうか」「はい」
「では、こちらの方へお越しください」
私は、秘書の後に続いてエレベーターに乗った。そして、最上階のフロアにある応接室に案内された。
「ごゆっくりおくつろぎ下さい」
秘書は、一礼すると、部屋から出て行った。
私は、ソファーに腰を下ろして、落ち着かない気持ちのまま部屋を見回していた。
豪華な調度品の数々。いかにも、一流企業の社長に相応しい雰囲気が漂っている。
しばらくして、部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。
「どうぞ」
私は、ゆっくりと立ち上がった。
「失礼します」
中年の男性が、姿を現した。
「はじめまして。私は、梅印乳業の社長を務めております、中村と申します」
男性は、自己紹介をしながら頭を下げた。
「はじめまして。CMディレクターをしております、有紀といいます。このたびは、突然のお願いにもかかわらず、ご親切にお引き受けいただき、ありがとうございます」
「いえ、とんでもない。この業界では、とても有名なあなたに、うちの商品のイメージアップに協力してもらえるのであれば、願ってもない事ですよ」
「そんな、有名だなんて」
「いやいや、謙遜する必要などありませんよ。実は、今回、CM制作の依頼をしたのは、うちだけではないのです。他のプロダクションからも、かなりの数のCM制作の申し込みがあったんですよ。しかし、あなたのCMが一番評判が良かったものですから、こうしてお願いに来たというわけなんです」
「そうだったんですか。でも、正直なところ、私なんかに務まるかどうか不安なんですけど」
「いやいや、そんな事は心配する必要はないでしょう。まぁ、私が保証しますよ」
「ありがとうございます」
私は、深々と頭を下げた。
「それで、早速本題に入りたいと思います」
社長は、真剣な面持ちになると、話し始めた。
「先ず、今回のCMのコンセプトは、『あなたと一緒に』ということです。あなたが、日常の生活の中で、牛乳を飲んでいるシーンを撮影したいと考えています。もちろん、普通の日常生活のワンシーンを撮れば良いというものではありません。その時々の感情が、自然体で表現されている事が重要だと考えているんです。それから、もう一つ。これは、最も重要な点なのですが、やはり、一番重要なのは、あなた自身の魅力を最大限に引き出す事です。そのためには、できるだけ多くの時間を使って撮影する必要があると考えました。そこで、何日かに一度の割合で撮影を行う事にしようと思っているんですよ。どうでしょうか?」
「そうですね。それが、一番自然な流れかもしれませんね」
「それと、もう一つのプランとして、複数のバージョンを用意しようと思っています。つまり、いくつかのパターンのCMを作ってしまおうと考えているんです」
「えっ、それは、どういうことなんですか?」
私は、驚いて聞き返した。
「つまり、最初のCMが完成したら、それを基にして、さらに新しいCMを作ろうとしているんですよ」
社長は、得意げに説明をした。
「なるほど。そういうことだったんですね」
「じゃあ、OKしてくれるのかな」
社長の顔は、期待で満ち溢れていた。
「はい。私は、それで構いません。ただ、一つ条件があるんです」「条件? どんな条件ですか」
「はい。私は、普段、仕事場と自宅とを行ったり来たりしているだけで、ほとんど外出しないので、あまり、友達がいないんですよ。だから、もし、私の私生活を撮影するようなことになった場合、その撮影は、できれば、ご家族の方の許可を取って行ってもらいたいんです」
「なるほど。わかりました」
社長は、一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに納得した様子だった。
「じゃあ、契約内容について、細かい点を詰めていきましょう」
私は、契約書のコピーを受け取りながら言った。
「まず最初に、CM製作費用の概算なんですが…………」
社長は、机の上に電卓のようなものを取り出して数字を打ち込んだ。
「ざっと、こんな感じになっています」
私は、提示された金額を見て、思わず声を上げた。
「すごい!思ったよりも安いじゃないですか」
「ははははは。まぁ、うちとしては、それだけの自信を持っているという事ですよ」
「でも、これだけのお金をかけるとしたら、かなりの期間の撮影になると思うんですけど、大丈夫なんですか?」
「いや、それは、全く問題ありません。CM制作は、通常、1年がかりで行うものなんですよ。もっとも、今回は、スピード勝負になりますが」
「そうなんですか」
「まぁ、とにかく、細かい点は、後日担当者がお伺いしまして、打ち合わせさせていただきます」
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