夢十夜 拾

文字数 683文字

 思い出したくて思い出せることなど、そうそうあるものではない。
 忘れたくて忘れられないことなら、溢れ返るほどあるというのに。
「それで? こんなことをして、一体何が分かる?」
 問いながらも、私は気づいていた。気づきながらも、私は分からないふりをしていた。
 答えを待つ。
「夢は」
 聞きたくもない答えが返ってくる。
「夢は過去を綴る。夢は憂いを語る。夢は罪を告白する。夢は心を代弁する」
 素っ気ないほど冷静に、事実を淡々と述べるような語り口。無論、事実なのだろう。真実ではないかもしれないが。
「あなたが何を誤ったのか。あなたが何処で間違えたのか。あなたが何故見逃したのか。あなたがいつ失敗したのか。あなたが誰と重ならなかったのか。あなたがどれくらいずれていたのか。あなたがどのように誤魔化してきたのか」
 何を求めたのか。何処で見つけたのか。何故振り払ったのか。いつ始まったのか。誰を怖れたのか。どれくらい無くしたのか。どのように騙ってきたのか。
「すべてがすべて、とは言わない。しかし、たとえ一つでも感じたことがあるのなら。たとえ僅かでも共鳴したものがあるというのなら。それがすなわち――」
 聞きたくなかった。知りたくなかった。分かりたくなかった。気づきたくなかった。
「あなたの過ちだ」
 思い出せなかった。忘れていたかった。思い出したくなかった。忘れられなかった。
 だけど、もう。
「さて。話はここまで」
 振り返り去っていく後ろ姿に込められた感情が、哀れみならいい、と思った。
 開いたドアの隙間から、夜が明けていく。
「今の気分は?」
「まるで悪夢から醒めたようだ」


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