第1話 ヘルゴラント島
文字数 995文字
「
Lange Annaと呼ばれる奇岩 by robbe
若き物理学者、ヴェルナー・ハイゼンベルクは、ひどい花粉症にかかっていた。
そこで空気のよい、北海に浮かぶ島、ドイツのヘルゴラント島に行くことにした。
ハイゼンベルクは夜行列車に乗って、ドイツの北海岸へ向かった。顔は赤く腫れ上がっていて、翌朝、朝食をとるために立ち寄った宿の女主人は、この人は誰かに殴られたと思ったほどひどかった。
そこからフェリーに乗って、北海に浮かぶヘルゴラント島へ行った。ここは第一次大戦中は軍の前哨基地だったが、このときは保養地になっていて、きれいな海と澄んだ空気、日常から離れることを求めて、たくさんの人が訪れていた。今もドイツ人に人気の観光地だ。
ヘルゴラント島でハイゼンベルクが相手にしたのは、人ではなくて、小石と海、ゲーテの本、そして何より彼の物理学だった。
ハイゼンベルクは、古典論の運動学および力学の関係を、量子論的に解釈した。ゲッチンゲン大学のマックス・ボルンは、その式が
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ヘルゴラントの宿屋でハイゼンベルクは、この新しい掛け算の規則を対応する古典的表現に当てはめた。すると、量子定常状態(量子力学で、ある体系のエネルギーが一定に保たれている状態)を導くことができた。
それから急いで必要なエネルギーを計算し、翌朝までに、知られている観測値と一致する結果が得られた。
これを批判精神が旺盛な同僚のウォルフガング・パウリに告げた頃には、ハイゼンベルクの花粉症は治っていた。
この結果をまとめた論文『運動学的・力学的関係の量子論的再解釈について』は、1925年9月号に15ページにわたる記事として発表された。ハイゼンベルクは23歳であった。
ハイゼンベルクの論文は「行列力学」と呼ばれ、ニュートンとマックスウェルの古典力学に代わる、原子とその相互作用についての新しい物理学の一つの定式化だった。
これは、研究仲間によって、続く数か月間に、新しい物理学として成熟した。