第14話  矜持②

文字数 7,411文字

 翌朝。
 木戸が開く音で蒼葉は目を覚ました。
「よう、ちゃんと眠れたか?」
 声の主が悪斬り偽善だと気付くのに少しかかった。
 ぼんやりとした意識の中、蒼葉は身体を起こし、玄関の方を見る。
「ほれ、朝飯だ」
 突然、偽善が手に持っていた包みをこちらへ放り投げてきた。
「わっ……!」
 飛んできた包みを、とっさに受け止める。おかげで一気に目が覚めた。
 包みの中は握り飯だろう。蒼葉はそれを脇に置き、布団から出ようとしたところで、自分が襦袢(じゅばん)しか身に付けていないことに気付いた。
「ぁ……」
「どうした?」
「あ、あっち向いてて!」
「ん? ああ」
 察してくれたのか、偽善はこちらに背を向けた。
 蒼葉は布団から出ると、まずは小袖を着て、それから袴に足を通す。
 朝の空気がチクチクと冷たい。布団に入っていた時の温もりが急速に失われていく。
「それで、下調べはどうだったの? 何か収穫はあった?」
「まあ、いろいろあったよ」
 偽善は背を向けたまま答えた。
「いろいろって?」
「お前の先生に会った」
「え、倉井先生に?」
 驚いて結びかけの腰紐がばらけてしまった。慌てて最初から結び直す。
「ああ、お前のこと心配してたぞ。無茶すっから」
「う……」
 返す言葉もない。後でしっかり謝っておかなければ。
「それで、先生に会ってどうしたの? まさか斬り合いになんて……」
「なってねえよ。そんなことして一番喜ぶのは豪堂だ。先生が上意討ちの命を受けてるのは知ってんだろ?」
「うん」
「俺の狙いも豪堂だ。だから共闘することになった」
「そっか、先生が……」
 先生にとっても偽善は師の仇だ。会えば斬り合いになるのではないかと心配していたが、杞憂だったようだ。
「それで、いつやるの?」
「今夜だ。それまで休んでおく。お前もここにいな」
「うん。……あ、もうこっち向いていいよ」
 ようやく袴の紐を結び終えた蒼葉は、羽織を手にしながら声をかけた。
 向き直った偽善は座敷へ上がり、真っ先に布団の中に手を入れた。
「お、まだ暖かい」
「ちょ、ちょっと!」
「何だよ? 別にいいだろ、俺の布団なんだし」
「そうだけど……」
 さっきまで自分が入っていた布団で、そういうことをされるのは気恥ずかしかった。
「なあ、火つけてくれよ」
「あ、うん」
 思えば、偽善はこの寒い中ずっと外にいたのだ。身体だって冷えきっているだろうに。
 自分が勝手なことばかり言っているのに気付き、素直に返事をした。
 それから、二人で握り飯を食べた後――
「じゃ、俺は寝るから」
 偽善は、外で汚れた羽織袴から寝間着代わりの着流しに替えて、いそいそと布団に入っていった。腰まで届くほどの長髪を後頭部で結んだまま、横向きで寝る。常在戦場を旨とした昔の武士のように、寝返りは打たない癖が付いているようだ。刀は大小二本とも布団のすぐ横に置いてある。
「いつまで寝るの?」
「昼過ぎまで」
「そう」
 蒼葉は偽善が脱ぎ捨てた羽織袴を手に取った。
「おい、それどうすんだ?」
「暇だから洗濯する」
「そりゃあ助かる」
「私だけ何もしないわけにはいかないから」
「真面目なんだな」
「先生ほどじゃないけどね」
 偽善は苦笑した。
「ああ、お前の先生は天下一と言ってもいいくらい真面目な男だったな。今時めずらしい本物の武士だよ、ありゃあ」
 蒼葉は無言で偽善に背を向け、嬉しそうに笑った。
 それから昼過ぎまでの間、蒼葉は家事に勤しんだ。
 沢へ下りて水汲みと洗濯をし、洗濯物を干した後は山菜を摘みに行く。
 小屋に戻ったら、偽善が起きてくる頃を見計らって食事の準備にかかる。備蓄してあった米を使い、寝起きの空き腹に優しい山菜入りの粥を炊いた。
「手慣れたもんだな」
 不意に、座敷の方から声がかかった。
 偽善が上体を起こし、こちらを見ていた。
「いつもやってるから」
 蒼葉は淡々と答えた。
「なるほどな」
 偽善は布団から出て、土間へ下りる。
「ちゃんと女として生きていけるよう仕込まれてるわけだ」
「え……」
 蒼葉はぽかんと口を開き、釜戸の前にしゃがんだまま固まった。
「もしかして、今気付いたのか?」
 偽善の言うとおり、そこまで考えたことはなかった。先生にお世話になる上で当然のこととして家事を覚え、こなしてきただけだ。
 言われてみれば、今の自分は男と女の両方の生き方をしている。
 剣を振り、書物を読む一方で、炊事、洗濯、裁縫などの家事もできるのだ。
 それも先生の言いつけどおりにしてきたおかげである。
「まあ、あれだ。自分の知らないところで世の中がいろいろ動いてて、ヤキモキすんのはわかるが、もうちょっと落ち着け。大人になれば嫌でもわかってくるさ」
 後ろからポンと肩を叩かれる。
 粥が、そろそろ炊き上がる頃だった。


 山菜粥に香の物を添えただけの簡素な食事が済む。
 蒼葉は食器を下げた後、話を切り出した。
「ねえ、今夜行くんでしょ? 私も連れていってくれる?」
「なに言ってんだ。ダメに決まってるだろう」
 偽善は即座に否定した。
「夕方になったら山を下りて家まで送ってやる。そこで帰りを待ってな」
 たぶん、そう言われるだろうとは思っていた。
 だが、蒼葉には蒼葉の矜持がある。
「先生が命を懸けて戦うのに、私だけ家でじっとしてるなんてできない。せめて怪我をした時すぐに手当てができるよう近くで待ってる。それくらいはいいでしょ?」
「ったく……」
 偽善は苦々しい表情をした。
「なんだってお前は進んで危ないところへ行きたがるんだ。俺と先生がやられたら、次はお前が狙われるかもしれないんだぞ」
「先生がやられたら、私もう生きてても仕方ないからそれでもいい。とにかく、少しでも力になりたいの」
 蒼葉は引き下がらない。偽善の鋭い視線から、決して目を離さなかった。
「覚悟はできてるってわけか」
「私も剣術家の端くれだから」
 やがて、偽善は呆れるように大きくため息を付いた。
「わかったよ。ただし、先生がダメって言っても俺は知らねえからな。自分で説得しろよ」
「うん」
「……うんって、できんのか?」
「大丈夫。はじめは反対するだろうけど、最後にはきっとわかってくれるよ。先生は人の気持ちを何より大事にする人だから」
「気持ちね……」
「そう」
 人間は、ただ生きていればよいというものではない。時として、命より気持ちを優先しなければならないこともある。
 そう教えてくれたのは他ならぬ先生なのだ。


 春の暖かい陽気のおかげですっかり乾いた洗濯物を取り込み、小屋の中と周辺の掃除を済ませても、夕方までまだ時間があった。
 蒼葉は、すぐ近くの原っぱで真剣の素振りをする偽善に尋ねる。
「稽古は、いつも一人なの?」
「そりゃそうだ」
 偽善は素振りを続けたまま、チラリとこちらを見てきた。
「素振りの他にどんな稽古をするの?」
「想像の相手と戦う」
「それは、型稽古のこと?」
 剣術における〝型〟とは特定の技を順に繰り出す稽古だ。その際、目の前に戦う相手がいることを想定して行う。
 蒼葉が毎朝やっている少年との真剣勝負は型稽古の延長である。
 偽善も同じことをやっているのかと思い、尋ねてみたのだが、
「いいや、型とは違う。実際に戦う」
 はっきり否定された。
「じゃあ、想像の相手が勝手に動くとでもいうの?」
「そうだ」
 理解し難い話だ。でも、それを疑うより気になることがある。
「その稽古で、強くなれるの?」
「まず無理だろうな。俺みたいに命のやり取りを何度もすれば別だが」
「命の……」
 蒼葉は父が斬られた時のことをまた思い出した。
 目の前にいる男は、あれを何十回も繰り返してきたのだ。
 偽善は太刀を振るのをやめ、こちらを向いた。
「はじめのうちは無我夢中で、自分がどうやって相手を斬ったのかもわからなかった。だが、実戦を繰り返すうちに、だんだんと相手のことが見えるようになってきたんだ。さらに繰り返すうちに、今度は相手のことが想像できるようになってきた。相手の動きだけでなく、息遣いや気迫といったものまでな。真剣勝負は命と命のぶつけ合いだ。それを経験しない限り、想像だけの稽古じゃ強くはなれねえ。けどな……」
 ひと呼吸置く。
「お前の親父さんのことだけは、なぜかよく覚えてるんだ。はじめての真剣勝負、それも格上の相手だってのに、あの時のことは一挙手一投足まで記憶に残ってる。なんでだろうな?」
「そんなの、私にわかるわけないでしょう。私には、どうして父上とあなたが戦ったのかすらわからないんだから」
「そうだな……」
 それから、偽善は唐突に言う。
「よし、これからお前に稽古をつけてやる」
「え、私に?」
「炊事とか洗濯とか、いろいろやってくれた礼だ。それに俺だって、たまには人と稽古したいしな」
 蒼葉も剣術家として偽善の剣技には興味があった。道場剣法とは違う実戦剣法。
 断る理由はない。
「わかった。でも、どうやって稽古するの? ここに竹刀はないでしょう」
「ちょっと待ってな」
 偽善は一度小屋に戻り、どこで手に入れたのか黒ずんだ木刀を持ってきた。
「こいつを使って好きなように打ち込んできな」
「そっちの武器は?」
 見たところ木刀は一本しかない。よもや真剣を使うわけではあるまい。
「ん、これでいいや」
 偽善はその辺に落ちていた小枝を拾った。長さは木刀の半分ほどしかない、本気で打ち込めば簡単に折れてしまいそうな細い小枝だ。
 蒼葉は木刀を正眼に構える。
「言っておくけど、そんなんで怪我しても知らないから」
「ハハッ、そん時はお前が豪堂を斬ってくれ。俺に怪我させられるんなら、まず問題ない」
 偽善も半身になり、小枝を正面に構えた。
(馬鹿にして!)
 そう思って前進しようとした時、 蒼葉は強烈な既視感に襲われた。
「どうした?」
 偽善は全く動いていない。
 しかし、蒼葉にはわかった。これはいつも稽古で味わっている感覚。どこをどう打ち込んでも返されてしまう――倉井先生と対峙している時の感覚だった。
「来ないんならこっちから行くぞ。まずは面だ」
 面を打つと言って本当に面を打つ愚か者はいない。
 身長差があって胴は遠いから小手だ、と思った瞬間、脳天に軽い痛みが走った。
「お面いただきぃ」
 ほんの一瞬、手元に気を向けただけで、面を打たれていた。
(は、速い。でも、今のは……)
 蒼葉は口を尖らせ抗議する。
「ずるい! 騙し打ちなんて」
「どこがだよ? 言ったとおり打っただけだろう」
「でも、あんなこと言われたら誰だって……」
「そりゃあ、お前の思い込みだ。そもそも実戦じゃ〝ずるい〟なんて通用しない。斬ったもん勝ちよ」
 そうだった。これが真剣勝負なら自分は斬られていたのだ。
 死人に口なし。負けは負け。
 蒼葉は抗議をやめ、再び正眼に構えた。
「それでいい。戦いの最中に余計なことは考えるもんじゃねえ」
 偽善も構える。
 どう足掻こうと、今の自分が偽善に敵わないことはわかっている。上手くやろうなどと考える必要はない。ただ全力で打ち込むのみ。
 蒼葉は、自分の得物から最も近い位置にある小手を狙う。
「ヤアァッ!」
 小手は空を切る。が、それは予測済み。
 続けざま蒼葉は身を沈め、(すね)を打ちにいった。
「おっと!」
 偽善は片足を上げて、これを外した。
 追撃はせず、蒼葉は素早く後退する。
 間を外された偽善は振り下ろそうとした腕を止めた。
「やるな。雲月流には脛払いもあるのか」
 蒼葉は再び正眼。再び小手狙い。
 と見せかけて、胴を突きにいった。
「うお!」
 これも避けられる。
 蒼葉は反撃される前に間合いの外へ離脱した。
「なんだ、思ったよりできるじゃねえか。それじゃ、ほんのちょっとだけ本気でいかせてもらおうかな」
 ならばこちらも一番の得意技でいく。狙うは返し技だ。
 徐々に間合いが縮まる。
 蒼葉と偽善の身長差は一尺(約三十センチ)ほどもあるが、得物の長さもそれくらい違うので、間合いの不利はない。
 間もなく一足一刀の間合いに入る。
 ――と思った瞬間、脳天に軽い痛みが走った。
「え……?」
「お面あり、だな」
 気が付けば面を打たれていた。
 偽善の打ち込みに合わせて返し技を打つつもりが、反応すらできなかった。
 上段からの打ち込みを避ける稽古を、あれほど積んだのに……。
「今、何をしたの?」
「ただ速く打ち込んだだけさ」
 簡単に言うが、真正面から反応できないほどの速さで打ち込むなど尋常ではない。偽善の体格からは想像もできない、とてつもない敏捷性だ。
 これが、すべての敵を一刀のもとに斬り伏せてきたという悪斬り偽善の力。
 蒼葉が想像していた六年前の少年とは、格が違う。
「そろそろ時間だな。ここまでにしとこうか」
 偽善は小枝をその辺にポイッと捨てた。
「なかなかいい稽古だった。ありがとな」
「あ、うん」
 蒼葉は呆然としたまま、木刀を下ろした。


 赤々と照らされた山の斜面を、二人で下る。
 それから城下へと至る街道を歩き、家に戻った頃には空がだいぶ暗くなっていた。
「先生、ただいま戻りました」
 あいさつの後、蒼葉は深く頭を下げた。
「勝手なことをして申し訳ございませんでした。私、六年前に何があったのか、どうしても知りたくて……」
「いいんだ、蒼葉」
 先生は優しく応えてくれた。
「私の方こそ、自分のことばかりでお前の気持ちに気付いてやれなかった。許してくれ」
 偽善が蒼葉の肩をポンと叩いた。
「よかったな、お咎めなしで。あとは、あのお願いが聞いてもらえるかどうかだな」
「なんの話だ?」
 先生の問いに、蒼葉はキリッと表情を引き締めて答える。
「先生が戦う時、私もお力になりたいんです。もちろん、戦いに手出しはいたしません。ただ、先生がお怪我をした時すぐに手当てができるよう、近くまでお供をさせていただけないでしょうか?」
 先生は複雑そうな表情で考え込んだ。
 そこへ、偽善が口を挟む。
「さっき一緒に稽古したんだが、蒼葉の腕前もなかなかのもんだった。いざという時、自分で自分の身を守るくらいはできるだろう。それに、あんたがやられれば蒼葉は一人ぼっちだ。生き残る確率は少しでも上げておいた方がいいと思うぞ」
 自分で説得しろと言っておきながら、こうやって後押しをしてくれる。
 偽善は、やっぱり優しい人だ。
「ふむ……」
 しばらく黙考した後、先生は決心したように答えた。
「わかった。ではこの後、屋敷町の神社で密偵と落ち合うことになっているから、そこまで一緒に付いてきなさい」
「はい!」
「それから、もしもの時に脇差では心許ないだろう。後で私の小太刀を貸すから、それを差していくといい」
 小太刀は脇差と大刀の中間の長さで、小柄な蒼葉にはちょうど扱いやすい。
「ありがとうございます」
 蒼葉はもう一度深く頭を下げた。


 三人で夕餉をとった後、夜が更けるのを待ち、家を発つ。
 蒼葉は先生から借り受けた小太刀を腰に差し、傷洗いの焼酎と携帯用の薬箱を持った。
 なるべく目立たぬよう提灯は持たず、月灯りだけを頼りに目的地へと進む。
 今宵は満月。夜目を鍛えた者であれば、灯火がなくとも充分に戦える明るさだ。
 屋敷町の外れにある神社に着くと、木陰から何者かが現れた。
 暗闇に溶け込むような漆黒の衣装を纏った男。領主の配下である密偵だ。
「倉井殿、偽善殿、お待ちしておりました」
「屋敷の様子はどうだ?」
 先生が聞いた。
「昨晩と変わりありません。正門に四名、裏門に二名、周囲を巡回する兵が二名です。屋敷内の灯りはすでに消えております。おそらく、今頃は寝静まった頃合いではないかと」
 密偵が豪堂邸の見取り図を開き、先生と偽善に見せる。
「この図によりますと、裏門の方が豪堂の寝室に近く、兵も手薄です。ですが、それを見越して屋敷内には手練(てだれ)を配置している可能性が高いと思われます」
「だろうな」
 偽善が同意する。
「では、正門から堂々と乗り込むか?」
 鋭い目線を向ける先生に対し、偽善は不敵な笑みで返した。
「ま、その方が俺の性に合ってるわな。俺が先に乗り込んで正門の方に兵を引き付けるから、その隙に先生が裏門から侵入して豪堂を斬る――ってのはどうよ?」
 偽善はともかく、倉井先生が攻めてくることを敵は知らない。偽善が正門に現れたとなれば、兵のほとんどはそこへ向かうだろう。
「策としては悪くないが、それではお主が危険過ぎる。中に何人いるのかわからないのだぞ」
「何人いたって一斉に斬り込めるわけじゃねえ。あんたが豪堂を斬ったら、すぐにずらかるからどうってことねえよ。まあ、あんたが手間取ったらまずいけどな」
 少し挑発的な物言いだが、先生は冷静に答えた。
「お主がそれでいいと言うのであれば、その策でいこう」
 それから、密偵が付け加える。
「では、私は倉井殿に付いて裏門の兵を引き付けます。首尾よく事が運んだ後は再びこの場に集合ということで」
 全員が頷き、行動を開始した。


 寒空の下、蒼葉は自分の胸を抱え込むように縮こまった。
 ただ待つというのは思いの他つらいものだ。今こうしている間にも二人が傷付いているかもしれない。そう思うと、胸が苦しくて息が詰まりそうだった。
 そうして、どのくらい待っただろうか。
 境内に四つの人影が現れた。
 先頭の者が提灯を持っている。先生たちでない。
 立派な羽織袴を身に付けた侍が四人。先頭の男には見覚えがあった。先日、先生と試合をした一刃流の沼田だ。
 その沼田がこちらに気付いた。
「ん? お主、倉井石の弟子ではないか。そこで何をしておる?」
 道場に来た時と違い表情が冷たい。
 蒼葉は薬箱を抱え、後退りした。
「このような時分ここにいるということは、お主も悪斬り偽善の一味だな?」
「え……!」
 沼田がニヤリと笑う。
「その驚きよう、やはりそうか。教えてやろう、我ら一刃流は豪堂様をお守りするために悪斬り偽善とその一味を討ちにきたのだ。倉井石が偽善に荷担していることは、すでに知れ渡っておる。当然、お主も同罪だ」
 沼田のお共の三人が太刀に手をかける。
 何がどうなっているのかわからないが、じっとしていてはいけないことは確かだ。
 蒼葉は脱兎の如く駆け出した。
「追え!」
 すぐに四人が追いかけてくる。
 一刃流の門弟は成年だけでも五十人以上いる。もし全員が出てきているのだとしたら、一人で街から逃げることはできないだろう。危険だが先生たちのところへ行くしかない。
 蒼葉は死に物狂いで走った。

              
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